苦手だったネーム作業を「好き」に変えた工夫は?福地翼先生にインタビュー!

マンガを描く際、コマ割りや絵の構図、セリフといったストーリーの骨格をつくる「ネーム」の作業。あくまで筆者の私見ですが、終わりの見えない創造的な作業ゆえ、「苦手な作業」として挙げられるマンガ家さんも多い印象です。

そんな中、「もともと苦手だったネームが、今では一番好きな作業になった」とTwitterで発信されているマンガ家さんがいらっしゃいました。『ポンコツちゃん検証中』を連載中で、『うえきの法則』シリーズ、『タッコク!!!』、『アナグルモール』、『サイケまたしても』などを描いてこられた福地翼先生です。

アルは「ネーム作業が好きになったきっかけ」を福地先生が描かれたマンガを紹介するとともに、苦手を克服するまでの過程について話を伺いました。

『苦手を克服した話』

©︎福地翼

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元のツイートはこちら。

ネーム作業の流れを細かく解説!福地翼先生にインタビュー

ーーインタビューをお受けいただき、ありがとうございます!まず、プロットの書き方を含め、福地先生のネームの作業の流れを教えていただきたいです。

まずプロットについてですが、僕は編集者さんと打ち合わせする際にほぼ固めてしまいます。その段階でストーリーラインが決まっていないと、結局ネームで詰まってしまい、かなり時間をロスしてしまうからです。


プロットの書き方はかなり雑で、大きめのノートの1ページに思いついたシーンから書いていき、後からストーリーとして適切な順番になるよう、矢印でつなげていきます。その段階で、「やっぱり要らない」と判断したシーンは消します。


その後、いくつかの項目を満たすプロットになっているかをチェックします。具体的には、「スムーズに読み始められる導入になっているか」、「ギャグは満遍なく入っているか」、「女の子の可愛さをちゃんと出せているか」、「見せ場があり、そのシーンに向けて物語が無理なく進んでいるか」、「最後のページでちゃんとオチをつくれているか」などです。

ーーものすごく体系化されていて面白い!そこから、ネームにしていくんですね。

ネームは1ページ目から順に描いていきます。連載中の『ポンコツちゃん検証中』は基本的に一話あたり14ページなので、最初の3ページくらいでその回のテーマを伝え、10ページくらいまで物語の軸になるコメディ、オチ前の13ページまでに見せ場のシーン、14ページのオチ…という感じで、頭の中で全体の流れをイメージしながら描いています。


「よし、今回もちゃんと終わりそうだ」と思える11ページ辺りを描いているときが、一番テンションが上がります(笑)。


ポンコツちゃん検証中の詳しい設定はこちらをご覧ください!福地先生自ら描かれた説明マンガが掲載されています。

ーー終わりの見えない作業に目処がつくと、嬉しいですよね(笑)。『苦手を克服した話』ではご自身を「比較的ネームを上げる方が速い方」と表現されていましたが、マンガ家さんたちは一般的に一話分のネームにどれくらい時間をかけるものなのでしょうか?

この仕事を始めた頃に、謝恩会で複数の作家さんに聞いた感じだと、平均3日から4日くらいでしょうか。ただ、ものすごく速い方は6時間ほどで描き上げるそうですし、ネームに6日かけても作画を1日でできる…といったすごい話も聞きますので、一概には言えないかもしれませんね。

ーー1日で作画が終わるのはすごい…!それぞれのマンガ家さんによって、作業ごとにかける時間には大きな差がありそうですね。福地先生は「昔はネームが一番苦手で嫌いな作業だった」とのことですが、具体的にどれくらい苦手だったのでしょうか?

まず、苦手意識が凄すぎて作業を始めるのが遅かったんです。最初の2日くらいは白い紙を前に「うーん、うーん」と唸って悩むばかりで…。めちゃくちゃ億劫だったんです。3日目になり、「流石に始めないと作画が間に合わない!」と、初めてネームに取り掛かるという恐ろしいことをやっていました。

しかも、作業を始めたら速いかといえばそんなこともなく(笑)。毎回泣きながら時計の針と競争です。ネームが上がっても編集さんからの直しが結構あったりして、そこから紙を切り貼りし、何とか4日目にOKが出る…という流れを繰り返していました。毎週、「今回こそは終わらないかもしれない」と思いながら、綱渡りしている感じでした。


Twitterでは実際のネームをよく公開されている福地先生。とても参考になります。

ーー週刊連載で制作にあてられる時間も少ない中、2日も手が付けられないくらい苦手だったんですね…。それほど苦手だったネームが、「好き」に変わった理由についてお聞きしたいです。

僕もまさかネームを好きになる日が来るとは、思ってもみませんでした。一番の理由は、効率が上がって「ネームは1日半あれば終わる」という安心感を得たことだと思います。お仕事なので当然ですが、今までは締め切りまでに終わらせることが第一で、内容はその次だったんですね。


でも今は締め切りまでには終わる安心感があるので、作品を面白くするために頭のメモリを100%費やせます。もともとマンガが好きでこの仕事をしているので、マンガを面白くすることに全力を注げる状態が、楽しくて仕方ないんです。そして、ネームを早く上げられればブラッシュアップのためにさらに時間を使えますし、良いことだらけなんですよね。

ーー制作を楽しむ余裕が生まれたことで、ネーム作業が好きになっていったんですね!具体的にいつ頃から、ネーム作業を「好き」と感じられるようになったのでしょうか?

恥ずかしながら、ごく最近です(笑)。具体的には、ポンコツちゃんの前に連載していた『サイケまたしても』の途中からでしょうか。サイケは1巻ごとに休載を挟む「シリーズ連載」という形式を取らせていただいていたんですが、途中からネームのペースがぐんと上がったので描きためができていき、サイケの最終話が載る頃には、ポンコツちゃんのネームが10話くらい上がっていました(笑)。

ーーすごい!習慣を少しずつ変えていくことでネーム作業が好きになられたとのことですが、『苦手を克服した話』の3ページ目に書かれていた、習慣の変化について詳しくお聞きしたいです。それぞれ、なぜその方が効率が上がったのかが気になります。

これはなぜでしょうね…。とにかく「ネームが捗ったときの状況」を再現しているだけなんです。よく周りの人に「考えられない」と驚かれるんですが、僕はアシスタントさんがいるときのほうが、ネームが捗るんですよね。


もともと締め切りに追われてアシスタントさんが来ていたときにネームを描かざるを得ない状況になったんですが、これがことの外やりやすくて。じゃあ、次からアシスタントさんが来ているときにやろうと。

例えば一緒にいて心地良いなーって人っているじゃないですか。なぜ心地良いと感じるのか分からないけど、またこの人と一緒に飲みにいきたいと思いますよね。同じように、ネームをやっていて心地良いと思える仲間を集めているんだと思います。

ーーどんな習慣がハマるかは人それぞれだから、自分に合ったやり方を探っていくしかないということですね。最後に、マンガファンの読者や、ネームに悩むマンガ家さんに伝えたいメッセージがあれば教えてください!

「好きこそ物の上手なれ」って言葉があるじゃないですか。僕はその逆もあると思うんですよね。もともと苦手なことであっても、できるようになると好きになれる。せっかくマンガが好きでマンガ家になったんだから、ネームができないことでマンガの執筆自体が辛いものになってしまうのは勿体ないですよね。

「自分にもできる」と感じられるようになれば、また「マンガを描くのは面白い!」という感覚が戻ってきますので。僕のマンガを読んでくださっている方々も、苦手なことがあると思いますが、おそらく今回のお話は何にでも当てはまることだと思います。みなさんの苦手が「できた!」「好きだ!」に変わるきっかけを与えられれば嬉しいです。

あとがき

TwitterのDM経由でのインタビューにご回答いただいた福地先生、お忙しいなか本当にありがとうございました!マンガ家さんだけでなく、あらゆる仕事をされている方にとって、為になるお話をしていただきました。

マンガとは違いますが、筆者も「Apple Watchで作業時間を測る」、「インストゥルメンタルの曲しか聴かない」などの習慣を積み重ねていくことで、時間がかかっていた記事の執筆作業から苦手意識がなくなった経験があり、福地先生のお話にとても強く共感しました。

福地先生もそうであったように、苦手な作業はつい先延ばしにしてしまったりするものですが、苦手だからこそ上手くできない理由を分析し、好きに変えることもできるはずです。

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