図書館の大魔術師

泉光 / 著

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待望の新刊!『図書館の大魔術師』5巻発売を記念してこれまでのあらすじや見どころをふり返ろう

熱いストーリーと数多の名セリフ、美麗すぎる作画、まるでもう一つの人類史が存在するかのような奥深い世界観など、多くの魅力を併せ持つビブリオファンタジー、『図書館の大魔術師(※)』。

「good!アフタヌーン」にて連載中の本作ですが、2021年6月7日に約1年ぶりの新刊が発売されました。ついにこの日この時がやって来た…!

図書館の大魔術師

そこで本記事では、今おさらいしておきたい既刊4巻までのあらすじや見どころをお届けします。待望の5巻をその手に収める前に、改めて本作の魅力をふり返っておきましょう!

(※)単行本の表紙等では『圕の大魔術師』と表記されていますが、本記事ではアフタヌーン公式サイトの表現に合わせています。

1巻のあらすじ

ヒューロン族の小さな村に住む本が大好きな一人の少年。彼は混血による外見の違いや貧民街に住むという環境から、周りから疎外され苦しい日々を過ごしていました。

図書館の大魔術師

そんなある日、本の都「アフツァック」から魔術書の調査として「司書(カフナ)」の一団が村に訪れます。アフツァックの中央圕(としょかん)には大陸中の本が集まると言われ、そこで数多の本を護る彼女らは超難関の試験を勝ち抜いたエリートたち。村を訪れたカフナの1人、セドナとの出会いにより、いつも下を向いて歩いていた少年の物語は少しずつ、そして大きく動き始めます。

1巻の注目ポイント

まるで一本の映画を見終えたような読後感を味わえる1巻ですが、作品を通して考えると1巻全体が本作のプロローグにあたります。セドナと出会い少年が一歩踏み出していく過程、それを1話ではなく1冊まるごと使って丁寧に描くことで、2巻以降の少年の行動や考え方に成長や積み重ねた日々が感じられ、それが共感と説得力を生んでいます。

「主人公」を描く

1巻で描かれるているのは、ありふれた不幸な村人Aが主人公として物語に名を刻む瞬間です。その中で特に注目してほしいのが、少年の名前やタイトルコールが登場するタイミング。一般的なマンガとは大きく異なるその構成が、主人公が主人公である理由をドラマチックに演出し、一つの物語の始まりを強く印象づけています。

図書館の大魔術師

作中作「シャグラザットの冒険」

本作は図書館や書を題材にしているため、作中にも多くの本(作中作)が登場します。その中でも子どもたちに大人気なのが「シャグラザットの冒険」という海賊冒険小説。1巻ではこの作中作を用いたシーンが2か所あるのですが、両場面における「シャグラザットの冒険」の登場人物の顔に注目してみてください。1回目と2回目では描かれ方が変わっており、それが本編の展開ともリンクしています。上記同様、これも少年の変化を印象付ける仕掛けの一つです。

図書館の大魔術師

表紙と作者

『図書館の大魔術師』の世界は、読者がページを開く前から既に始まっています。

表紙を見ると本作には原作があることが明示されており、泉光先生は作画担当となっています。しかし本作の奥付を確認したり原作であるはずの「風のカフナ」で検索してみると、この表記に疑問が出てくるかもしれません。これについてまだ詳細は明かされておらず、今後の注目点の一つです。

図書館の大魔術師

ちなみに各巻の単行本カバーを広げると巻物のように絵が繋がっていきます。「書」を取り扱う本作ならではの仕掛けですが、美しい表紙をテープで止める勇気はなかなかでないかも…?

※この先はストーリー上のネタバレを含みますので、未読の方はここで離脱して1巻を手に取ることを強くおススメします。

図書館の大魔術師(1) (アフタヌーンコミックス)
泉光/著

2巻のあらすじ

セドナと出会って7年後、13歳となったシオは司書試験を受けるためアフツァックへと旅立ちます。

道中には本屋通りの町「イツァムナー」や製紙の街「エスプレオ」などを訪れ、異民族や他の受験者など様々な人と出会うシオ。ついにアフツァックへと辿り着いた彼は、いよいよ始まった司書試験の一次、通称「悪夢の筆記試験」に挑みます。

図書館の大魔術師

2巻の注目ポイント

多様さと複雑さ

シオが村の外に出て様々な街を訪れる中で、この世界における民族や文化の関係性、多様性が少しずつ明らかになっていきます。もちろんそれは良い面だけではなく、差別意識や民族間の衝突など、現実世界と同じく負の側面も多分に含んでいます。

だからこそ、知らないものを知ろうとする姿勢、一歩踏み出すこと、そしてその機会を与えてくれる図書館のような存在がいかに重要か、本作では様々な形で繰り返し伝えてくれます。

図書館の大魔術師

名言製造機ガナン親方

シオの住むアムン村で石工業を営む親方であり、アフツァックへの旅路にも同行するガナン=キアシト。この親方がもう最高過ぎて…2巻、3巻にかけて名言を連発しまくりシオと読者の気持ちをがっつり掴んでいきます。シオの物語が転がり出すきっかけがセドナだったとすれば、その成長を支え続けたのは間違いなくガナン親方。とにかくカッコいいが過ぎる。

図書館の大魔術師

美しい図書館とリアルな司書業務

2巻では各街の図書館や本屋がいくつも登場しますが、建物の造りや図書館と本屋の関係性、1巻で描かれた修復作業など、本作における図書館の仕組みや司書業務の精緻さは現実のものと比べても全く遜色ありません。

さらに詳しく知りたい方は、実際の司書の視点からお仕事マンガとして本作を解説しているこちらの記事ご覧ください。

また泉光先生は連載開始前にオーストリアやトルコに取材で訪れたことを明かしており、本作に登場する図書館は実在する歴史的建築物がモデルになっていると考えられます。

3巻のあらすじ

「悪夢の筆記試験」が終わり、続いて面接や実技試験へと挑むシオたち。実技試験では、少ない手がかりから本のタイトルや年代を割り出す「レファレンス(書物の案内)」を課されます。受験生はそれぞれチームに分かれ、膨大な知識とひらめき、そしてライバルでもあるチームメイトとの協力が必要不可欠な超難題に挑みます。

図書館の大魔術師

さらに試験後、アフツァック散策を楽しんでいたシオはとある事件に遭遇。それは時代の変わり目を予感させる不穏なものでした。

3巻の注目ポイント

物語の中心は人

シオは実技試験で同じチームになったナチカにカフナへの志望理由を痛烈に批判され、試験中もなかなか信頼を得ることができません。それは彼女の勘違いのせいでもありましたが、なにより彼女たち受験生の並々ならぬ覚悟から来るものでした。

図書館の大魔術師

見知らぬライバルたちと人生をかけて争う緊迫感や熾烈さ、その本質は時代や形は変われど不変なのかもしれません。ヒリつく感情やプライドのぶつかり合いは物語の原動力でもあり、その部分をファンタジーで薄めずに丁寧に描いているところも、本作が名作である理由の一つです。

ファンタジー要素もしっかりと

『図書館の大魔術師』は王道とも言えるファンタジー作品ですが、「剣や魔法を駆使した能力バトル」のような典型的ファンタジー描写は意外と少なく、それよりも歴史や文化、思考や行動など、人間の本質に根差した物語が大きな魅力です。しかしそれはファンタジー要素が少ないという意味では全くなく、魔術や精霊は世界の一部として当たり前のように存在しています。3巻からは徐々にその輪郭も見えはじめ、今後はさらにストーリーにも絡んでいくことになるでしょう。

図書館の大魔術師

お姉ちゃんも最高

幼いころから女手一つでシオを育ててきた姉のティファ・スミス。彼女自身は読み書きができませんが、弟の将来を思い一日中働いてシオを学校に通わせていました。強い意志と優しい心を持った彼女が唇を噛みしめながら言葉を絞り出す場面は3巻きっての名シーン。

図書館の大魔術師

一方でその容姿は混血のシオと異なり、また村の外から流れ着いた人物であることなど、その出自やシオとの本当の関係性は謎に包まれています。

4巻のあらすじ

超難関の試験をくぐり抜け、ついにカフナの制服へと袖を通したシオ。中央圕を構成する圕十二室のどこかへ配属が決まるまで、一年間の見習い生活がスタートしますが、将来進むべき道に迷ったり優秀な周囲との差を痛感させられたりと早速壁にぶち当たること。

図書館の大魔術師

同時にシオの人生を大きく変えたあの人ともついに再開。7年の時を経た邂逅は、再びシオにとって大きな転機となるのでしょうか。

4巻の注目ポイント

豊かが過ぎる?個性的な同期たち

肩に鷹乗せてたり一心不乱に毛玉とってたり司書マニア過ぎて自分が司書になっちゃったりと、総勢27名の同期はどこを見渡してもクセのある人物ばかり。その個性と自由さについ気を奪われますが、3巻の事件に関わった人物や「圕の大魔術師」二代目候補もこの中に紛れ込んでおり、にぎやかな同期のやり取りの中にも物語の種が潜んでいるはずです。一人一人の動向や発する言葉、同期同士の関係性など、一挙手一投足が見逃せません。

図書館の大魔術師

表紙と作者2

1巻の時に紹介したように、本作にはそもそもこの物語を書いたのは誰なのか?という根本的な謎があります。4巻ではついにそのキーとなる人物が(原作者と同姓同名のソフィ=シュイムが同期の一人として)登場。しかしこのお方、明らかにアヤシイ人物として描かれており、異質な存在感を放っています。4巻では特に目立った動きはなかったものの、今後物語にどのように絡んでいくのかこちらも要注目です。

図書館の大魔術師

「我々は正義ではない」の重さ

アフツァック中央圕の信念や行いは非常に正しく美しいものに感じますが、少しだけ引っかかる部分もあります。それは、一つの民族・組織による書の独占や支配を防ごうとしている中央圕が、結果としてまさにその張本人になっているのでは、という点。

しかし4巻の演説シーンにおいて、それすら本作の内包するテーマであることが明らかに。中央圕は自分たちが絶対的な正義ではないことを誰よりも理解しており、その上でなお、現状の最善手を尽くすため信念をもって行動しています。

図書館の大魔術師

現在世界が一応の平和を保っているのは間違いなく彼らの働きが大きいですが、一方でそれは危ういバランスの上に立つ仮そめのもの。そしてこのバランスが崩れる時こそ、4巻ラストで登場した「魔王」という言葉の意味や、シオがセドナから預かった例の本の内容が明らかになる時かもしれません。

5巻ではここに注目!

毎回必ず大きな驚きやワクワクを与えてくれる作品だけに、否が応でも新刊への期待は高まります。ここでは新たな展開がありそうなポイントをチェック!

※あくまで予想であり全く言及されない可能性も大いにありますのでご容赦ください。

問題児3人の成長

初めての実力テストで同期との大きな差を見せつけられたシオたち3人。担任であるイシュトア先生との会話でやる気を取り戻したシオですが、その壁は依然恐ろしく高くそびえています。

図書館の大魔術師

今後本格的になっていく見習い生活の中で、壁を乗り越え得意分野を見つけることができるのか。またシオ以外の問題児2人や他の同期など、5巻では見習い生たちのキャラが深堀りされていくのは間違いないでしょう。

謎の同期シンシア=ロウ=テイ

27名の同期のうち一人だけ「訳あって」まだ登場していないシンシア=ロウ=テイという名の少女。彼女は幕間の紹介ページでも後ろを向いており、現時点で詳細は一切不明。姿を表せない理由や生い立ち、シオとの出会い方や関わり合い方など、どう考えても重要人物なだけに5巻での登場に期待大です。

図書館の大魔術師

アムン遠征メンバーとの再会は?

7年前、シオの転機となったアムン村遠征調査。セドナ以外のカフナ3人も当然アフツァックで働いているはずですが、彼女たちが先輩として見習い司書の前に現れることはあるのか。成長したシオを見てどのような反応をするのか。久しぶりにその姿が見てみたい。

図書館の大魔術師

ちなみに明言はされていませんが、渉外室から派遣されていたアンズ=カヴィシマフは シオの同期スモモ=カヴィシマフの母親と思われます。

さらに作品を深く楽しみたい方に

『図書館の大魔術師』の魅力の一つが、その綿密かつ壮大な世界観。人対人、民族対民族の人間ドラマも、しっかりとその世界に歴史や文化が存在しているからこそ真実味が増します。

以下の記事ではその世界観に焦点をあて、シオたちが暮らす舞台やその背景を紹介しています。本誌にはまだ登場していない情報も多く含まれていますので、物語をさらに深く楽しみたい方はぜひチェックしてみてください。

とにかく5巻が楽しみ過ぎる

とにもかくにもお伝えしたいことは、『図書館の大魔術師』は最高だし5巻は楽しみ過ぎる、これに尽きます。

ライトに読んでも隅々まで考察の目を光らせても、ファンタジーの世界にワクワクしても現実に通じる社会的なテーマをくみ取っても、キャラクターでも絵でも設定でも、どんな風に読んでも楽しめてしまう本作。しっかりおさらいして、万全の状態で待望の新刊に備えましょう!

図書館の大魔術師 (全5巻) Kindle版