チ。―地球の運動について―

魚豊 / 著

『チ。-地球の運動について-』宇宙の真理に魅せられた者たちの系譜

魚豊先生の『チ。-地球の運動について-』は、天動説が主流だった時代に、宇宙の真理に魅せられた者たちが禁忌とされる地動説の研究を託していく物語です。2021年3月30日には3巻が発売されます!

当時の地動説は唱えるだけで罪とされるほどの異端研究でした。地球が宇宙の中心ではないと口にするだけで恐ろしい拷問が待っている社会で、命がけで真理に迫り託していこうとする人々の姿に心打たれます。

12歳で大学合格の天才児

15世紀初頭、優秀で将来を期待されていた学生のラファウは、異端の学者フベルトと出会います。フベルトは天文学の学者で、ラファウに動いているのは星ではなく地球であるという地動説について語り始めます。

もともと天文に興味があり、観測をつづけていたラファウは、異端研究と知りながらもフベルトの説に惹かれていきます。当時、異端者は二度捕まると絶対に死刑になり、協力者も重罪に処されたのです。

12歳で大学に合格するほどの天才児だったラファウは、神学を専攻して教会に従っていれば栄光の道を約束されたようなものでした。しかしラファウはその天才性ゆえに地動説の法則の美しさに気づき、天文学を専攻すると宣言するのでした。

主人公は地球か真理か

本作には明確な主人公がいません。あえていうなら主人公は地球そのものであり、星の運行を表す宇宙の真理かもしれません。万有引力を発見したアイザック・ニュートンは自身の偉業を「巨人の肩に立つ」と表現しました。科学とはまさに、先人の研究成果があってこそ発展してきたものなのです。

地動説にまつわる歴史

ここで地動説にまつわる主な出来事をご紹介しましょう。

1543年

コペルニクスが太陽を中心とした地動説を唱えた書籍のタイトルが「天体の回転について」を発行。

モノの見え方が180度変わってしまうことを表すコペルニクス的転回という言葉は、
コペルニクスの偉業がきっかけで生まれました。この年にコペルニクスは死去しています。

1608年

オランダのメガネ屋、ハンス・リパシューさんが世界で最初の望遠鏡を発明。

1609年

ガリレオ=ガリレイが望遠鏡を制作。月に山や谷(クレーター)があることを発見。

ケプラーが「新天文学」を発表。

1610年

ガリレオが木星に4つの衛星があることを発見。『星界の報告』という書籍を発表。

1616年

ガリレオが最初の宗教裁判にかけられます。

1630年

ケプラー死去。

1632年

ガリレオが「天文対話」をフィレンツェで刊行。

1633年

ガリレオに終身刑を言い渡されます。

1638年

ガリレオが『新科学対話』を刊行。

1642年

ガリレオ死去。

1983年5月9日

ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世がガリレオ=ガリレイに謝罪。

ガリレオが終身刑を言い渡されてから実に350年後に、ガリレオの名誉は回復されたのです。

『チ。-地球の運動について-』は15世紀初頭なので、1400年代初期の物語です。本作が始まってから、コペルニクスの「天体の回転について」まで150年ほどの時間があります。

真理に命を懸けた人々の熱意が世界に認められるまでには、まだまだ多くの年月が必要です。

しかし、小さな個人個人が協力し、未来に研究成果を託してきたことで、ニュートンの言う「巨人」が生まれているのだということが、本作を通じて実感できるのではないでしょうか。

科学者は一人では巨人になれない

チ。―地球の運動について― (全2巻) Kindle版

第3巻は2021年3月30日発売です。予約は今すぐ!

チ。―地球の運動について―(3) (ビッグコミックス)
魚豊/著