漫画家さんがマンガで生計を立てていけるようになるまでには、途方もない苦労の積み重ねがあります。作品をつくるのはもちろん、出版社へと持ち込み、編集者とのやり取りを経て連載会議に提出され、そこで認められてやっと雑誌やWEBに掲載されます。
しかし、このステップには半年から数年かかることも珍しくなく、その間、漫画家さんは作家としての収入を得ることができません。さらに、連載が決まって出版社と契約する際は、他社からの同作品の出版は一般的に許諾されません。
連載が終了した後であっても、契約期間が切れるまで漫画家さんは作品を他社に持ち込めず、活躍の機会を制限されてしまいます。自分のマンガが世に出たとしても、決して生活を約束されるわけではないのです。
SNSの登場で、個人が自力で作品を届けられる時代になりましたが、マンガで生計を立てるためには、出版社を介した商業化が未だメインの選択肢と言えるでしょう。
そういった状況で、「LINEマンガ」を運営するLINE Digital Frontier株式会社による「フロンティアデビュープログラム」は、マンガで生計を立てるための新たな選択肢となり得るかもしれません。
フロンティアデビュープログラムは連載会議を廃止しており、サービスの運営メンバーが一人でも面白いと感じたら、トライアル連載が決定。デビュー前から原稿料が支払われ、連載終了後に他社を通じた作品の出版が制限されることもありません。
アルは、累計発行部数60万部の人気作品『こぐまのケーキ屋さん』の著者・カメントツ先生をゲストに招いて行われた、フロンティアデビュープログラムのリリースイベントに潜入してきました。
イベント会場には、漫画家志望者を中心に、80名近くのギャラリーが参加。カメントツ先生が独自の視点で語った「明日漫画家になる方法」に、参加者は興味津々。大盛況のうちに幕を閉じたトークセッションの様子を、ダイジェスト形式でレポートします。
※ご指摘を受け、作品の著作権に関する記述の一部を修正いたしました(2020年4月8日)。
漫画家のキャリアをつくる基礎体力“五大満力”とは?
キャリア4年目の“新人漫画家”でありながら、自身の作品がもたらした経済効果はおよそ10億円。大学講師という一面もあり、数人の生徒をデビューさせた実績もあるカメントツ先生。自己紹介を終えると、早速漫画家になるために必要なアドバイスを独自の視点で語ってくれました。
カメントツ先生:レポートマンガとキャラクターマンガを得意とする漫画家。著作『カメントツのルポ漫画地獄』は1,000万PV以上を記録し、自身のSNSに掲載し書籍化した『こぐまのケーキ屋さん』は、累計発行部数60万部を突破。現在は、京都精華大学 新世代マンガコースの教員も務める。
カメントツ:漫画家を目指すみなさんは、まず「五大満力(ごだいまんりき)」という言葉を覚えていただきたいです。この言葉は僕の造語であり、漫画家に求められる5つの能力を端的に表したものです。
「漫画家」と一口に言っても、人によって、それぞれ得意なことが異なります。マンガって、ものすごく大雑把に語られがちなんです。音楽に例えると、ジャズやロック、クラシックなどの複数ジャンルが一緒くたに語られているイメージです。
なので、まずは自分がどのカテゴリに属しているのかを把握しましょう。カテゴリ別に成長の仕方は異なるので、適切に漫画家としての戦闘力を伸ばすために、最初にやるべきアプローチです。
今日はそれぞれのカテゴリの特徴を説明した上で、カテゴリごとにどうやってスキルを伸ばせばいいのかをレクチャーしていきたいと思います。
カメントツ:「レゴ」タイプの人は、絵を描くといっても、マンガを描くことではなく、“紙の上で遊ぶ”ことが好きなタイプを指します。たとえば、存在しない町や、細かい機械の絵を、ただただ描くのが好きな人です。僕もこのタイプに該当します。
「レゴ」タイプの人は、自己満足で絵を描いてしまうケースが多く、客観的な評価をあまり気に留めないため、作画スキルが伸びにくい傾向があります。また、キャラクターを生み出すことも不得意なケースが多いです。
僕が描いた『こぐまのケーキ屋さん』に登場するキャラクターの「店員さん」は、実際に存在する身近な人物をモデルにしたため、キャラクターについてゼロから考える苦労をせずに済みました。彼がすることはおおよそ想像がつきますし、それを店員さんに当てはめれば、活き活きと動いてくれますからね。僕はこうした手法を“現実世界の二次創作”と表現しています。
作画に関しては、数をこなしさえすれば上手くなるので、とにかく描きましょう。僕はまだ、下手なままなんですけど(笑)。
カメントツ:「作画」タイプは、小学生のときに、クラスで一番絵が上手かったパターンの人。「絵を描くのが好き」というモチベーションで漫画家を目指すタイプですね。
実は、「作画」タイプの人は“要注意”です。漫画家を目指す人のなかで日本人に一番多いタイプなので、よほどの天才でない限りデビューできません。作画以外の四大力をいかに伸ばせるかが勝負の分かれ目になりますが、それができれば最強のプレーヤーになれます。
特に「ネーム」と「キャラ」の二つの力を伸ばすことができれば、一人で十分に戦えるプレーヤーとして活躍できるはずです。
カメントツ:「ネームタイプ」は、マンガを描くのが好きな人です。ネームの作成に煮詰まることがなく、アイデアが次々に出てきます。原稿用紙にサクサクと描くだけでマンガを成立させてしまう、天才タイプですね。
ただ、打算が苦手。読者が求めていることや、売れるマンガの文脈を教えてくれる優秀な編集者と出会えないと、一生日の目を見ないタイプでもあります。
しかし、ネームは“マンガの根幹”であり、ネームタイプの時点で、漫画家として活動していく上での困りごとは少ないと思っています。「話がつまらないけど、絵が最高に上手いから買う」ということは滅多にありませんが、逆に「絵はイマイチだけど、話が最高に面白いから買う」ことはありますよね。
先ほども申し上げたように、日本には作画タイプの人がたくさんいます。なので、仮に絵が苦手でも、絵が得意な人とタッグを組みさえすれば、活躍の場が拓けていくと思います。
カメントツ:「キャラ」タイプの人とは、マンガやアニメを観ていると、ついついオリジナルの展開を考えてしまうような人です。彼らはキャラクター同士の人間関係やシチュエーションそのものに強い関心を抱き、好みの設定を与えられると、アイデアが湯水のように湧いて出てきます。
ただ、照れ屋で自分勝手な性格の人が多い印象です。自分自身をさらけ出すことが苦手なので、自分でつくったキャラクターを動かそうとすると、照れてしまいがち。なので、とにかくオリジナルのネームを描いて、慣れてください。
最後は「企画」タイプについて。偏見かもしれませんが、広告代理店にいそうな、いわゆるクラスの“リア充集団”に所属していたタイプですね。彼らは文字通り企画力に優れていて、人が楽しんでくれるアイデアを出すことに秀でています。
ただ、企画が得意な分、作画能力が壊滅的なパターンも少なくありません。なので、原作担当として活躍する道を選択肢として考えてみてもいいかもしれません。
「企画」タイプの人は、活躍するために、とにかく数を打つことをおすすめします。当たり前の話かもしれませんが、企画は数を打つだけ当たる可能性が高くなっていきます。自分にノルマを課し、毎日マンガの設定を考えたり、ネームを描いたりしてみてください。
“表現欲求”がないと、プロにはなれない
カメントツ先生によるゲストトークが終了すると、「LINEマンガ」編集部編集長の中野崇さんとの対談が行われました。対談のモデレーターを務めたのは、フロンティアデビュープログラムの立ち上げ責任者である小室稔樹さん。
トークセッションのテーマは、カメントツ先生のデビューにみるSNS時代の漫画家像と、「LINEマンガ」の展望についてです。
小室稔樹さん:LINEマンガ 企画運用部所属、フロンティアデビュープログラム立ち上げ責任者。音楽業界、ゲーム業界、マンガ業界と渡り歩き、マンガアプリ「comico」にて編集長を務める。その後、LINE株式会社に入社し、LINEマンガ インディーズで新人賞の企画を担当するなど、新人作家の発掘に従事。
小室:カメントツさんが『こぐまのケーキ屋さん』を初めてシェアされたツイートは、10万回以上もリツイートされています。最初から「これはバズるだろう!」という確信があったのでしょうか?
カメントツ:予想はできませんでしたね。マンガを描き終えたときって、「自信がありつつ、自信がない」というか、非常にアンビバレントな気持ちになるんです。「話題になるかもしれない」という期待を持っていましたが、その反面「ちょっとしかリツイートされないんじゃないか」という不安もありました。
小室:どのくらいの期間で出版が決まったのでしょうか?
カメントツ:Twitterがバズったその日のうちにオファーをいただき、最終的にはフォルダがパンクするほどメールが届きました。ご連絡をいただいた出版社の中から、6日間かけて出版する会社を選んでいます。そこからあれよあれよとグッズ化や出版が決まったので、マネタイズにも時間はかからなかったですね。10万リツイートの破壊力を思い知りました。
中野崇:LINEマンガ編集部 編集長。株式会社スクウェア・エニックス在職時に青年漫画誌「ヤングガンガン」「ビッグガンガン」の創刊編集長を歴任。2017年1月、LINE株式会社に入社し、LINEマンガ編集部 編集長としてオリジナル作品のプロデュースに従事。
中野:ものすごいスピードですね。カメントツさんのように、これからの時代は、自己プロデュースができる作家さんが売れていく時代になっていくと思います。ただ、誰もがそうした能力を持っているわけではありません。
「LINEマンガ」は、そうした作家さんをに光を当て、漫画家としてのキャリアをサポートしていきたいと思っています。フロンティアデビュープログラムで才能を発掘し、編集部はデビュー後を支えていくイメージです。
小室:中野さんは編集長として、新人漫画家のどのような点を見ているのでしょうか。
中野:カメントツさんがおっしゃる“五大満力”ではないですが、何かキラリと光る強みを持っている人に注目しています。得意なことが一つあれば、その力に特化することが、活躍につながっていくと思います。
カメントツ:あくまで僕の考えですが、「漫画家になりたいという漠然とした夢はあるものの、描きたいことがない」タイプの人は、キャリアをつくるのがなかなか大変だと思います。
そうした人は「俺は『ONE PIECE』が好きだ」と言いながら、海賊マンガを描きがちです。しかしそうではなく、『ONE PIECE』の何が好きなのかまで踏み込んで考えないと、自分にしか描けないマンガをつくることはできません。
中野:マンガは自己表現ですからね。“表現したい欲”がないと、プロにはなれないと思います。
LINEマンガは、漫画家同士のマッチングも支援予定
カメントツ:せっかくの機会なので、僕からも質問させてください。LINEマンガさんとして、今後注力していきたいジャンルはありますか?
中野:年齢や性別を問わず、オールジャンルを取り扱うプラットフォームなので、オリジナル作品もそのスタイルは貫いていくつもりです。ただ、現在は女性ユーザーが多いので、恋愛マンガは特に注力していきたいと思っています。
小室:ジャンルの話とは少し逸れますが、フロンティアデビュープログラムとしては、マッチングの可能性にも目を光らせています。
インディーズの作品を拝見していて、「この原作者とこの作画の方をマッチングしたら、素晴らしい作品になりそうだ」という発見をすることがよくあるんです。漫画家を目指す方は、そうした取り組みにも注目していただきたいなと思っています。
カメントツ:実は僕、製作途中の新作(※)があって、どのプラットフォームで公開しようか考えているんですよね。
※イベント開催後、Twitterで公開されています。こちらのリンクからぜひ読んでみてください。『ねこのグルグル』
中野:この対談が終わったら、少し会議室でお話しさせてください(笑)。
カメントツ:ありがとうございます(笑)。じゃあ、トライアル連載からスタートします。やるからにはガチンコで。
小室:よろしくお願いします!残念ですが、早くもお時間になってしまいました。みなさん今日は、どうもありがありがとうございました。
あとがき
トークセッションが終了すると、デビューを目指す“未来の漫画家”たちとの質疑応答の時間が用意されました。
技術力向上を目指す質問が多数寄せられ、「イベントの参加者からベストセラー作家が誕生する日も、そう遠くないかも?」そんな期待が膨らむ時間になりました。
またイベントの最後には、カメントツ先生によるライブドローイングが行われました。漫画家さんが絵を描く姿は、なかなかみれるものではありません。参加者はもちろん、「LINEマンガ」のお二人も興奮冷めやらぬ、特別なイベントになりました。
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フロンティアデビュープログラムが気になった方は、以下のリンクからどうぞ!