安藤ゆき先生の『地図にない場所』は、中学一年生の土屋悠人が、30歳で引退したバレリーナの琥珀(コハク)に出会い、2人で地図にない場所を探し始める物語です。
年が倍以上離れて世代も違う2人が、同時に、でも少し違う意味合いで人生終わったと感じ、一緒に町を歩きながらそれぞれ何を見つけるのか、とても気になる作品です。
自分より終わったやつが見たい
三人兄弟の次男に生まれた悠人は、優秀な兄・聡太、イケメンの弟・翔真と比べられる生活の中、学校にもうまく馴染めずにいました。努力しても追いつけない人たちに囲まれ、悠人は徐々に、自分の人生はすでに終わっているのかもと考えるようになります。
「町田くんの世界」安藤ゆき、“人生終わった”2人を描く「地図にない場所」1巻https://t.co/HPWA2IR8Jk pic.twitter.com/EH4Sfa6fi6— コミックナタリー (@comic_natalie) November 30, 2020
そんな中、悠人は世界的バレリーナの宮本琥珀が怪我で引退したというニュースをテレビで見かけます。彼女は母親を亡くしたばかりで、引退後は悠人の隣に引っ越してきました。
俺より、終わってそうなやつが見たい。(1巻28ページ)
30歳独身で職を失ったなんて、自分より人生終わってそうだと考え、悠人は回覧板を持って、彼女の部屋のインターホンを押すのでした。
全てのエネルギーをバレエに捧げた女性
引退して天涯孤独の身となったはずのコハクは、悠人の予想と違って落ち込んだ様子もなく、雑然とした部屋で軽やかに生きていました。
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トップバレリーナだったコハクは、母親のためにバレエ以外のすべてを捨て、才能以上のことをやっていたと悠人に話します。部屋の片付けも料理もできないコハクの家は散らかり放題でした。それでも彼女は、今までやってこなかったバレエ以外のことをしたいと言い、慣れない手つきで家事をやろうとします。
コハクは大人なのですが、心が無垢な赤子のようなのです。初めてバレエ以外の世界を知り、世界の全てに好奇心をもって見つめているみたいで。彼女のそういう純粋な人間性にとても惹かれます。
地図にない場所を探しに
人生がひとつ終わったみたいな感じと話すコハクは「地図にない場所」のことを悠人に聞きます。「地図にない場所」はイズコと呼ばれていて、さまざまな世代で語られる都市伝説のようなものでした。数日後、悠人はコハクに、一緒にイズコを探しに行こうと提案します。
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人生の終わりは人生の始まり
人生終わりだと感じていた悠人と、人生がひとつ終わったみたいと感じているコハク。『地図にない場所』は、他者との比較の中で悩みながら生きていた少年と、比較の中でトップだった女性の物語です。2人が探し始めた「地図にない場所」はまるで、比較の世界から抜け出した自分の生き方を象徴しているかのようです。
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琥珀が問う“地図にない場所”とは?
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将来の夢がないという若者が増えてきているという話があります。やりたいことや、なりたいことがなければ生きられないわけではありません。2人がやみくもに「地図にない場所」を探して歩く姿は、とても尊く見えます。
夢や生き方、人生の意味を探して歩く過程は、それだけで素晴らしいんじゃないかと感じさせてくれる物語なので、ぜひ一度読んでみてください!