怪獣になったゲイ

ミナモトカズキ / 著

『怪獣になったゲイ』心を揺さぶられる衝撃作!変わりたいと願った少年がたどり着いた答えとは

ゲイじゃない何かになりたいと願った高校生が怪獣になってしまう衝撃的な物語『怪獣になったゲイ』がBEAM COMIXより発売中です!

ありのままの自分を愛してもらえない絶望と苦しみ、偏見や自身の性的指向との間で葛藤する高校生たちを痛烈に描いた本作。

作者であるミナモトカズキ先生が約3年半もの間、同人誌として発行されていた作品がついに1冊の単行本になりました。

全1巻とは思えないほどの重厚な内容と胸に刺さる描写の数々。物語を通して自分自身の在り方を今一度考えさせられます。

愛する人に否定され怪獣になってしまった高校生

南の島に住んでいた安良城貴(あらしろたかし)は中学卒業後、親の転勤で東京の高校へ進学。

そこで、同じクラスのヤンキー成瀬純平(なるせじゅんぺい)に目をつけられてしまい、いじめを受けます。

ずだずだに傷つけられた机、いつの間にかどこかへ隠されている私物の数々…毎日ひどい扱いを受けてもなお、安良城を学校に繋ぎとめていたのは担任である黒田先生の存在でした。

黒田先生は安良城が密かに想いを寄せている人。孤立している安良城にも分けてだてなく接し、温かい言葉をかけてくれる先生に心を救われていました。

物語の冒頭、安良城は職員室から聞こえた黒田先生の何気ない会話からある衝撃的な言葉を耳にします。

やっぱり男が男を好きっつーのは 生理的に厳しいっつうか…お近づきにはなりたくないもんな~

引用元:怪獣になったゲイ

大好きな黒田先生がゲイに偏見を持っていたことを知り、ショックを受ける安良城。

また愛する人に否定されてしまったことから、ゲイである自分を受け入れられない状態に陥ります。

唯一の心の支えを失い、生きる意味をも見失った安良城は、希死念慮に襲われ自分の首に手をかけますが…

死ねないならせめて…ゲイじゃない何かになりたい

引用元:怪獣になったゲイ

そう願った途端、ビキッという不穏な音が。

ふと我に返り、外に出ると出会い頭に腰を抜かすクラスメイトの姿。不思議に思い、鏡を見るとそこには頭部のみが怪獣に変化した自分自身が映っていたのでした。

こうして怪獣になった安良城の新たな学校生活が幕を開けます。

モノローグで綴られる主人公の葛藤

予想外の衝撃的な展開に目を奪われる本作ですが、筆者は安良城の繊細な心理描写が綴られたモノローグに心を揺さぶられました。

黒田先生や周囲に傷つけられて本来の自分を見失っていく安良城の様子が、モノローグを通して痛烈に描かれており、読んでいて胸に迫るものがあります。

例えば怪獣になってしまった直後、不安を吐露する安良城に対し、全身全霊で受け入れると宣言した黒田先生との会話シーン。

以前と同じようにかけられたはずの温かい言葉に対し、安良城は不信感を募らせます。

だって僕 今のクソみたいな言葉でも……嬉しい なんて 思っちゃったんだから

引用元:怪獣になったゲイ

悪態をつきながらも、少し嬉しいと感じてしまう安良城。

とはいえ、傷つけられた心はそれを許しません。安良城はお礼を述べた直後、黒田先生を試すかのような発言を口にします。

僕が怪獣になったゲイでも 好きでいてくれるんですもんね

引用元:怪獣になったゲイ

固まる黒田先生。同じく固まる生徒たち。

怪獣になる前では考えられなかった反応に、手ごたえを感じた安良城。

いつしか黒田先生や周囲に対して、試すような言葉を投げかけたり、相手を絶望させるような発言を繰り返すようになっていきます。

安良城の中に生まれた歪んだ感情。激しい衝動に飲まれながらも、時折見せる真っすぐで強い気持ちに、彼の生き方に対する迷いや葛藤が見えて切なくなります。

安良城は偏見を持つ黒田先生に対して、ゲイである自分と心から向き合って欲しいと願っています。しかしその思いはなかなか届かず、生まれてくるのは黒い気持ちばかり。

誰にも理解してもらえない中で自分の気持ちとどうのように向き合い、生きていけばいいのか。

安良城の姿を通して、自分自身を見つめているような感覚にもなり心を揺さぶられます。

変わりたいと願う人へ

ミナモトカズキ先生の衝撃作、『怪獣になったゲイ』。

変わりたいと思った時、どうしようもなく自分が嫌になった時、そっと手を差し伸べてくれる作品だと筆者は思います。

暗い絶望の中で瞬く希望の光は、嘘か誠か。混沌の世界でもがき苦しみながら答えを探す彼らの結末を、ぜひ見届けてください。

僕が怪獣になったゲイでも好きでいてくれますか?

怪獣になったゲイ (ビームコミックス)
ミナモトカズキ/著