2020年1月に発表された、子どもになってほしい職業ランキング1位は「経営者」でした。その背景には、世の中をリードしていく職業を目指してほしいという親の願いが少なからずあるのでしょう。
“自分の子どもがどのような人に育つのか”
これはお子さんを持つ方なら一度はぶつかる疑問だと思います。
そして、『かしこくて勇気ある子ども』にも生まれてくる我が子へ同じような疑問を持つ夫婦がいました。
生まれてくる我が子に何ができるだろう?
妻が第一子を妊娠し、新しい生命の誕生に幸せを噛み締める1組の夫婦。
生まれてくる我が子のために準備を進める夫婦でしたが、いつしか「どんな子に育つのか?」という話題に。
ある日、雑誌で目にした”世界で活躍する子供”という特集をきっかけに、夫婦たちは「かしこくて勇気ある子ども」に育てば明るい未来が訪れると信じるようになりました。
けれど、妊娠後期に差し掛かった頃、ある少女の身に起きたショッキングなニュースが流れてきました。
それは、”世界で活躍する子供”として紹介されていたマララ・ユスフザイが、下校途中に武装勢力に襲われ重症を負ったと言う内容でした。
マララ・ユスフザイは、過酷な環境にも屈せず子どもたちにとっての教育の大切さを訴え続けてきたまさに「かしこくて勇気ある子ども」でした。
自分が信じて疑わなかった、かしこくて勇気ある子どもに育てば明るい未来が訪れると言う希望が崩れた時、妻は激しく動揺し絶望します。
これから生まれてくる我が子のために、我が子が明るい未来を歩むために、自分たちは何ができるのか...。
1組の夫婦が出した結論は優しくて温かい、そしてとても希望があるものでした。
柔らかく繊細な色鉛筆で描く、幸福と不安
作者は、マンガ作家・筑波大学芸術系の助教として活躍する山本美希先生。
思春期の少女の成長と葛藤を描いた無声マンガ『爆弾にリボン』を発表し、2011年にマンガ作家としてデビューを果たしました。
2012年には、『Sunny Sunny Ann!』で車上生活をしながら旅を続ける女性を描き、第17回手塚治虫文化賞新生賞を受賞しました。
『爆弾にリボン』『Sunny Sunny Ann!』ではモノクロで女性の細やかな心情を描きましたが、『かしこくて勇気ある子ども』は柔らかく繊細な色鉛筆で描かれています。
我が子を授かった時の、言葉にできない胸いっぱいの幸福感。
そして、時に残酷で不安定なこの世界で、愛する我が子を育てていくことの不安。
それらをセリフではなく、色鉛筆ならではの情感に溢れるタッチで私たちに訴えかけてきます。
今を生きる私たちだから
2020年...。新型コロナウイルスによる未曾有の事態。
世界ではイデオロギーの衝突が過激を極め、自由の意味を問う事件が頻発しています。世界の不安定さや不条理は今も何処かで続いているのです。
『かしこくて勇気ある子ども』は、そんな世界に子どもたちを送り出す覚悟。
そして、子どもたちを迎える私たち大人が今できることを、改めて考えさせてくれます。