鍋に弾丸を受けながら

青木潤太朗:原作 森山慎:作画

『鍋に弾丸を受けながら』狂気の食リポマンガ誕生秘話。原作者×編集者インタビュー

1話公開後すぐ、圧倒的なオリジナリティとカオスな内容がマンガ好きの間で話題になった狂気のグルメリポート作品『鍋に弾丸を受けながら』。

「脳を二次元に毒された作者が危険地帯のグルメを堪能する」という狂気的な企画はどう生まれたのか?

原作者・青木潤太朗先生と、担当編集・編田あつむさんの対談インタビューで聞きました。

治安の悪い場所の料理は美味い――!? 50000点の美味を求めて美少女(?)が世界の危険地帯に赴き、現地の怪しくも魅惑的な料理の数々を喰らう!ノンフィクション&カオス&ハードグルメリポートコミック!

記事に登場する人

漫画原作者・小説家 福岡県出身。釣りと料理が趣味。ロリババア(特に胸のある希少タイプ)が好き。

特定の出版社や編集部に属さず色々な媒体で作品を担当するリアル兼バーチャル漫画編集者。漫画編集屋『円伎堂株式会社』の代表取締役。

「正直いままでで一番ウケなさそうな企画だと思いました」

ーー『鍋に弾丸を受けながら』の企画は、いつ頃生まれたんでしょうか?

企画のタネが生まれたのは2年前くらいで、連載が決まったのは今年1月ですね。


この企画自体は編田さんと仕事をする前からあって、というのも僕は作画の森山(慎)さんは大体10年くらいの交流があるんです。


僕も森山さんもアイマス(「アイドルマスター」シリーズ)が大好きで、二人の好きな要素を上手いこと詰め込んだマンガが描けたらいいな、と思っていました。

ーー最初から森山さんと組むことは決まっていたんですね。

一番初めはこんな変なマンガじゃなくて、釣りマンガをやろうとしていたんですよ。


僕は釣りが一番の趣味で、海外旅行をするのも現地で釣りをするのが目的なんです。

ーー『鍋弾』(なべたま)の本編でも、釣り仲間のご友人が登場しますもんね。

釣りマンガでいうと、『釣りキチ三平』という大きな存在があるじゃないですか。


あの作品は、僕にとっては釣りマンガではなくBLマンガ。要は、男キャラクター同士の仲の良さで売ったマンガだと捉えているんです。


そして、僕たちのように女の子同士の関係性が好きな人間は、釣りマンガで同じことができるはずだと。

ーーそこから、グルメマンガに変わったのはどうしてですか?

釣りマンガって、うまくいきにくい理由がいろいろあるんです。


釣り道具は描くのがものすごく大変だし、釣りの面白さってかなり内向的で、多くの人が楽しめる形で表現するのが難しい。


それもあって、「やりましょう」と言ってくれた編集さんもいたんですが、結局どの媒体でも連載会議に通りませんでした。

ーーなるほど。

せっかく森山さんを誘ったのになかなか仕事につなげられなくて申し訳なく思っていたところ、第1話で描いたKくんと会って。


『鍋弾』のテーマである、「治安の悪い場所の料理は美味い」という話をしたんです。

その瞬間は「たしかに」と思うくらいだったんですが、後々いまの形で作品を描くきっかけになりました。


その上で、主人公が私自身で「脳が壊れているから、すべての人間が美少女に見える」というノンフィクションにしてみたら、森山さんも「かなり面白いと思う」と言ってくれて。

ーーパンチがすごい内容ですが、どのように思い付いたんでしょうか?

多分、グルメマンガを構想し始めたときに最初から浮かんでいた気がします。


決してカッコつけるつもりはなく、私の場合はほぼ全部のマンガがそうなんですが、最初から完成形で見えるんです。


それゆえに融通が効きづらいんですけど…。


極端な例だと夢の中でマンガ雑誌を読んでいて、そこに連載されている面白いマンガを自分の作品として出したりする。


このマンガは夢で見たわけではありませんが、気がついたら思いついていたという点では同じですね。

ーー「気がついたら思いついていた」って、すごいですね。

この仕事をしている人間には伝わると思うんですが、なんかスイッチが入ってワーっとネームを描ける瞬間があるんですよ。


ほぼ何も考えず、いきなり紙にコマを割っていける。そうやって出たうちの一つが、『鍋に弾丸を受けながら』なんです。

ーー初めて描いたときの手応えはどうでしたか?

これまで数多の原作を考えましたが、正直いままでで一番ウケなさそうな企画だと思いました(笑)。


「これは変なのが出ちゃったな」と…。


もちろん、自分たちでは面白いと思っていたんですけど、たくさんの人に読んでもらえる自信はまったくありませんでしたね。

一見すると変化球だけど、複数の面白さが掛け合わさった企画だった

ーーそこから連載が決まるまでは、どのような道のりだったんですか?

何人かの編集さんにこのネームを見せて、中には「やりましょう」と言ってくれた方もいたんですが、どこも連載会議に通らなくて。


そんなときにたまたま編田さんのことを知りました。


編田さんが担当の『フードコートで、また明日。』というマンガがあるんですが、作者の方がのびのびと連載されているのを見て、あのマンガをいい形で世に出せる編集さんとなら可能性があるんじゃないかと。


ご本人がバ美肉していることもあり、「すべての人間が美少女に見える」ということにもおそらく理解がある人だろうと、TwitterのDMでお声がけしてみたんです。

ーー編集者がバ美肉していると仕事につながるんですね、すごい時代だ。

もともと青木さんの『℃りけい。』という作品が好きだったので、連絡をもらったときはびっくりしました。


その上で『鍋弾』の企画を見て、「めっちゃ面白いやん!」と。


一見すると変化球ですが、グルメ×旅行×美少女という複数の面白さが掛け合わさった企画なんですよね。

ーーたしかに。

まず、僕がマンガに一番期待する部分は、よくある作品じゃないことなんです。


いつも作家さんには、売れる売れないは後から考えるようにお話ししています。


その点、『鍋弾』は圧倒的なオリジナリティがあり、ちゃんと刺さる人に刺さる作品として成立していました。

面白いのは間違いなく面白い一方で、マスにウケる企画ではないと思っていましたけどね。


編集さんに「これはちょっと」と言われても、「ですよね」って思っちゃうというか。

持ち込みを受けたときのメールを見返すと、「分かりやすく売りやすい作品かというとそんなことはないと思います。でも、絶対に面白いからやりましょう!」という返信をしていますね(笑)。


「コミックNewtype」編集部には、旅行ができないこの時期に旅ものをやる利点や、リアリティのあるレポートとして仕上がっているところを押し出して。


あとは『ハイパーハードボイルドグルメリポート』のような番組が受け入れられている世相にも触れて、「やるっきゃない」とお伝えしたところ、すぐに連載が決定しました。

正直、連載ネームを出してすぐに編田さんから連載決定の連絡をいただいたときは、本当にたまげました。

駅で叫んじゃったんですよね(笑)。

田舎の駅だからよかったけど、「は!?」という声が出ました。

ーーそうして送り出された本作ですが、すごく話題になっていますよね。

どうやらそうみたいです。今のところ存外に好評みたいで。


まったくリアクションがないことも覚悟していた作品だから、こんなにバズるとは思っていませんでした。


自分の感覚なんて当てにならないですね。

ちゃんと刺さる人に見つかるかどうかという不安はありました。


1話を公開して、もちろん面白いとは思っていたんですが、読者の反応を見て「やっぱり頭のおかしいマンガだったんだ」と改めて思い返しました(笑)。


担当編集としてずっと見ていたから、あのカオスさに慣れてしまっていたんですよね。

ーー衝撃的でした。

編田さんは公開前から手応えを感じてくれていたみたいですが、僕はそこまで自信がなかったので、想像以上に大きな反響をもらえて嬉しいです。

マンガの連載は何度か大きく盛り上げられるチャンスがあるんです。


連載が始まったとき、Twitterに1話を転載したとき、単行本の1巻が出たとき。


経験上、パッと読んで「面白い!」と思えた作品はそのどこかのチャンスを掴めるし、『鍋弾』も「きっと大丈夫」と思って担当していました。

あえて「分かりにくさ」をそのままにした理由

ーー『鍋に弾丸を受けながら』というタイトルもすごく特徴的ですよね。

詩的で分かりにくいし、覚えにくいですよね(笑)。


だから編田さんと『鍋弾』(なべたま)って略称を作ったんですが、思いのほかフルタイトルで覚えてもらえているみたいです。

ーーなんだか声に出して読みたくなるような、いいタイトルだと思います。

Webマンガのセオリーからは外れるんですけど、単純にかっこいいしどんな内容か思わず気になるタイトルだったから、これに決めました。


本当に最初からこのタイトルでしたよね。

走り書きのときからこのタイトルですね。ここまでタイトルを一切変えないのは、珍しいかもしれないです。

ーーそうだったんですね。

一応、長いとか分かりづらいとかお決まりのツッコミはしたんですよ。


けれど、改めて青木さんと話してみると「これめっちゃいいタイトルじゃないか」という話になって。


これ以上のタイトルが思い浮かばなかったんですよね。

分かりにくさという点では、本編もあえて誤解されるような内容をそのまま残したところがありますよね。

ーー最初に1話を読んだとき、「マフィアの拷問焼き」のシーンで本当に人を燃やしていると勘違いして、驚いた覚えがあります。そんな状態で「すべての人間が美少女に見える」という部分が解説され始めたので、なおさら頭が混乱して…。

とにかくカオスさを大事にしたかったんですよね(笑)。


実際、1話は校正の段階で「分かりにくい」という指摘が入ったんですが、「ある程度は誤解されてもいい」と伝えて、そのままにしました。


それでミスリードが生まれることも、逆にプラスになるかもしれないと。


「本当は人間を焼いているの?」って不安な気持ちを抱えながら読む体験も、この作品の楽しみ方の一つだと思うんです。

ーーそういうことだったんですね。僕の場合は1話をすぐに2周読んで、ようやく脳が情報量の多さに付いていけるようになりました。

そういう読み方をしてもらえたのなら嬉しいです。


編田さんに見てもらう前、他の編集さんに「一回読んで分からないから厳しい」みたいに言われることが結構あったんです。


「これ何のマンガなんですかね」とか、「やっぱり一言で説明できないのはキツいですよ」とか。


もちろん分かりやすさは大切なんですが、この作品に関しては下手に納得しなくてよかったなと思いました。

ーーあえて分かりにくさを残したことが、作品の魅力につながっているわけですしね。最後に読者さんに向けてメッセージがあればお聞きしたいです。

改めてですが、『鍋弾』はノンフィクション作品です。


そのため、たとえば1話目に比べるとそこまで危険に感じないシチュエーションも描くことになると思います。


けれど、そこは私の思い出を描いている作品なのでご容赦いただきたいです。


私は冒険家ではなく、美味しいものを探すうちに気づいたら危険な土地へ踏み込んでしまっていた思い出が人より多いだけの、ただの作家ですから。

ーー連載にできるほど、そういった経験を重ねてこられたんですね。

COVID-19の感染拡大がなければ、2020年だけでも単行本もう一冊分くらいの思い出ができたと思うんですけどね。


現状はコロナ前の思い出を描くしかなく、どれも過去の話にはなってしまうんですが、お付き合いいただけると嬉しいです。


ネットがあると何でも知っているような気になりますが、地球にはまだググったって出ない情報がいっぱいあるんです。


特に日本語なんてマイナー言語ですから、どうやったって限界があります。


やっぱりいまだに現地に行かなきゃ出会えない喜びって、たくさんあるんです。


『鍋弾』ではそんなグルメの面白さを、森山さんの端正で美しい作画でお届けしていければと思います。

ーー編田さんからもお願いします。

早速、『鍋弾』で紹介した料理を実際に作ってくれた人をSNSで何人かお見かけしました。


あれを読んで食べてみたくなる気持ちはすごく分かりますし、何なら現地に行ってみたいという人もいらっしゃるんじゃないでしょうか。


おそらくまだしばらくはコロナの影響もあると思いますが、ぜひ『鍋弾』で紹介した料理を作ったり現地を旅行してみたりといった楽しみ方もしてほしいです。


そんな風に、いろんな新しい体験を提供できるようなマンガにできるといいんじゃないかと思っています。


これから先も楽しみにしてもらえると嬉しいです。もちろん、SNSでの感想もぜひお待ちしています。


『鍋に弾丸を受けながら』3話まで公開中!

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