虚構推理

片瀬茶柴/著 城平京/原著

怪異になってしまった一人の少女と、怪異にさえ恐れられる一人の男が出会った時、生まれるものは――!? “推理”、“妖怪”、“都市伝説”、“恋”……予測不可能な物語が幕を開ける!!

3行でわかる虚構推理

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1️⃣:幼い頃に神隠しに遭い、片眼・片脚と引き換えに怪異や妖怪たちの知恵の神になった少女・岩永琴子

2️⃣:琴子が一目惚れをした桜川九郎は、怪異にさえ恐れられる不老不死の男。二人で奇妙な事件に立ち向かう

3️⃣:不老不死のはずなのに、なぜ九郎は歳を重ねているのか?!真実を「虚構」にする琴子の推理とは!?

虚構推理とは?

虚構推理』は城平京先生の小説を原作に、片瀬茶柴先生の手によってコミカライズされたミステリーマンガです。

小説『虚構推理 鋼人七瀬』は2011年に刊行され、2012年に「第12回本格ミステリ大賞 小説部門」を受賞。2015年から講談社「少年マガジンR」にてマンガ連載が始まり、2020年2月時点で11巻まで刊行されています。

さらに2020年1月からはアニメ化もスタートし、ますます盛り上がりを見せています。

虚構推理の魅力

本作はタイトルや表紙から内容が想像しにくいマンガです。

タイトルの響きからは、探偵や警察、犯人や裏組織が罠や策謀をめぐらし裏をかきあうような、硬派なミステリーを想像するかもしれません。

一方でマンガの表紙を見てみると、どの巻にも爽やかな好青年と美少女が。なるほど、ハードボイルド系ではなく若い2人がバディを組み、日常の様々な事件やオトナの世界、裏社会に挑んでいく感じでしょうか。

虚構推理(1) (月刊少年マガジンコミックス)
城平京/著,片瀬茶柴/著


しかし物語の始まり、第1話で登場するのは、コレ。

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牛の化け物。どう見ても怪異。そう、これはミステリーであると同時に怪異の物語でもあるのです。この世ならざるものが登場する怪奇ミステリー。それなら「虚構」というタイトルもしっくりくる…そう思うかもしれませんが、実はそれも違います。意味合いには含まれているかもしれませんが、本質的なところは別にある。

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本作の最大の特徴であり大きな魅力、それは、真実を白日の元に晒さないこと。もっと積極的に言えば、嘘によって真実をねじ伏せること。タイトルでこれは推理モノだよと堂々と宣言しながら、主人公2人が挑むのは、如何にもっともらしい虚構で現実を覆い隠し、この世の秩序を保つかということ。だから『虚構推理』。

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小説より奇なる事実から、如何に本当らしい創作に人々の目を逸らし納得させるか。刺激的な「物語」を求めやすい人々に対峙する上で、それは難解な謎を解き明かすより遥かに難しいことかもしれません。この斬新なアプローチこそ本作の最大の魅力と言えます。

旅するタコ

ただ嘘を付くだけでも、真実を伝えるだけでも意味がない。人々が納得する魅力的で真実味がある虚構を構築しなければならない

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…しかし果たして、これはミステリーなのでしょうか?

実際この問いは小説発表当時から多く寄せられていたようで、原作者の城平先生もマンガ1巻の巻末でそのことに触れています。それに対する先生の回答がまたケムに巻くようで、作品の雰囲気を表していてとても良いのです。

「これはミステリと同じものでできている」

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ミステリーの歴史上もっとも身も蓋も無いと言っても過言でない本作ですが、周囲の思考をひっくり返し、(たとえそれが真実で無かったとしても)筋を通して解決策を見出す。その意味ではやはり、私たちのよく知るミステリーと同じ土に根ざしているのかもしれません。

⚠️以降は最新刊を見る際等にざっくりとおさらいしたい方向けの文章となっており、ネタバレを含んでいます。未読の方はご注意ください。

主人公2人の関係性も虚構?

主人公2人について紹介していきます。表紙ではいつもクールに、また爽やかにキメてます。まごうことなき美男美女。マンガの主人公らしい爽やかカップルに見えますね。しかし。

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怖いのは具体的すぎるとこなのか…?

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見た目中学生の彼女にアイアンクローをかます九郎さん

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見た目に騙されてはいけません。タイトルに恥じず、主人公たちも読者の想像を裏切ってきます。この2人は恋人関係にありますが、その関係は青春マンガにあるような切なく甘酸っぱいものとはどうやら随分と趣が違う模様。

さらに2人には性格面だけでなく(というかこちらが本題ですが)、それぞれ常人とは異なる大きな秘密を抱えています。

岩永琴子(いわなが・ことこ)

11歳の時に怪異たちにさらわれて知恵の神になるよう懇願され、それを受け入れた。以来「おひいさま」として怪異たちから寄せられるトラブルの解決に奔走している。

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怪異たちからはかなり慕われており人気がある様子。

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みんな(怪異)のアイドルおひいさま

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神に近しい存在として彼らと会話し、また彼らに指示を出したり力を借りることのできる立場となったが、その代償として右眼と左足を失っており、義眼、義足を装着して生活している。

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中学生時代、定期検査で通院している病院にて従姉妹のお見舞いに来ていた九郎と出会い一目惚れするが、当時弓原紗季と付き合っていた彼には近づくことは出来ず、以来離れて様子をうかがっていた。高校生になった2年後、2人が分かれたと知り積極的にアプローチを仕掛ける。

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実家は名家らしく、怪異にさらわれ行方不明になった際は真っ先に身代金目的の誘拐が疑われたほど。

身長も低く見た目が幼いためよく中学生と間違えられるが、九郎と同じ大学に通う大学生である(1巻第1話では17歳)。際どい発言と積極的すぎる行動でよく九郎や周囲に品がないとドン引きされているが、本人がそれを気に留める様子は全くない。

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基本的に誰に対しても不遜で自信満々な態度であるが、お互い明らかに過去を引きづっている九朗と元恋人の弓原の関係はかなり気になるらしく、自分が今の彼女であることを執拗にアピールしたり、九朗と弓原が二人きりで会わないようアレコレ腐心したりしていた。

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桜川九朗(さくらがわ・くろう)

岩永と同じ大学に通う大学院生(1巻第1話では大学生)。素朴でぼんやりしており、岩永には第一印象でヤギのようだと評された。

従姉妹の桜川六花が入院している病院によくお見舞いに来ており、岩永ともそこで出会う。

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六花と似たタイプで1歳年上の弓原紗季と長く交際していたが、大学時代に行った旅行での出来事をきっかけにその関係がギクシャクし出し、最終的に九郎の持つ特異性を受け入れられなかった彼女と別れることになった。

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11歳の時、祖母から未来予測の力を持つと言われる件(くだん)と不死身の力を持つ人魚の肉を同時に食べさせられ、親戚の子どもたちが死んでいくなか生き残った九朗は、それぞれの妖怪が持っていた力を得る。

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実際のくだんの力は未来を予測するものではなく、実現可能性のある多くの未来から一つの道を選択できる「未来決定能力」。その意味では通説より強力であるが、突拍子もない未来(真夏に雪を降らせる等)や遠い先の未来を引き寄せることはできない。また、力が使えるようになるのは死の間際だけで、かつその直後に必ず命を落とす。人魚の力で復活できるとは言え、言葉の響きほど万能なものではないらしい。

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人間の目にはイケメンに分類される容姿をしているが、2種類の妖怪を食べたその身体は怪異たちの目にはかなりグロテスクで生臭いものに写るらしく彼らからは非常に恐れられている。

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岩永と交際しているが、失恋の影響か岩永のあまりに積極的な姿勢に引いているのかその両方か彼女への態度はかなり雑で、元恋人の前で付き合っているのが心底嫌だと言ってしまうほど。これは結構ひどい。というか最低だぞ九郎。

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しかし彼なりに彼女の身と幸せを案じているようで、本人がいないところではこんなセリフも。でももうちょっと態度にも出してあげてほしい。

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あらすじ

1巻1話 虚構推理は始まらない

第1話はプロローグ的なお話で、2人の出会いが描かれます。

岩永17歳。いつものように病院に通う岩永は、親しい看護師から九朗が結婚まで約束していた彼女、弓原と別れたことを聞きます。15歳の時に一目ぼれして以来、弓原のガードに阻まれて遠くから見るしかなかった岩永ですが、2年越しで声をかけることに成功。そしていきなり大胆に告白します。

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この告白は真剣に受け取ってもらえないものの、話題は弓原との別れ話に。きっかけは前年の京都旅行。九朗は、2人が鴨川沿いの夜道でカッパに遭遇し、「怯える弓原には目もくれず、脱兎のごとく逃げ出した」「後でそんな人だとは思わなかったと言われ、それ以来きまずくなり別れを切り出された」と語ります。

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清純ぶってるときの岩永さん

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これは紛れもない事実です。しかし、ほぼ初対面の相手がこんな奇妙な怪談話を信じるとは九朗も思っていなかったでしょう。頭がおかしいやつだと思わせ、自分を諦めさせるためにあえて突拍子も無い現実を語った。それは普通なら成功したはずです。相手が「おひいさま」で無ければ。

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実は逃げ出したのは九朗ではなくカッパの方。怪異たちには醜悪でおぞましく写る九朗の姿を見て、カッパは思わず逃げ出したのです。そしてその様子を見た弓原は、この世ならざるものが怯えて逃げ出すような恋人の存在に疑問を抱き、恐ろしく感じるようになった。

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岩永の推理を聞きながら、九朗は彼女があまりにも自然に妖怪の存在を受け入れ、さらに自身の特異性にも勘付いている様子に驚きます。

岩永は続けて、日常に潜む"妖怪"、"あやかし"、"怪異"といった存在、そして自身が以前「そのもの」たちにさらわれ、一眼一足の知恵の神となった経緯を語ります。彼らが囁く声で、岩永は人間には見えない九朗の異形さを知っていたのでした。

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彼女の話を信じきれないものの、翌日少女誘拐事件の詳細を調べに九朗は図書館へ。そこで実際に岩永が2週間行方不明になっていたこと、発見された時に一眼一足の姿になっていたことを確認します。

しかしこれも岩永の思惑どおり。実はちょうど図書館に凶暴な牛の妖怪が居座っており、その解決のため九朗に協力してもらおうと考えていたのでした。

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化け物に対峙するおひいさまこと岩永。しかしここで思わぬ誤算がありました。九朗の姿を見れば相手は怯えておとなしくなると睨んでいた岩永でしたが、錯乱して周りが見えていない様子の妖怪はおかまいなく暴れまわります。そして追いつめられたその時。

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自ら左腕を差し出した九朗。しかし腕を喰いちぎられたにも関わらずその様子は至って冷静です。そして驚愕する岩永の目の前で、人魚の力によりみるみる左腕が復活していきます。さらに。

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九朗の肉を食らった化け物は直後に苦しみ出し、消滅。過去にくだんと人魚の肉を食べたほとんどの人間たちが死んでいったのと同様、人間でありながら妖怪変化と混じった九朗の身体は、怪異たちにとっても猛毒だったのです。

ともあれ図書館の妖怪事件はこれにて一件落着します。

九朗は自身のおぞましい不死の身体について知った岩永が離れていくと思ったようですが、知恵の神たる彼女は全く気にする様子もなく、むしろ恋愛面だけでなく怪異たちの問題解決にもプラスになって一石二鳥、とまで言い切ります。そんな彼女の様子に、この子を引き離すのは無理だと九朗は悟ったのかもしれません。

この時から、異質な力を持つ2人の秩序を守る戦いが始まります。

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…以上が1話のあらすじです。お気づきかと思いますが、この話ではミステリーっぽい要素がほぼでてきません。1話だけ読んだ方は妖怪退治がメインのお話だと思ってしまいそう。

しかし、物語の世界観、2人のキャラや特異性、出会いまでを一挙に描き、この特殊なミステリーの舞台を整えるうえで、このエピソードは非常に重要な土台となっています。

1巻2話 事件の始まり

そして時は飛んで2年半後。

真倉坂市という地方都市にて交通課の巡査として勤務する弓原紗季は、交通事故を起こした大学生から不審な話を聞きます。

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大学生はのちにこれを勘違いだと訂正しましたが、現場に立ち会った弓原もそこに確かにこの世ならざるものが存在していた空気を感じていました。

さらに彼が語った特徴は、最近真倉坂市で噂になっている都市伝説「鋼人七瀬」と一致したものでした。

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七瀬かりんとはその年の初めに真倉坂市で亡くなった人気アイドル。とある疑惑でメディアで騒がれ、ほとぼりが冷めるまで地方のホテルに身を潜めていた途中、工事現場で鉄骨の下敷きになって死亡していました。その件自体は事故として結論付けられましたが、中高生やネットを中心に彼女の亡霊が出ると噂になっていたのです。

一方刑事課の巡査部長寺田は、鋼人七瀬を見かけた、襲われたという相談が交番にまで寄せられ始めている状況から、これが人為的な企みによる大きな事件の伏線ではないかと考え、弓原にも話を聞きます。しかし弓原は知っていました。アレが紛れもない本物であると。

その夜の帰り道、怪異や九朗のことを考えながら憂鬱な様子で歩いていた弓原は、坂道を転げ落ちてきた少女とぶつかります。小柄で愛らしく、不思議な存在感のある少女。突如「逃げてください」と告げる彼女の視線の先には…。

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しかし、怪異に振り回された過去を断ち切りたい弓原は果敢に鋼人七瀬に挑んでいきます。俊敏な動きで攻撃をかわし、みぞおちに渾身の一撃、、を入れたはずが、その手は虚しく亡霊の身体をすり抜けます。直後彼女に鉄骨が振り下ろされそうになりますが、間一髪で少女が体当たり。そして華麗に回し蹴りを決め、ひとまず鋼人七瀬を撤退させることに成功します。

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亡霊に触れられる岩永琴子を訝しがった弓原は、詳しい話を聞くため彼女を警察署に同行させようと警察手帳を提示。それを見た岩永は、助けた相手が九朗の元恋人「サキさん」と気づき、得意げに、そして思い切り煽るように自己紹介をかますのでした。

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2巻 異質な怪物

結局警察署にはいかず、弓原の家に向かった2人。九朗のことで時々バチバチとしながらも、鋼人七瀬について話します。

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意見が一致しているのは、彼女が想像以上に凶暴で危険だったこと、そしてこのままでは実際に被害者が出てしまう可能性が高いこと。

また、鋼人七瀬はまともな(というのもおかしいですが)化け物とも様子が違っていました。普通、幽霊や妖怪といったたぐいのものは不確かで曖昧な存在で、分をわきまえた行動をしますが、鋼人七瀬は「おひいさま」岩永と会話や意思疎通が成り立つ様子もなく、化けて出ているはずなのに怨念・邪念すら感じず、一方で目立つ姿で人を襲う。その様子はあまりに一般的な怪異のルールから逸脱していました。

その夜はすぐ分かれた2人ですが、それぞれ調査を続けます。そこで各々見つけたのが、「鋼人七瀬まとめサイト」。このサイトのトップには2人が見た亡霊と全く同じ姿のイラストが掲げられ、鋼人七瀬や七瀬かりんに関する様々な情報がまとめてあり、またサイト内で議論ができるようにもなっていました。

このサイトを見た弓原は、寺田と協力しながら七瀬かりん死亡時の情報を集め始めます。あくまで人間による組織犯罪の可能性を疑う寺田は、もし世間を恨んで死んでいった七瀬が亡霊として現れているとするには、その姿があまりに世間に迎合しすぎていて作り物っぽいと考えます。

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寺田さんの刑事の勘

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一方インターネットカフェでサイトを見ながら何かにひらめいた岩永は、七瀬かりんの事故について正確な情報を得るため改めて弓原に(彼女が苦手な怪異を通じて)協力を依頼します。

しかしちょうど待ち合わせの時、再び鋼人七瀬が現れたとの情報が。現場に向かった岩永が見たのは、一週間前から消息を絶っていた九朗が彼女と戦っている姿でした。

弓原も合流し、九朗の戦いを見守る2人。その目の前で、九朗は鉄骨に頭をつぶされ無残に死亡します。

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人魚の力で生き返った九朗は迷わず鋼人七瀬に向かっていくと、鉄骨をすれすれでかわしあっさり鋼人七瀬を捕まえます。くだんの能力で鉄骨をかわす未来を選んでいたのです。そして迷わず首の骨をバキっと。

しかし、それでも彼女は完全に消滅しませんでした。ここにおいて、鋼人七瀬は説得や力づくと言った普通の方法では退治できず、別の手段が必要なことがハッキリしたのです。

またも鋼人七瀬は一度姿を消し、岩永、九朗、弓原の3人が合流したところで2巻は終わります。

…まだまだ推理が始まりませんね。しかし、この普通の妖怪退治が通用しない未知の怪物、という状況が、次巻以降のミステリー的展開を生む舞台装置になっています。

3巻 鋼人七瀬の正体

再び弓原の家で会話する3人。元彼女の家に現在付き合っている2人が来て化け物退治の話をする…特殊すぎる状況ですが、岩永はいつもの調子で、鋼人七瀬の正体について語ります。

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「口裂け女」

「人面犬」

「かまいたち」

作り話が名前と形を得ることで人間の頭の中に根付き、実体を得る。それ自体は今までも起こってきたことでした。

しかし、想像力で生み出された怪物はその出自ゆえに、噂の熱が冷め人々の想像力が弱まれば簡単に実体を失います。

実体化して知能や思考を持ち、新たな妖怪として力を持つのは、長い長い年月信じられたものだけ。

にも拘わらず、七瀬かりんが死んで1年も経たずして鋼人七瀬は実体化し、人を殺せる力を持っている。それは明らかに一般的な妖怪の成り立ちと異なっていました。

その原因が、まさに「鋼人七瀬のまとめサイト」にありました。

このサイトが彼女の名前と設定を共通のイメージとして不特定多数に一気に広め、さらにトップのイラストによって姿形まで人々の頭の中に固定化させた。

つまり、亡霊がいたからまとめサイトが生まれたのではなく、まとめサイトによって亡霊が生まれた

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だからこそ、現れた亡霊をいくら倒そうが、人々の想像力で何度でも蘇ってしまう。鋼人七瀬の本質は亡霊そのものではなく、人々の願望にあったのです。

では、そんな怪物をどうやって倒すのか?

岩永は、このサイトを逆に利用し、「亡霊がいる物語」に対し「亡霊なんかいない」という物語で上書きするしかないと語ります。

もともと嘘だった「無念の内に死んだアイドルが幽霊になって現れる」が真実になったように、さらに魅力的で合理的な虚構を構築し、「鋼人七瀬は存在しない」という嘘を再び真実にする。怪異たちの知恵の神である岩永が怪異なんていないと嘯く。この欺瞞が唯一鋼人七瀬を退治する方法なのです。

…なんだか急にミステリーらしくロジックが入ってきましたね。

人々を信じさせる合理的で魅力的な虚構。その構築のためには、まず正確な情報が必要です。そのため岩永は七瀬かりん死亡時に行われた捜査の詳細を弓原に確認します。

その後、死亡場所である工事現場に向かう3人。当然現場には何も残っていませんが、、何かを呼び出そうとする岩永。

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ちなみにこの魔法陣はまったく不要です

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一般的なミステリーの主人公と違い、岩永にとって真実を知ること自体は難しいことではありません。なぜなら、そこら中に潜むこの世ならざる目撃者たちに聞けばいいのですから。

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プロである警察が調べた情報、怪異たちが見ていた真実、人々に知られている情報、そして本当だと信じられているデマ、これらを組み合わせ、説得力のある虚構を構築する。知恵の神おひいさまの本領発揮です。

もちろん、どれだけよくできた解決策でもそれが人々に受け入れられるかは未知数であり、全ては微妙なバランスの上に成り立っています。

しかしそれを強力に補完するのが、他でもない九朗の「未来決定能力」。信じられる可能性が高い嘘が用意できれば、九朗がその支持を引き寄せる。この2人しか出来ない解決方法です。

しかし岩永は急いでいました。もし鋼人七瀬が人を殺すような事件が起きれば、その亡霊の噂と恐怖は一気に広まり、人々の想像を強力にかきたて、それを打ち消すことが難しくなるからです。

まだ近づいてきたものしか襲わない想像力の怪物。どうか誰も勇敢に立ち向かわないでくれと願いなら、夜は更けていきます。

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4巻 鋼人七瀬攻略への道

岩永の思いも虚しく、刑事の寺田が殺されついに鋼人七瀬による犠牲者が出てしまいます。

屈強な刑事が正面から抵抗の跡なく撲殺されたことで鋼人七瀬の仕業という説やその実在を支持する意見は一気に大勢となり、まとめサイトへの書き込み量も何倍にも増えていました。

あまりにも亡霊の存在が強固になる方へ傾きすぎている状況から、岩永と九朗はこの事件の中心に桜川六花がいると確信します。同じ桜川家の一員である六花も、九朗と同じ能力を持っていたのです。

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これ以上人々の妄想が膨らみ鋼人七瀬がさらに凶暴化しすることを防ぐため、大急ぎで解決策を練る岩永と2人。あまりに厳しい条件に行き詰まる岩永でしたが、九朗の一言をきっかけに、ついにそれを見出します。

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ここにおいて、舞台は完全に整いました。

岩永は鋼人七瀬まとめサイトに「鋼人七瀬はいない」という物語を投入し、顔の見えない何万人という人間から支持を得るために。九朗は鋼人七瀬と対峙し、何度も死に何度も鋼人七瀬消滅への未来を引き寄せるために戦います。そして画面の向こう側にいるのは、同じく未来を引き寄せる能力を持つ六花。

いよいよ鋼人七瀬攻略会議の開会です。

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5巻~6巻 虚構争奪議会

普通のミステリーであれば、真実が判明すればエピローグまですぐそこでしょう。しかしこれは『虚構推理』。虚構で現実をひっくり返す戦いはこれからが本番です。単行本2巻分にかけ、岩永はじっくりと、繰り返し、複雑に、重ねて、解決策を提示していきます。

その見事な、しかしすべてが嘘の解決編。議場のクライマックスはぜひマンガにて目撃してください。

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7巻~ 虚構推理は終わらない

6巻にて長編小説第1作を原作とした「鋼人七瀬編」は終結を迎えます。しかし、2人の物語は終わりません。陰で糸を引いていた桜川六花。彼女は逮捕されることも罰せられることも無く姿を眩ませたままです。このままではまた怪物を生み出してしまうであろう六花を止めるためには、なんとしても彼女の居場所を探し出し、辿りつき、止めなければなりません。

7巻以降は各地の怪異や岩永の高校時代のエピソードと言った短編、中編を挟み世界観を縦横に広げていきつつ、六花に近づくための物語が描かれていきます。

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登場人物紹介

ここでは主人公2人以外の登場人物を紹介します。

弓原紗季(ゆみはら・さき)

真倉坂警察署に勤める交通課巡査。九朗の元恋人であり、長い交際の末結婚直前であったが、京都旅行での出来事をきっかけに破綻を迎えた。

2年半経ち社会人となっても九朗との別れが吹っ切れず鬱屈とした日々を送っていたが、鋼人七瀬の事件により岩永と邂逅、さらに九朗とも再開し3人で事件解決に挑むことになる。

鴨川でのカッパとの遭遇により妖怪や幽霊といった存在に対しかなり過敏で臆病になっているが、元々は気が強く頼りがいのあるタイプで、九朗と付き合っていた当時は、ぼんやりとして無防備な彼が他の女性からアプローチをかけられそうになるたび割って入ってさりげなく阻止したりしていた。

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桜川六花(さくらがわ・りっか)

九朗の3歳年上の従妹。弓原は九朗の初恋の相手だと考えている。

その体や能力を調査するため長く入院していたが、理事長の交代とともに退院し、その後はしばらく岩永家の屋敷に居候していた。

美人で人当たりもよく岩永の親にも好かれていたようだが、弓原は初対面の際「周囲を密やかに墜としてしまうような人」と感じていた。

自身の持つ能力の可能性を探るため裏で様々な事件を仕掛けるが、その目的は「普通の人間に戻ること」。想像力の果てに神様の如き力を持つ怪物を生み出し、それによって自身の異質な体を元に戻そうとしており、鋼人七瀬を生み出したのもそのための手段の一つだった。

黒幕的な位置づけであるものの、少年マンガ的に世界征服を狙ったり諸悪の根源という感じでは無く、九朗はその様子を「普通であろうとして普通でないことをしでかしてしまう」と語った。しかし時折見せる表情には狂気がにじむ。

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寺田徳之助(てらだ・とくのすけ)

真倉坂警察署で働く刑事課の巡査部長。体格がよく柔道有段者、過去にはオリンピック候補にもなったことがある屈強な人物。弓原に好意を持っており何度か食事に誘ったりしているがなかなかな成功していない。

鋼人七瀬の噂が広がりだした時にいち早くその危険性を感じて調査を開始した。彼自身は亡霊の仕業だとは信じていなかったが、この事件が人間の手によって作為的に起こされたものであることには勘づいていた。

夜道に鋼人七瀬の姿を見つけ、誰かが噂を広めるため死んだアイドルに扮していると考えていた寺田は彼女を捕まえようとしたが、その手はやはり彼女の身体をすり抜け、鉄骨によって顔をつぶされて殺されてしまう。

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怪異たち

本作には様々な怪異が登場するが、その多くは分をわきまえ人間に直接害をなすような存在ではない。むしろその姿はコミカルにかわいらしく描かれており、皆おひいさまを慕い協力的で素直な存在。

それがなお一層、鋼人七瀬をはじめとした"そうでない"怪異の特異性、不気味さ、さらに言えば人間の恐ろしさ、欲深さを際立たせている。

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ハーレクイン好き落武者

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かわいい

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ギロチンかわいい

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九郎の先祖と祖母

その昔、九郎の先祖は妖怪・件(くだん)の持つ未来予測の力を得ることに囚われ、家の者にその肉を食べさせることで能力を持つ人間を生むことに執心していた。その試みは成功することもあったものの、予言の直後に死んでしまうという致命的欠点を補うため、食べると不老不死の力を得るといわれる人魚の肉を同時に食べさせることを思いつく。

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しかし2種類の妖怪の肉は当然人間の身体に合うはずもなく、食べさせた人間はことごとく死亡、それでも実験を止めようとしなかったため家系が廃れる原因となった。

その後そのような試みを行うものはいなくなったはずだったが、実は九郎の祖母が先祖の悲願を達成しようと密かに企んでおり、九朗が11歳の時、孫たちを集めて妖怪の肉を食べさせた。生き残った九朗を見て祖母は大いに喜んだが、その能力を確かめるため直後にためらいもなく九朗を刺したり、周りで死んでいく孫たちのことは一切気に留める様子がなかったりと、狂気に飲まれていた様子。

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作者情報

城平京 先生

『スパイラル ~推理の絆~』『絶縁のテンペスト』『ヴァンパイア十字界』などマンガ原作を多数手がける。各巻末には先生のショートコラムが載ってありこちらも必読。『虚構推理 鋼人七瀬』発表時はコミカライズは全く考えていなかったようで、マンガ化にあたっては口出しは最小限に抑え(というか基本読者目線)、片瀬先生の絵やアレンジを楽しんでいる様子。

第二作以降はマンガ連載開始後の発表だが、こちらもマンガ用の脚本という形ではなく、小説として執筆した上でそれをマンガ化する、という手順を続けている。

片瀬茶柴 先生

虚構推理のコミカライズをしているエビ。(Twitterより)本作がマンガ家デビュー作となる。

城平先生から「面白いと思うことを面白いと思うように描いてください。できればあまりシリアスな感じにならないと良いのですが」と言われており、コミカライズにあたってはネームも含め自由に描いているとのこと。その影響か城平先生の知人によると「小説に忠実でも小説よりさわやか」になっている様子。

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