紡ぐ乙女と大正の月

ちうね / 著

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『紡ぐ乙女と大正の月』この時代にタイムスリップして来て出会えたのがアナタでよかった

一度でいいからタイムスリップしてみたい。しかし、そのタイムスリップがもしも事故によるものだったら。『紡ぐ乙女と大正の月』は現代から過去に向かって、不運に巻き込まれた女子高生がタイムスリップをする物語です。

紡と大正の日本

紡ぐ乙女と大正の月

タイムスリップしてしまったは、女子高に入学したばかりの高校生です。2003年生まれであるため、2019年度の高校1年生という計算になります。

ちなみに、本作は2020年6月に単行本の第1巻が発売されました。つまり、私たちと近い世界を生きているのですね。

そんな彼女が100年ほど昔にタイムスリップしてしまうわけですから、とても困惑したに違いありません。周りには、見慣れない景色。道行く人たちは着物を着ていて、自分が着ているのは膝上丈のセーラー服。路面電車とレトロな街並み。ここはどこなんだろう。なんだか、見たことがあるような。

紡ぐ乙女と大正の月

十分に考えもまとめられず、この世界にそぐわない身なりの紡は警察に目を付けられてしまいました。私、不審者じゃないのに。そんな抵抗も虚しく、窮地に陥ります。警察官の詰問に、平凡な女子高生が抵抗できるわけがありません。

紡ぐ乙女と大正の月

しかし喜ばしいことに、この時代にも確かな良心がありました。平凡な女子高生の紡は、その場に居合わせた唯月という女の子に助けられ、大正の日本での安全を確保したのです。

ロマン溢れる世界観

紡がタイムスリップしたのは大正10年の銀座でした。

紡ぐ乙女と大正の月

当時の日本は、和と洋が混合しており、大正ロマンあふれる世界観です。

スーツの人もいれば、和装の人もいます。とくに本作に登場する女の子たちは袴姿の和装に身を包んでおり、誰に注目しても大正らしさを感じられます。

紡ぐ乙女と大正の月

建物に注目して本作を読み進めても趣があります。大正の建物といえば、レンガ調のイメージが強いですよね。詳しく知らなくとも、なんだか興味を引かれてしまう外観です。

紡が大正時代で通う学校は「旧制松本高等学校」を、お世話になっている末延家の屋敷は「旧前田侯爵邸」をそれぞれ取材した上で描画されているため、絵に説得力があります。参考資料をふんだんに利用して描かれた本作の世界観に、ロマンを感じずにはいられません。

描かれるのは心のつながり

そして本作には、大正の世界観にも負けないくらい、人と人のつながりにもロマンが溢れています。

紡ぐ乙女と大正の月

紡を助けた唯月はこの時代のお嬢様であり、名家の中でもひときわ高い地位の人物です。同じ大正に生きる人間なら、おいそれと話しかけることはできません。そんな彼女ですが、なぜか紡を助けてくれました。

どうして紡に声かけてくれたのでしょうか。

紡ぐ乙女と大正の月

見慣れない格好だったからとはいえ、それだけで警察に立ち向かうのでしょうか。怪しいだけの女の子に、親切にしてくれるのでしょうか。あの日助けられた不思議な女の子と、女の子を助けたお嬢様。もしかして、出会いは必然だったのではないか。そんなワクワクした展開を期待してしまいます。

2人の関係性を読み解いていくと、このタイムスリップは不幸なだけじゃない、そう思わせる魅力に気づき始めるのです。

歴史学を専攻していた作者の1冊

学生時代に歴史学を専攻していたちうね先生が描く作品ということで、忠実な描画にこだわりを感じます。使用されている文献や取材先のリストは巻末に記載されているのも嬉しいポイントです。本作をきっかけとして歴史に興味を持った方は、ぜひとも参考文献とコミックスを併せて手に取り、大正の世界に浸ってみてはいかがでしょうか!

時代を超えても、思いが伝わる

紡ぐ乙女と大正の月 1巻 (まんがタイムKRコミックス)
ちうね/著