幸せは退屈の中にある。やじまけんじ先生にお聞きした『コッペくん』が気付く日常に輝く小さくても確かなもの

みなさん、おもしろいツイートしてますか?

あ、Twitterを敬遠してるあなたにはごめんなさい。でも、なんでもないことを140文字で空に向かって告白するのも、悪くないんです。

ネタが無いなんて最初から諦める必要は全然無くて、その当たり前が一番幸せで、その日常が一番エキサイトと感じる人は必ずいるはず。その可能性に出会える場がTwitterなんです。

ほら、そう思うとその自分の日々に実は幾つもささやかな発見がぶら下がってて、それに気付くことってもしかしたら幸せなのかな、って思いませんか。目の前に新しく広がったソレを、誰かに伝えたいと思いませんか?

コッペくんは、見つけたソレをお父さんに見せるために、Twitterではなく日記帳に書くことなります。

今回は人生を楽しくする「遊び」の見つけ方を描いた『コッペくん』の作者である、やじまけんじ先生にお話しを伺いました。

やじまけんじ先生とは

やじま けんじ先生:2017年からTwitterにマンガを掲載開始。2019年7月よりコルクインディーズに所属。2019年8月に初の単行本である『コッペくんとしんぱいいぬ』、2020年に『猫のおふくちゃん』を発売。2020年4月にLINEマンガにて『コッペくん』を連載開始。

やじま けんじ先生は、『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』など数々のヒット作を担当した名編集者、佐渡島庸平(さどしま ようへい)氏(※)が立ち上げた作家エージェント会社コルクに所属している、新人マンガ家です。

※佐渡島庸平氏:『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『ドラゴン桜』(三田紀)など数多くの編集を担当。2012年に講談社を退社し、コルクを設立。

名編集者・佐渡島氏をして「この二人が世界を変える 」と太鼓判を押す2名のマンガ家こそ、本インタビューでお話を伺ったやじま けんじ先生つのだ ふむ先生です。

今回、4月20日のLINEマンガでの連載を前に、連載実現までの苦労や作品誕生秘話などについてお伺いしまた。作品を「チームでつくる」というお話しにはきっと驚かれるでしょう。

👉つのだ ふむ先生のインタビューを読む!

第一話のネームは羽賀翔一先生

いよいよ、LINEにて連載が始まりますね。いまはどんなお気持ちですか?

率直に、はやく読んでほしいです。

この連載は、準備期間がすごく長かったんです。一昨年の10月頃からですね。だから「やっと読んでもらえる!」という気持ちです。

実は第1話のネームは『君たちはどう生きるか』羽賀翔一先生が描いてくれたんです。

羽賀さんに描いてもらう前に第1話だけで50回以上描きなおしてたんですが、それでもできなくて悩んでいたところ、佐渡島さんが羽賀さんに相談して、僕の描きたい意図を汲んだうえでその内容を見事に落とし込んだ1話を描いてくれたんです。

そのネームはほぼ1発OKでした。笑

なかなか佐渡島さんのGOサインが出ないんですね...。

ダメ出しが続いていたのは自己観察がまだ浅く、自分自身でも描きたいものがわからないこと(※)が一番の理由だったと思います。

今でもわかりきっているわけではありませんが、自分でも「何が描きたいか」がわからなかったんです。

それが描くごとにちょっとずつわかってきて、今の形になったんです。

※自己観察について詳しくはこちら:佐渡島庸平氏のnote「自己認識を深める鏡の探し方」

人生を楽しくする「遊び」の見つけ方

『コッペくん』は、どんなお話ですか?

タイトルの『コッペくん』は、主人公であるクマの名前です。冒険家であるお父さんから、旅立ちの前に日記帳を渡され、「帰ってきたら、お互いの日記を見せ合おう」と約束するんです。

ところが、コッペくんは悩んでしまいます。「日記に書くような、冒険っぽいことが起きない!」と。このマンガは、そんな「日々を、退屈に感じている」主人公のお話です。

「日記に書くことがない」っていう気持ち、よく分かります!今なら、「ツイッターでつぶやくネタがない」という感じでしょうか...

そうですね。日常が退屈に感じるのは、自分の周りをよくみていないからだったりするなあ、と思ったんです。

知らない間に近所に知らないお店が出来てたり、知ってると思ってた人に意外な一面があったりすることってないですか。僕はそういう時ってなんだか楽しいと思うんです。

そのことについて佐渡島さんと話していたところ、

村上春樹は自分の周りにある小さいけれど確かな幸せ、“小確幸”をみつけることが大事だと言っていた」と教えてくれたんです。

いい加減で思いこみが強くて人の話をきかない

コッペくんとやじま先生に、共通点はありますか?

いい加減で思い込みが強くて、人の話を聞かないところが同じです(笑)。

そうなんですね!昨年発売された『コッペくんとしんぱいいぬ』(※)ではそんな感じはしなかったです。

※『コッペくんとしんぱいいぬ』』 2019年8月に発売された、やじま先生初の単行本。かわいいけれど憎たらしい「コッペくん」と、日常のささいなことを大げさに心配する様がやみつきになる「しんぱいいぬ」を一冊に集約。

『コッぺくんとしんぱいいぬ』の時は、世界観を自分自身が正しく理解できていなかったんです。何度もネームを描きなおしてコッぺくんと何度も対話して深めていくことによって、「実はコッペくんってこういう子だったんだ」と、ちょっとずつ世界観の理解を深めていっています。今ではコッぺくんロコくんリアルの友だちのように存在感があるので、友だちの話を聞くような気持ちで楽しんだりしょうがねえなあ、と思ってもらえたら嬉しいです。

気持ちをこめた、感情を伝えやすいデザインにしました

昨年の8月に単行本が発売された『コッペくんとしんぱいいぬ』と今回の連載では、変わったところはありますか?

色々とありますが、特に主人公のコッぺくんキャラクターデザインが、大きく変わりました。一番最初のコッぺくんは、そもそものデザインを手癖で描き始めてしまっていたので、気持ちや意味をこめられたものに変えました。頭の寝ぐせや顔のパーツにもキャラクターとしての意味がある。そして、良いデザインというのは造形の意味があれば子供でもかける真似しやすい造形になっていくのだと思いました。元のデザインはシンプル過ぎて、他の人には描きづらい。

(単行本『コッペくんとしんぱいいぬ』より)

シンプルだと、逆に難しいんですね!

そうなんです。構成要素が少ないと、僕の描くバランス次第になってしまうので...。今回はコッペくんの構成要素がかなり増えました。例えばお子さんがお母さんに「コッぺくん描いて」と言われたときにかなり描きやすくなったと思います。笑

デザインは、元・任天堂デザイナー前田デザイン室を主宰している前田高志さん@MaedaDesignRoom)がしています。

新しいコッペくんは、前田高志さんによるデザインなんですね!

はい、僕は今後はマンガを「チームでつくる」ことも増えていくと思っています。

第一話のネームを、羽賀先生が描いてくれているのもそうですね。あとは、佐渡島さんが編集を担当しているマンガ家同士で「ラッキーズ」というチームも結成していて、お互いにアイデアを出し合っています。自分の本当に書きたいところからズレさえしなければ、誰かのアイデアも積極的に取り入れます。いろんな専門性が混ざったり、教えあったりすりことで、おもしろいものができると感じています。

マンガとの出会いもまた、確かな幸せ

アルの読者にメッセージをお願いできますか?

アルって、おすすめ機能が充実していますよね。コマ投稿機能とか、ジャンル別に探せたりとか。数珠つなぎで作品に出会える。『コッペくん』を見かけたら、ぜひ読んでほしいなと思います。

おもしろいマンガはたくさんあるので、あとは「これだ!」という作品を見つけるだけなんですよね。『コッペくん』で描かれている、日常の中の輝きとの出会いと似ています。

ありがとうございます。読者さんにとって、そんな作品になれたら嬉しいです。

あとがき

ツイッターなどの自己発信をするときに、「ネタがない!」は常につきまとう問題でした。でも、自分が退屈だと思っていた日常、実は細かなイベントで溢れていたんですね。
マンガ制作の過程も面白く話してくれたやじま先生に、日常を見るヒントを教わりました。

日々の解像度を高くしてくれる『コッペくん』に注目です!


👉2020年4月20日からLINEマンガにて連載中の『コッペくん』を読む!

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👉つのだ ふむ先生『りさこのルール』のインタビューはこちら

©Kenji yajima/CORK


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