時に、真実とは残酷なものです。都合のいい解釈で自分の心を誤魔化したことはありませんか。そんな心の弱さが出てきたら『ロジカとラッカセイ』を読んでみてください。
『ロジカとラッカセイ』はストーリーテラー紀ノ目先生が描く、優しくもほんのりダークなSFファンタジーです。大人向けの絵本のようなマンガで、その物語にときどきハッとさせられます。
『ロジカとラッカセイ』とはどんな物語なのか
舞台は地球…だった星。遥か昔、人類は大きな争いの中で巨人という生物兵器を生み出してしまいました。兵器がもたらす災厄に耐えきれなくなった人類は、対巨人兵器C3を観測者として地球に残し、宇宙へと逃げ出します。
時が経ち、脅威の力が静まったあと地球は少しずつ生命を取り戻しました。
とある流星群の夜。ロケットに乗って星空から落ちてきた小さな赤ちゃんを発見したロジカとしーさん。ロジカは育ての親になることを決意し、その赤子を空から「落下してきた星」にちなんでラッカセイ(ラッカ)と名付けます。
この作品は、人類が滅んだ地球でロジカとラッカセイと人外たちが静かに暮らす物語です。デフォルメチックなキャラクターと美しい景色のコントラストに心奪われます。
独創的なキャラクターたち
人でないもの(人外)が好きだという紀ノ目先生。先生が描く独創的なキャラクターたちは、バケモノのような恐ろしさとは程遠く、愛嬌たっぷりで親しみ溢れる可愛らしさが特徴的です。
ロジカ(ラッカセイの育ての親)
出会ったその瞬間、ロジカを育てることを決めた不思議な生き物。ラッカセイが大好き。
しーさん
人類が希望を託した兵器(C3)。地球に残る13体の巨人の残りを探して放浪している。体巨人観測器であるとともにロジカとラッカセイの良き友人。
アイザック
謎を独自に調査する博識な若き研究者。
マシュー
旦那さんに一途な恋心を寄せ続けるおばあちゃん。
そのほかにも、独特な容姿・性格のキャラクターたちが登場します。紀ノ目先生が生み出した唯一無二のキャラクターたちはこの作品の魅力と言えます。
ユーモア溢れる物語に、ときどき潜むブラックな問い
ゆるカワ系のキャラクターたちが活躍する絵本のような癒しのマンガですが、その一方『ロジカとラッカセイ』には冒頭でもお伝えした通り、時に残酷な側面を描き、読者に対し真実とは何かを問いかける衝撃的でブラックな一面もあり、そのメリハリが楽しい作品となっています。
それを象徴する物語を一つご紹介しましょう。
「マシューさんのアップルパイ」が問いかける本当の幸せとは何か
ロジカとラッカセイの家にアップルパイを持ってきてくれたマシューさん。
そこで二人は、会ったことがないマシューの旦那さんに興味が湧いてきます。唯一、彼に会ったことがあるというしーさんによると、旦那さんはとても美しい人だったそうです。俄然、好奇心を刺激された二人は会いに行くことに。
そこで出会った旦那さんの姿に二人は言葉を失います。
帰り道、しーさんに問いただすと彼の口から真実が語られました。
旦那さんはプラント族という短命の種族で、マシューさんとは異種族結婚となるため猛反対のなかを駆け落ちしたのだそうです。20年も生きられない旦那さんが今、生きているはずがないと。
深くは語られませんが、マシューさんは生命維持装置のようなもので旦那さんを生かしていたのです。彼女は心の底から旦那さんを愛し、共に生き永らえることを望んだのでしょう。
この状況を旦那さんが本当に望んだのか今となっては聞くすべもありません。しかし、旦那さんが発信する思考の信号だけが真実を物語っているのです。
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話すことが叶わない旦那さんが、唯一繰り返し発信することのできる意思を形にしたものです。これは我々の現実世界におけるモールス信号に酷似していると思いませんか?
そこで、筆者は和文モールス符号表を頼りに解読を試みました。
導き出されたのは
コロシテ
という4文字の繰り返し。
ロジカとラッカセイが暮らす世界には、この記号を解読し旦那さんの意思を受け取ることができる存在がいないのです。
ロジカだけが違和感を抱きます。本当の幸せは誰にとってのものなのか。それが他の誰かにとっても同じものだとは限らない。そんなメッセージが込められているように思えてなりません。
真実から目をそらさない勇気
氾濫する情報や負の感情に溺れてしまい大切なことを見失いそうだと感じた時、『ロジカとラッカセイ』を読んでみてください。この作品はそんなあなたにとって温かくも厳しい真実を突きつけて来るかもしれません。それでも、きっと彼らがあなたに勇気を与えてくれることでしょう。
3巻で完結しており、短編連作のため読みやすくてオススメです。
🌠気になった方は試し読みをオススメ!