秒速5センチメートル

新海誠原作 清家雪子漫画

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『秒速5センチメートル』新海誠作品の原点がここに。喪失と再生の物語

本作『秒速5センチメートル』は2016年に公開され社会現象となった『君の名は』、2019年に公開され2019年度興行収入140億円で年間1位に輝いた『天気の子』の監督として知られる新海誠監督により2007年に公開されたアニメーション映画作品のコミカライズです。

空前の大ヒットとなった『君の名は』が公開される9年前の作品ですが、新海誠監督作品ならではの人物描写や、キャラクターが抱える葛藤の描かれ方に儚さ、美しさをひしひしと感じられる内容となっています。

映画版は約1時間、3つの短編からなるストーリーですが、その内容をコミカライズ版では全2巻に渡って丁寧に描かれています。

秒速5センチメートル(1) (アフタヌーンコミックス)
新海誠/著,清家雪子/著

あらすじ

本作の主人公の遠野貴樹は4年生の時に引っ越してきた東京の小学校に通っていました。そこで、同じく親の都合で転校して来た女の子篠原明里と出会います。

秒速5センチメートル

互いに似通った境遇ということもあり、2人は次第に距離を縮め、一緒に過ごす時間が多くなります。

秒速5センチメートル

周囲は仲良さげな2人を冷やかしますが、貴樹は困惑する明里を守ろうと手を取ります。2人の仲が更に加速した瞬間ですね。

秒速5センチメートル

卒業後は同じ中学校へ通おうと約束していた2人。来年も一緒に桜を見たいと笑顔で話す明里。

秒速5センチメートル

しかし、明里はまた父親の都合で栃木へ引っ越すことに。しばらく互いに連絡をすることはありませんでしたが、ある日、明里から手紙が送られてきたことをきっかけに文通を重ねるようになった2人。

しかし、今度は貴樹が鹿児島の中学校に転校することになってしまいます。

このままではもう会えないかも知れない。貴樹は、明里に会いにいく決意を固めます。電車を乗り継いで遠く、東京から栃木まで、明里の待つ駅のホームへと向かいます。

生憎の天候不良で、電車が何度も遅延し、約束の時間から何時間も遅れてしまう貴樹。とっくに予定の待ち合わせ時間は過ぎてしまい、深夜になってやっと辿り着いた駅のホームには、明里の姿が。

秒速5センチメートル

やっと会うことができた安堵からか泣き出す明里。想いが言葉を介さずとも通じ合う瞬間です。

秒速5センチメートル

桜の木の下で、2人。雪が桜の花弁のように、ゆっくりと2人の側に落ちていきます。

秒速5センチメートル

翌朝の、別れ際の駅での明里の一言。

秒速5センチメートル

貴樹の背中を押してくれる励ましの言葉でもあり、この言葉が呪いのようにその後の貴樹を苦しめることになったのかも知れません。

喪失と再生の物語

この作品を筆者なりに解釈すると『喪失感からどう立ち上がるか』がテーマなのではないかと感じました。

主人公の貴樹の中で、明里との思い出は時を経る事に輝きを増していき、日を追うごとに自分を強く縛りつけていきます。歳を重ねても、心はずっと、あの時のまま、あの頃の体温のままで、過去に括り付けられているのです。

誰にでも、耐え難いほどの後悔や、自分の弱さに負けてしまった出来事を過去に抱え、心をえぐられるような想いをしたことがあるのでは無いでしょうか。

その後、貴樹は何人かの女性と付き合うことになりますが、相手に心から気持ちを開く事が出来なくなっていました。結局、理解し合えないまま、別れを告げられることに。

秒速5センチメートル

あんなに好きだった明里のこと。距離が2人を割いてしまったのか。自分がもっと強ければ、こんなことにはならずに済んだのではないか。後悔しない日はない。でも、そんな後悔の感情も自分を形作る一部分なのではないでしょうか。

秒速5センチメートル

自分を許してあげて欲しい

貴樹の抱えていたものが、自分の過ちと呼べるほどのものなのかどうかはわかりません。ただ、叶うのであれば、もし彼が今も苦しんでいるのなら、どうか自分を許してあげて欲しいと伝えたいです。

秒速5センチメートル

共に過ごした時間が限られていても、心が通い合える関係がある一方で、どれだけ時間を重ねても1cmも心の距離を縮めることが出来なかった関係もあるのです。それでも、人を好きになるということを決して人はやめられないのだろうな、とも感じるのです。

秒速5センチメートル

遠い昔に置いて来たはずの、思い出すと切なくて胸がつかえるような痛みと、それでも人を好きになることは尊いことなのだという暖かい感情にも気付かせてくれる、そんな作品です。

秒速5センチメートル(2) (アフタヌーンコミックス)
新海誠/著,清家雪子/著


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