この男、刑事に非ず
「お前のやったことは全部お見通しだ!」
表紙に描かれた男からそんな懐かしのドラマの名台詞が聞こえてきそうだ。鋭く刺す様な視線を放つこの男の名前は花田義太郎(はなだよしたろう)。
「刑事」であると同時に「刑事じゃない“何か”」である。
「刑事じゃない」花田の姿
暴対法によりヤクザの立場が弱まった代わりに、ヤクザを破門された組や半グレ集団の犯罪が横行するようになった東京の新宿中央警察署から物語が始まる。
芸能事務所の社長に強姦容疑があるものの、総務大臣の息子という理由で逮捕から逃れようとするのを花田は阻止する。飄々としている男の手腕は実に派手で爽快感があり思わずニヤリと笑みが浮かんでしまった。万青会(ばんせいかい)の若頭・鉄路朗(てつみちあきら)と手を組み情報を獲得していたのである。
第1話以降も同様の構図で事件を解決していくのだが、花田の洞察力や解決方法は読んでいてカタルシスを与えてくれる。風俗嬢であるという理由で真剣に捜査をしてもらえない強姦被害者。薬物中毒者の父から虐待を受けている男子中学生。
様々な事情がありながら悲鳴が誰にも届かない犠牲者を花田は鉄路と共に救う。
個人的に印象が強いのは男子中学生のエピソードである。
父親の命令で酒を万引きしようとした中学生・髙人(たかひと)を鉄路が庇った後に、部下の構成員達が自分達の被虐エピソードを談笑してしばらくして沈黙が広がるシーンだ。この描写があるからこそ普段の花田のひょうきんさが隠している奥底の信念が浮き彫りになり、より魅力的に感じるのではないだろうか。
花田の言動の真意が今後明らかになっていくだろうという期待も湧いてくる。
花田の先輩・三木元は何を思うか
「あの男、花田義太郎は刑事じゃない“何か”だ。」
本編でそう口にしたのは花田の先輩・三木元司(みきもとつかさ)。
彼の父親は警視監であり、政治家が事件を起こしたら揉消しに協力して自分の有利な方向へ持っていこうとする狡猾さがある。
そんな父の背中を素直に追う事も、花田の様な我が道を行く事も出来ずにいるの葛藤する姿もこの作品の魅力の一つだ。
現実に花田はいないが
「デカニアラズ」のカタルシスに浸りきってから顔を上げて現実に向き合うと、警察による目を覆いたくなる不祥事のニュースに直面する場面がしばしばある。
現実に花田はいない。
しかし、自身の心の中に花田がいて、あの鋭い視線で常に自身の言動を見透かしているのではないだろうか。
そう襟を正したくなる気持ちにさせる作品である。