『ぬくとう君は主夫の人』読者が持つ家事に対する価値観を優しくあぶり出す

家事、してますか?

「毎日やってるよ!」という人もいれば、「家族任せで全然やってない!」という人もいるのではないでしょうか?

専業主夫が主人公の『ぬくとう君は主夫の人』を読めば、普段家事をしていない人ほど「家事」や「主夫」に対する価値観に気づかされるかもしれません。

©磯谷友紀/新潮社

『ぬくとう君は主夫の人』って?

作者は『海とドリトル』や『ながたんと青と-いちかの料理帖-』で知られる磯谷友紀先生。

『ぬくとう君は主夫の人』は、もともとは新潮社の文芸誌『yomyom』で連載していた作品。現在はwebコミックサイト『くらげバンチ』に移籍して連載中です。

家族がいるから頑張れる

抽冬(ぬくとう)優太、専業主夫。

©磯谷友紀/新潮社

現在小学4年生の娘・優香が1歳の時に仕事を辞め、それからずっと専業主夫。会社員の妻・歩香と娘を支えつつ、しっかり家事をするぬくとう君ですが、専業主夫であることにどこか引け目を感じてしまいモヤモヤすることもあります。

©磯谷友紀/新潮社

例えば、娘をバレエ教室のお迎えに行った時のこと。ちょっと早く着いてしまい、外で娘を待っていると、同じ教室に通う子のママにまるで不審者を見るような目で見られます。「こんにちは」とあいさつしても無視される始末。

パパが平日に迎えに来てるだけで不審な目で見られるのは理不尽すぎる…

別に悪いことなんて一つもないのに…。こういった一つひとつにモヤモヤしてしまいます。

そんなある日、娘が発熱。夜になっても熱が引かない娘はぬくとう君に「ママまだ帰ってこない?」と聞いてきます。その時、ぬくとう君の脳裏をよぎったのは、幼い娘の姿。いつもパパと一緒なのに、発熱した時には「ままがいい!ぱぱイヤ!」と言うのです。

そんな昔のことを思い出しながら「悪いけどパパと一緒に病院に行こう」と娘に声をかけます。いざ病院に連れて行くと、気管支炎一歩手前の危険な状態でした。病院で点滴を受ける娘の姿を見たぬくとう君は、ほっとして思わず涙。そんな彼に、娘はこう言います。

「パパで悪いけど」なんてことないんだからね 口グセになってるよ、やめてほしい。 大丈夫だよ。もちろんパパでもさ。

専業主夫として家のことをしていることは恥ずべきことは一切なく、むしろ誇れること。

どんなにモヤっとすることがあっても、家族がいてくれるから毎日頑張れるのではないでしょうか。

家事に対する価値観の違いが浮き彫りに

どんなに仲が良い人とでも、家事や家族に対する価値観が一緒とは限りません。作中の登場人物たちも、どうやらそのようです。

ここで、本作に登場する4人の男性の「家事」に対する考え方を比較してみましょう。

ぬくとう君の場合

家事をタスクとして捉え、クリアしていくことに喜びを覚えるタイプ

©磯谷友紀/新潮社

家事のチェックリストを作り、クリアしたタスク(家事)にチェックを入れるほど熱心。家事を通して家族と会話しているとさえ感じています。

安藤くんの場合

就活中の大学生・安藤くんは家事が大好き。普段から、同棲中の彼女の分も家事をやっています。

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ぬくとう君が専業主夫だと知ると「すっげ!!いいな!!」と目を輝かせ、むしろ自分も主夫になりたいと言います。筆者が感銘を受けたのは、このセリフ。

自分が楽しくてその上相手が喜んでくれるのっていいじゃないですか!! だから別にどっちがやったっていいんだと思うんですよー

柔軟な価値観の持ち主であり、ぬくとう君と価値観が近いタイプといえます。

神前さんの場合

会社員の神前さん(おそらく50代)にとって、家事は妻の担当であり、いざやろうとしてもやり方がわからないもの。

©磯谷友紀/新潮社

仕事が忙しくて家庭を顧みず、全てを妻に任せきりにして30年以上何もしてこなかった神前さん。いざ仕事が暇になって時間ができたから家事をしようとするものの、妻から「一切家のものを触ってくれるな」と言われてしまいます。

ぬくとう君の元会社の先輩

精神がマッチョの先輩は、家事はできないけど、できないところを他人に見せたくないプライドが高いタイプ。

気づけば汚部屋の住人になった先輩は、困り果ててぬくとう君を呼び出し、掃除を頼みます。「プロに頼めばいいのに」というぬくとう君に対して「この部屋見せるのはずかしいだろ」ときっぱり。

できないことをできないと言えない、完ぺきでなきゃという思い込みが彼を遮ります。

しかも、せっかく来てくれたぬくとう君に対して言ったのがこちら。

一足先に人生降りて昼間掃除してればいいんだろ?

引用元:『ぬくとう君は主夫の人』第5話

本作は主夫が主人公なので敵ポジションとしての発言のように感じますが、こういった考え方がいるのもまた事実。安藤くんとは対極的ですね。

価値観の違いはその人のバックグラウンドの違いでもある

ここに書いた4人だけでも、家事にどれくらい関わってきたのか、好きか嫌いか、年齢的なもの(時代の影響)によって、家事や主夫に対する考えや価値観が違うというのが分かるのではないでしょうか。

どの考え方が良いか悪いかではなく、読者自身はどの人に近いのか?それとも全く違った考え方を持っているのか?読んだ人に家事や主夫について考えるきっかけを与えてくれる作品です。

くらげバンチで連載中!

『ぬくとう君は主夫の人』は現在webコミックマガジン「くらげバンチ」で連載中です。

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©磯谷友紀/新潮社