十角館の殺人

綾辻行人 / 原作 清原紘 / 漫画

『十角館の殺人』無人島での連続殺人事件。死体の左腕はどこへ行ったのか?

1987年に刊行された綾辻行人先生のデビュー作『十角館の殺人』を清原紘先生がコミカライズした本作は、凄惨な連続殺人事件のあった無人島を舞台にしたミステリです。

ミステリ研究会(ミス研)の大学生たちは無人島を訪れます。しかし、その夜、メンバーの一人が無残にも殺害。さらに第一の被害者はこの島でかつて起こった殺人事件と同様に、左腕が切り取られていたのです。

あらすじ

半年前に角島で謎の四重殺人事件が発生。この島に残る十角館をヴァンの伯父が手に入れ、ミス研の七人で一週間の角島滞在ツアーを敢行することになりました。この島は携帯も圏外で、迎えが来るまでは誰も外に出ることはできません。

翌朝、メンバーが目を覚ますと、ホールのテーブルの上には「第一の被害者」「第二の被害者」「第三の被害者」「第四の被害者」「第五の被害者」「探偵」「殺人犯」の7枚のプレートが置かれていました。

事件年表

2017年1月

ミス研のメンバーであり、中村青司の娘である中村千織が船の転覆事故で死亡。このミス研のクルージング会には、江南と守須は所用があって参加していませんでした。

2017年9月20日頃(今から半年前)

角島の中村青司邸、通称・青屋敷で、中村青司とその夫人・和枝、住み込みの使用人夫婦の計四人の遺体が、全焼した邸宅から発見。使用人夫婦は斧による撲殺、和枝は首を絞められて窒息死、青司は全身に灯油をかけられて焼死していました。中でも夫人の遺体は左手首から先を刃物で切り取られており、その手首はどこからも発見されていません。犯人は事件以来、姿が見えない庭師の吉川誠一ではないかと言われています。

現在(2018年3月21日頃)

ミス研メンバーのもとに中村青司から謎の手紙が届くとともに、ミス研メンバーは3月21日に角島ツアーに出発。

登場人物

【ミステリ研究会 / 角島ツアー参加組】

K**大学のミステリ研究会では、ミステリの偉大な作家たちの名前をニックネームとして襲名し、お互いを呼び合う習慣があります。

エラリイ(エラリイ・クイーン)

アメリカで活躍した推理作家でフレデリック・ダネイとマンフレッド・B・リイの従兄弟による合同ペンネーム。推理作家兼名探偵としてエラリィ・クイーンが作中で活躍するシリーズも。
ミス研のエラリイは法学部の三回生で手品が得意。

ルルウ(ガストン・ルルウ)

フランスの小説家で『オペラ座の怪人』の作者。アルセーヌ・ルパンの生みの親モーリス・ルブランと並んでフランスの推理小説創世記に愛された作家です。
ミス研のルルウは文学部の二回生で会誌『死人島(しびとじま)』の新編集長。今回のツアーでもメンバーに孤島の連続殺人をテーマに作品を書かせようと、はりきって大量の原稿用紙を持ってきていました。

アガサ(アガサ・クリスティ)

イギリスの推理作家でミステリの女王の異名を持つ。エルキュール・ポワロやミス・マープルなどの名探偵を生み出したほか、『そして誰もいなくなった』など数多くの名作を執筆。
ミス研のアガサは薬学部の三回生。明るい性格でファッション好き。

ヴァン(S・S・ヴァン・ダイン)

アメリカの推理作家。大病を患って療養中に2000冊の推理小説を読破。『ベンスン殺人事件』や『カナリヤ殺人事件』が有名。
ミス研のヴァンは理学部の三回生。真面目で落ち着いた性格。角島に着いてから風邪を引いて熱を出していました。

カー(ジョン・ディクスン・カー)

アメリカの推理作家。密室トリックを用いた作品が得意で、不可能犯罪の巨匠と呼ばれて代います。代表作は『帽子収集狂事件』や『夜歩く』など。
ミス研のカーは法学部三回生でエラリイの幼なじみ。アガサに告白して振られています。

ポウ(エドガー・アラン・ポウ)

アメリカの作家で、日本の推理作家・江戸川乱歩の筆名はポウから。殺人事件がなぜ起こり、犯人は誰かを論理的に展開する謎解きの形式を生み出した初めての作家で、近代的な推理小説の生みの親とされています。代表作は『モルグ街の殺人』『黒猫』『黄金虫』。
ミス研のポウは医学部の四回生。老け顔でミス研ではリーダー的存在。オルツィとは幼なじみ。

オルツィ(バロネス・オルツィ)

ハンガリー出身の作家。室内にいたまま情報のみで事件を推理する安楽椅子探偵。その元祖と言われる『隅の老人』は、シャーロック・ホームズのライバルとも呼ばれています。
ミス研のオルツィは文学部の二回生。内向的な性格で眼鏡は伊達。

【その他の登場人物】

江南(かわみなみ)あきら

元ミステリ研究会のメンバー。ミス研にいた時にはドイルと呼ばれていました。ドイルはシャーロック・ホームズの作者コナン・ドイルのことです。千織の死の後に居心地が悪くなり、ミス研を退会。後述の島田にコナンくんと呼ばれています。

守須(もりす)

ミステリ研究会のメンバー。絵を描くのが好き。角島ツアーに誘われていましたが悪趣味だと考えて不参加。ホームズとセットで語られることの多い怪盗アルセーヌ・ルパンの作者の名前がモーリス・ルブランと言います。

中村紅次郎(こうじろう)

中村青司の弟。差出人・中村青司から「千織は殺されたのだ。」という手紙を受け取っています。

島田潔(きよし)

中村紅次郎の友人で実家は寺。青司一家が殺害された時に紅次郎と一緒にいた人物。

吉川政子(まさこ)

庭師の吉川の妻。

合わせて楽しむ豆知識

本書に登場するキーワードで、知っておくと物語がさらに深まる豆知識をご紹介します。

[ ハートの4 ]

ハリウッドを舞台にしたエラリイ・クイーンの推理小説のタイトルです。

[ 気をつけて、もう始まってるかもしれない ]

綾辻行人先生の学園ミステリ『Another』に出てくるセリフです。

[ 海に流された犯行計画の書かれた紙の入った瓶 ]

犯行計画を瓶に入れて海に流す手法は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』に出てくる方法です。犯人がまったく分からないまま、事件の関係者が全員亡くなってしまうのですが、この告白文によって事件の全貌が暴かれることになります。

[ 顔のない死体 ]

金田一耕助シリーズを描いた小説家・横溝正史が分類した推理小説の三大トリックと呼ばれるものの一つです。顔を判別できないようにすることで被害者を誤認させたり、遺体をバラバラにすることで運びやすくしたりするなど、死体加工によるトリックのこと。三大トリックは他に「一人二役」「密室殺人」があります。

散りばめられた謎

千織の死に不審な点はあるのでしょうか。また、中村一家の四重殺人と今回の事件との関係性は。そして切り取られた左腕の行方は。登場人物の服装や持ち物、作中に出てくる小物などに注目しながら、ぜひあなたも犯人を推理してみてください!

美麗絵で綴られる極上ミステリをどうぞ

十角館の殺人(2) (アフタヌーンコミックス)
綾辻行人/著,清原紘/その他