君に会えたら何て言おう

ねむようこ / 著

『君に会えたら何て言おう』君に会うまでの十月十日の物語

いつもエコー越しに見ていた君。お腹越しに話しかけていた君。会えたら何て言おう。

出産経験者や妊娠中の人は「わかる!!」と頷くこと必須、これから妊娠・出産を考えている人には十月十日のことが学べる『君に会えたら何て言おう』。ねむようこ先生の実体験をもとに、第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の審査委員会推薦作品にも選出された妊娠・出産をテーマに女性の葛藤や夫婦の成長を描いたマンガです。

「子どもは欲しい?欲しくない?」どんな答えをだす?

30歳を少し過ぎたフリーランスとして働くキリと、先生をしている35歳のむっちゃん夫婦。結婚してもう何年か経ち、周りから「子どもは?」とは聞かれなくなってきたけれど、考えないわけではない。

「子どもは欲しいのか。欲しくないのか。」

おめでたい報せを受けるたびにその決断を迫られているように感じるキリと、どこか他人事のむっちゃん。女性と男性の妊娠・出産に対する悩みの深さの違いが浮き彫りになるところから物語ははじまっていきます。

妊娠発覚!!そこから時間をかけて親になっていく

明確な答えは出せない。でも、排卵日予測検査薬を買うことで一歩踏み出すキリ。その後すぐに妊娠が発覚するのです。

病院へ行き胎嚢を見るも、「本当にここにいるのかな?」真っ黒い胎嚢のエコー写真を見てそんな風に思うキリと、妊娠中妊婦が食べられないものを全く気にせず買おうとするむっちゃん。

妊娠してもすぐには実感が湧かない二人。

妊婦検診や日々の変化を通じてだんだんと実感が湧いてくるキリと、まだまだ実感が伴わないむっちゃんの対比に、妊娠を経験した女性であれば「そうそう!!」と何度も頷いてしまうはず。

妊娠したことで初めて知ること、コントロールできない感情、マイナートラブル。様々な変化に戸惑うキリは、そのことを分かってくれないむっちゃんに怒りをぶつけます。二人がぶつかり合いながらも乗り越えていく姿に、時間をかけて親になっていくということに気づかされます。

女性同士だからこその感情や葛藤に共感!

『君に会えたら何て言おう』には様々な女性が出てきます。

同世代で環境も似ている戦友のような友人。出産予定日が同時期の妊婦。子宮の病気で手術をする母親。

妊娠・出産は人生における大きなターニングポイントでありデリケートな話題でもあります。女性同士だからこそ、同じような境遇だからこそ湧いてくる特有の感情や葛藤にモヤモヤしてしまうものです。

「この世の全ての妊婦さんが幸せになりますように。」

女性同士だから分かり合えること、女性同士でも分かり合えないことがありますが、キリがそう願うシーンに多くの人が救われるはず。

ごくごく普通の人の、とてつもなく特別な物語

妊娠から出産までを一巻完結で描いているので、さらりと一気に読めてしまいます。大変だった話が語られることが多い妊娠・出産ですが、『君に会えたら何て言おう』では、不妊治療やハイリスク妊娠などの話は出てこず、ごくごく普通の夫婦の話しが描かれています。それこそがこのマンガの一番の魅力です。

ねむ先生も「ごくごく普通の人の普通の、だけどとてつもなく不安で特別な命のやり取りの物語です。」と語っています。

大きな問題やトラブルがなかったとしても、妊娠・出産への悩みや不安は尽きません。そしてどの妊娠・出産も特別で、命のやり取りをする奇跡であることがじんわり伝わってきます。

ねむ先生の実体験をもとに書かれているからこそ伝わってくる、君に会えるまでの十月十日の物語。悩める女性たちの背中を優しく押してくれる作品です。

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ねむようこ/著