『ブス界へようこそ』が「Kindleインディーズマンガ大賞」を受賞!河野大樹先生に、制作背景をインタビュー


Amazonが開催する第一回「Kindleインディーズマンガ大賞」で、河野大樹先生の『ブス界へようこそ』が大賞を受賞しました。




『ブス界へようこそ』の物語は、自殺したはずの「ブス」の主人公が、ブス界という不思議な世界で目を覚ますところから始まります。ブス界は現実世界で死んだブスが最後のチャンスを与えられる場所であり、ブス界で他の人々の肉体を食べ続ければ、現実世界で美人として生き返れます。


「自分はブスだから何もできない」と人生を諦め、ついには自殺してしまった主人公が、ブス界の人々と戦うことで成長していく、王道少年マンガと呼べる作品です。現在は「Kindleインディーズマンガ」をはじめ、「ニコニコ静画」や「LINEマンガ」などのサイトにおいて、無料で全話公開されています。


アルは河野先生にインタビューし、受賞に至るまでの制作背景と、今後のご活動について話を伺いました。

「タブー」な表現を扱う作品だから、商業誌はNGだった

ーー3/19に発表された「Kindleインディーズマンガ大賞」の大賞受賞、おめでとうございます!今回の受賞に関して、どういったご心境でしょうか?


とても驚きました。『ブス界』は「ブス」というテーマや、人が人を喰らうという、ある意味タブーな表現を含んでおり、商業誌とは相性が悪いんです。


もともと高校生のときに描いた『ブス界』のネームが『月刊少年マガジン』のネーム部門で佳作をいただいたこともありますが、内容のグロテスクさから、そのままの設定で商業誌連載を目指すのは現実的ではありませんでした。


また、Kindleインディーズと同じようにマンガを投稿できるサイト『ジャンプルーキー!』では、規約に引っかかって公開できなかったり。


今回の「Kindleインディーズマンガ」のような大きなプラットフォームの漫画賞で『ブス界』のような作品が大きな賞をいただけることはないだろうと考えていたので、本当に嬉しいです。


「人を食べるほど綺麗になれる」という強烈な設定。『ブス界へようこそ』(河野大樹/著)1巻より引用。

「人を食べるほど綺麗になれる」という強烈な設定。『ブス界へようこそ』(河野大樹/著)1巻より引用。

ーー商業誌の新人賞に応募されていた時期もあったんですね。高校時代の作品である『ブス界』を、Webで公開された経緯について教えていただけますか?


きっかけは、商業誌に持ち込むための読切作品を描くことに疲れてしまったことですね。受賞や連載が目的化してしまい、作品を描く楽しさを忘れてしまったんです。


そのとき友人から「『ブス界』の続きを描いてほしい」と言ってもらい、初心を思い出すためにも、自主的に連載してみようと。


ーーでは現在は、『ブス界』をとても楽しんで描かれている?


本当に楽しくやれていますし、大きな気づきも得られました。『ブス界』の連載以前に僕がしてきたことは、あくまで「創作ごっこ」だったなと。要は、作品を読んでくれるお客さんがいなかったんです。


ーーというと?


それまでは、編集者さんからしか作品への意見をもらうことはありませんでした。しかし、読者さんからリアルな反響をもらうことで、作品の執筆に対する意識が大きく変わり、責任感も生まれたんです。


昔は45ページほどの読切作品を描くのに最低でも3ヶ月、長くて半年はかけていましたが、Webで多くの方たちに読んでもらえるようになってからは、月に50ページくらいのペースで描くようになりました。


ブス界はまさに弱肉強食の世界。『ブス界へようこそ』(河野大樹/著)1巻より引用。

ブス界はまさに弱肉強食の世界。『ブス界へようこそ』(河野大樹/著)1巻より引用。

ーー楽しんでくれる読者さんに向けて作品を描くようになったと。『ブス界』は各種プラットフォームで投稿されるうち、自然に読まれるようになったのでしょうか?


前提として、『ブス界』はまだまだ知名度の低い作品です。それでも、読んでくれる方が増えてきたのは、マンガの配信代行会社であるナンバーナインさんをはじめ、『ブス界』を応援してくださった方々のお力が大きいです。


ナンバーナインの方々とは2019年の夏、自主出版本の展示即売会「コミティア」で知り合いました。


そこから彼らがレビュアーをしている『マンガ新聞』で取り上げていただいたり、『金剛寺さんは面倒臭い』のとよ田みのる先生をはじめ、商業誌の作家さんにTwitterで紹介していただいたりするうち、たくさんの人に読んでいただけるようになったんです。


ーープラットフォーム外で紹介されたことで、読者さんが増えていったと。河野先生の今後のご活動についても教えてください。


再び、商業誌での連載を目指します。『ブス界』を描くのも楽しいですが、せっかくマンガを描くなら、王道のやり方で結果を出したいんです。


その道を避けてWebで『ブス界』という作品を描き続けても、作家としてスケールしにくいと考えています。


主人公はブス界で、生前はなかった強い意志を持つ。『ブス界へようこそ』(河野大樹/著)3巻より引用。

主人公はブス界で、生前はなかった強い意志を持つ。『ブス界へようこそ』(河野大樹/著)3巻より引用。

ーーなるほど。今も連載用のネームを描かれていたりするのでしょうか。


はい、新しいネームに着手しています。僕のような素人がいきなり商業誌で連載を始めるのは簡単ではありませんが、『ブス界』という名刺のような作品ができたことで、僕の作品をつくる力や伝えたいことを商業誌の編集者の方に具体的に提示し、交渉しやすくなりました。


連載について、ポジティブに考えてもらいやすくなったと思います。今後は『ブス界』と並行して商業誌で別のマンガを描き、その作品がきっかけで『ブス界』にも興味を持ってもらえれば最高です。


いずれはマンガという媒体を超え、アニメや映画という形になり、世界中で楽しんでもらえる作品をつくりたいです。

あとがき

受賞された当日の夜、河野先生は移動時間の合間を縫って、通話での取材を受けてくださいました。スマホの画面越しにお話をしてくださった河野先生は、「Kindleインディーズマンガは、僕のような作家にも居場所をくれた」と嬉しそうに話されていました。


一般的に「Kindleインディーズマンガ」のようなプラットフォームでは、読者の方々による作品の閲覧を通じて獲得された広告費が、漫画家さんに分配されます。数が限られる雑誌の連載枠を奪い合う以外の方法で、漫画家さんがお金を稼げるようになったことは、それだけで素晴らしいことです。


さらに、そういったプラットフォームが河野先生のように“異才”とも呼べる漫画家さんが活躍できる場として機能することは、一人のマンガファンとしてとても嬉しいです。未知の才能を持つ漫画家さんたちが台頭する未来を想像し、期待に胸を膨らませるインタビューとなりました。