異世界おじさん

殆ど死んでいる/著

コマ投稿OK

『異世界おじさん』で「そう来ちゃったかー!」という肩透かしに身悶えする

異世界無双モノが大豊作のこの時代、「そう来ちゃったかー!」と意表を突かれる怪作、それが『異世界おじさん』です。先日、「次にくるマンガ大賞2019」のWebマンガ部門で8位、かつ、U-NEXT特別賞を受賞されていました。おめでとうございます!大好きです!

『異世界おじさん』は、殆ど死んでいる先生の、なんと形容すればいいのでしょう……。物語の骨子に「ある甲斐性なしの男の日常」が据えられたギャグマンガだと言っちゃって怒られないと思います。

ですが、その甲斐性なしは、もちろんただの甲斐性なしではありません。異世界からの帰還者だっのです。そう、誰もが一度は考える「主人公、異世界から帰ったあとってどうなるんだろうなぁ」という疑問に答えた、「その後」の話なんです。

異世界おじさん
殆ど死んでいる/著

異世界おじさん 1 (MFC)
殆ど死んでいる/著

おじさんのキャラがずるい

『異世界おじさん』は、「おじさん」が主人公です。長いこと昏睡状態だったおじさんが、17年越しに目覚めるところから始まります。おじさんはただ昏睡状態になっていたわけではありません。異世界に行ってたんです。異世界で17年間暮らしていて、その帰還者なんです。

「そう来ちゃったかー!」って思いますよね。

メタ!ずるい!まさに異世界大豊作におけるこの時代の寵児。異世界から帰ってきて、その世界の言語を話すおじさんは、初め頭がおかしくなっていたと思われていました。さらには昏睡状態のおじさんの処遇をめぐって、彼の一家は離散状態。おじさんは現世の17年を失った34歳。1話のたった数ページで語られる背景が辛すぎる。

ここからどうギャグに持っていくのかというと、異世界帰りのおじさんは魔法が使えるんですね。魔法で辛い記憶を消し去って、甥の「たかふみ」と一緒にYoutuberになるんです。そこ、そんな簡単でいいんだっけ?そうなんです、おじさんは現世も異世界も関係なく、ダメな男だったのです!そこがいい!

そしておじさんと、たかふみのグダグダ愉快な同居生活が始まります。

「異世界帰りは確かにこうなる!」と思ってしまう。

絶妙な時代考証がにくい

おじさんは17年前、現世を離れているので、いわば現代の常識を知らないタイムトラベラーに近い状態になってしまっています。ときどき、絶妙なタイミングで思い出される異世界での思い出は僕らにとってとても興味深いのですが、おじさんにとっては過去のこと。読者としてはそっちをもっと気にして欲しい。

異世界での思い出と同等かそれ以上に熱量をもって語られるのが、おじさんが現世を離れる前にプレイしていたSE●Aのゲームのことです。おじさんは現世にいたころ人生をSE●Aから学んだヘビーゲーマーだったのです。現代では家庭用ゲーム機の第一線からSE●Aが退いたことが許せず、セ●サターンやらメ●ドライブをオークションで手に入れようとします。が、そこはそんな重要じゃないだろ!!

また17年前から様変わりしたことが、おじさんの「異世界帰り」を際立たてます。例えば「ルームシェア」や「ツンデレ」という言葉は、おじさんが異世界に旅立ってから発明された言葉だそうです。そんな絶妙に数年前の言葉の時代考証がにくい。

今では当然の言葉を知らないおじさんを見て、「あぁ、それってそうだったっけ」と思わせてしまう小ネタを挟んでくるのがにくいんです。SE●Aにしろ、ルームシェアにしろ、異世界を扱っているはずの物語なので、僕らにとってはどうでもいいはずなのですけれど、おじさんにとってはそれがリアルで、僕らもそれにいちいち引っ張られてしまいます。

メガドライブミニの発売とコラボをしてました。

世界が変わっても人は変わらない

また登場する女の子が本当に可愛いところがまたずるいところなのですけれど、このマンガの面白さは異世界にまつわる要素ではないのです。おじさんが本当にダメな男だというところなんです。異世界で彼女達に出会っても、好意を寄せられても、特に何も起こっていない!

「凍神剣」の守り手、メイベルが好きです。

ああ、モテるやつは異世界に行ってもモテるし、甲斐性なしは異世界に行っても甲斐性なしで、帰ってきても甲斐性なしなんだな、となぜか安心感さえ与えてくれます。

引っかかる要素が多すぎて全部を語ることができないのですが、異世界から戻ってきたおじさんのダメっぷりをいつまでも見ていたい。そう思わせてくれる『異世界おじさん』で、どうぞ皆さんも「そう来ちゃったかー!」の肩透かしの快感をお楽しみください。

2019年09月30日現在、第一話、および他数話をお読みいただけます。ぜひご自身の目で「そう来ちゃったかー!」を目撃してくださいね!

異世界おじさん (全2巻) Kindle版