【特別対談】竹良実×荒川弘 『バトルグラウンドワーカーズ』完結を祝して両作家が語る、ヒーロー像と敵キャラクターの条件

未知の生命体「亞害体」に立ち向かう、人型兵器「RIZE-ライズ-」を遠隔操縦するパイロットたちの戦いを描いたSFロボットアクション大作『バトルグラウンドワーカーズ』。

『バトルグラウンドワーカーズ』

大迫力の戦闘シーンはもちろん、物語が進むにつれて真相や敵の真意が明らかになる重厚な群像劇が魅力的で、従来のSFロボットアクションとは一線を画すその面白さは大きな話題を呼びました。そんな本作は2021年9月に完結を迎え、コミックス最終巻となる8巻が11月30日に発売されます。

そして、この度『バトルグラウンドワーカーズ』の完結を祝して、作者・竹良実のデビュー以来のファンだという大人気漫画家・荒川弘との特別対談が「週刊スピリッツ」(52号/11月29日発売)で実現!

今回は、本誌に掲載されている特別対談のダイジェストに加え、アルライターが独自に聞いた、ここでしか読めないスペシャルインタビューをお届けします。人気作家2人が語る理想のヒーロー像や魅力的な敵キャラクターの創出、そして、知られざるプライベートは必見です!


<プロフィール>

竹良 実(MINORU TAKEYOSHI)

青森県出身。2013年、スピリッツ編集部に持ち込みをした『地の底の天上』でデビュー。初連載作は、16世紀の女子修道院を舞台とした『辺獄のシュヴェスタ』(全6巻/月刊!スピリッツ)。本誌にて連載満了した『バトルグラウンドワーカーズ』(全8巻)が連載2作目となる。

荒川 弘(HIROMU ARAKAWA)

北海道出身。TVアニメや実写映画にもなった大ヒット作『銀の匙 Silver Spoon』(全15巻)が2019年に完結。他に代表作は『鋼の錬金術師』、『アルスラーン戦記』(原作:田中芳樹)、『百姓貴族』。現在、「月刊少年ガンガン」での新連載を準備中。


今後描きたい「ヒーロー像」とは

ーー『バトルグラウンドワーカーズ』完結おめでとうございます。主人公の平 仁一郎(たいら じんいちろう)は、とにかく真面目で優しくて、元会社員だけあってバトルだけではなく事務仕事もしっかりとこなす様子が正統派ヒーローとはまた違った魅力があって印象的でした。お2人が憧れていたり、今後描いてみたいヒーロー像はありますか?

前作の『辺獄のシュヴェスタ』では、主人公のエラを強い女性として表現したつもりが、最終的に「慈愛」にたどり着いたので、反対に優しい男性を描いたらすごく強い人になるのではと考えて仁一郎を作ってみました。

『辺獄のシュヴェスタ』エラ・コルヴィッツ

エラや仁一郎で、それぞれ一貫した強さと優しさを表現したので、今後は、ズルいけど実は芯があったり、普段はだらしないけれど絶対に仲間を見捨てなかったり...。悪い面と良い面の両方を持っているような、ギャップのあるヒーローを描けるようになりたいです。

『バトルグラウンドワーカーズ』平仁一郎

仲間を見捨てないのはヒーローにおいて最低限の条件ですよね。あとは、平(仁一郎)君みたいにここぞ!という時に現れるのも(笑)。『バトルグラウンドワーカーズ』の4巻で「RIZE-ライズ-」の機体が海に沈んだ時、そして6巻で描かれるあの展開...。もうこれぞヒーロー!って感じでワクワクしました。

『バトルグラウンドワーカーズ』

少年漫画的な熱い展開は、いざ描いてみるとすごく気持ちの良いものだなと思いましたね。

――そもそも、荒川先生は漫画を描く時にヒーロー像というものは意識されているのでしょうか?

ヒーローは世界を救うものだ!とか、そういった大層なことは考えていないです。世の中はそれぞれの人間の地道な行動の積み重ねで動いているわけで、ヒーローだって同じですよね。その行動が目立つか目立たないか、の差だけなのかなと。ぶっちゃけ、その人が死んでも世界はまわるんです。だからこそ、自分が生きている間は次の世代のために一生懸命コツコツと世界をまわす、そういうことですよね。

ただ、そうは言っても、読者さんが求めるのはスカッとする活劇でしょうから、そこはバランスも重要なんですけどね。

敵キャラクターの条件

――ヒーローと切っても切り離せない存在といえば敵キャラクター。『バトルグラウンドワーカーズ』や『鋼の錬金術師』にも敵キャラクターがたくさん登場しますが、完全なる悪ではなく、複雑な内面を抱えているからこそ魅力的に感じました。お2人が敵キャラクターを描く上で意識していることを教えてください。

敵キャラクターはある程度筋が通っていることが必要だと思います。そうでないと、敵の組織に属すキャラクターが付いてこない、組織として成り立たなくなってしまいます。でも、『鬼滅の刃』の(鬼舞辻)無惨さんみたいに、圧倒的に強くて1人で自由に暴れても活躍できる方は例外ですけどね。あれはあれで描いていてスカッとするのでしょうね(笑)

私は『辺獄のシュヴェスタ』で初めて敵がいる物語を描きました。だからエーデルガルト総長を描くときは苦労しましたね...。ただ単に強くて悪い人を描いただけでは面白味がなくなってしまう。だからと言って、悲しい過去を持たせると、反対に怖さがなくなってしまうんです。

『辺獄のシュヴェスタ』エーデルガルト

こざき亜衣先生の元でアシスタントをしていた時に、どうすれば良いのか相談したら「自分の中ではキャラクターの過去をきちんと考えておく、でもそれは本編で描かないやり方もあるんじゃない?」とアドバイスいただいたんです。それ以来、敵キャラクターを作る時はそのやり方を踏襲しています。

『バトルグラウンドワーカーズ』の場合は、少なくとも人間が敵ではないですよね。最終的にぶつからなければいけない敵というか、壁は社会。与儀長官も敵キャラクターというより、その社会の一つとして描かれていますよね。

『バトルグラウンドワーカーズ』与儀小百合

そうなんですよ。敵は人間ではなく、社会システムというか...。だから、与儀さんも堂島部長も、エーデルガルト総長のように敵キャラクターゆえの謎のカリスマ性を持っている感じにはどうしてもならなかったんです。でも、いつかは理屈を超えたカリスマ性のあるラスボスを描いてみたいと思っています。

カリスマ性かあ…わかる気がします。

キャラクターの倫理観とは?

ーーお互いの作品で印象的なシーンを教えてください。(以下スピリッツ本誌より一部抜粋)

銀の匙』で、キャラクターが議論するシーンが好きなんです。エンタメ作品なら「こっちがいいよ」という方向で物事を解決して勝つほうが気持ち良いですよね。簡単に白黒を付けられない話で、両方の意見を描くことの難しさは感じませんでしたか?

『銀の匙』竹良先生が一番好きなシーン(第15巻の77ページ)

そもそも勝ち負けの話ではないから答えを出さなくていいんですよ。大人は政治的な判断で一定の答えを出さなければいけないことがありますが、八軒達はまだ高校生なので、色々な意見をぶつけあうだけでいいと思っているんです。

――たしかに、『銀の匙』では八軒が入ることで、農家の子だけでは起きなかった議論が発生しますよね。

異物が入ることで壊れるのではなく、より強くなる組織のほうが健全だと思っていて。農家の子は覚悟が完了しているから「肉うめえ!」で終わってしまって、議論が起こらないんですよ(笑)。

『辺獄のシュヴェスタ』では、エラが自分の意思を通すために人を殺さなければいけなくなる展開があって、自分でもすごく考えましたね。結局エラは手を下すのですが、そのことを肯定はしない。その気持ちが最初はわからなくて、描きながら理解していった感じでしたね。

――反対に『バトルグラウンドワーカーズ』の仁一郎は人を殺さないことが希望になっていますね。

現実では無理でも、漫画の中では理想を描いたほうがいいのではないかと思って。物語としての面白さとリアリティが対立する時があって、理想と現実のどちらを取るのかが毎回の悩みどころでしたね。

現実とフィクション

――荒川先生は『バトルグラウンドワーカーズ』で印象的なシーンを挙げるとするならば、どこでしょう?(以下スピリッツ本誌より一部抜粋)

6巻の新宿市街戦が印象的で、ここでやっと一般の人々が「えっ?」となる。亞害体が飛んできているのに、呑気にスマホを構えていたせいで頭を吹き飛ばされるカップルがいるんですよ。「ああ、こういう人いるよね」と…。どこか他人事として捉えている感じがあります。

――新宿で亞害体とRIZEを戦わせる展開は早い時期から考えていたのでしょうか?

ずっと離れた場所で戦っていたから、活躍するところを皆に見てほしいという気持ちがありました。街中の戦闘で、RIZEと人の大きさを比較できる絵も描きたかったんです。

新宿御苑や駒沢オリンピック公園からRIZEが出てくるのは燃えますよね。地下の格納庫からロボットが発進する!

人のいない時間帯に新宿に写真を撮りに行って、御苑の周りを歩きながら「どこから出てくるのかな」と考えていました。

キャラクターの倫理観、そして現実とフィクションについてお2人が思うことを一部抜粋してお届けしました。気になる全容は「週刊スピリッツ」(52号/11月29日発売)をご覧ください。

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気になるお2人のプライベート

――作品についてお伺いしてきましたが、ここからは気になるお2人のプライベートについて踏み込んでいきます!早速ですが、お菓子や飲み物だったり原稿作業中の「お供」のような存在はありますか?

私はコーヒーをよく飲んでいます。

私も最近はコーヒーを飲むことが増えてきましたね。あとはお茶、紅茶、中国茶...。結構なんでも飲みますね!

――やはりコーヒーは眠気覚ましなのでしょうか?

コーヒーごときで目は覚めません(笑)。そもそもカフェインが目覚ましに効くという経験をしたことがないです。コーヒーを飲むようになったのは、イギリスに行ったことがきっかけなんですよね。イギリスといえば紅茶の国だと期待して紅茶を頼んだら、日本でも飲めるようなティーバッグで出てきたんです。むしろ、コーヒーの方が美味しくて、結果的にコーヒーに目覚めて帰国しました(笑)。竹良さんは何かつまみながら描いていますか?

チョコレートなどを食べる時はありますが、あまりこだわりはないですね。

――ラジオや音楽など、作業用BGMは流していますか?

軽めの作業であればラジオを聞くのですが、キャラクターをしっかり描くときは無音が多いです。あと、ネームも無音じゃないと集中できないですね。最近は、せせらぎの音や森の音などのBGMを聞くこともあります。

ネームを外でやるときは喫茶店など雑音が多いところでやりますね。長居しちゃいけないので「早く描かなきゃ!」という気持ちが働いて、自宅や仕事場よりも集中できるんです。仕事場で作画の作業をする時は「島田秀平とオカルトさん!」というオカルト系のラジオやYouTubeなどを最近聴くようになりました。

怪談などのオカルト系はマンガ家の間で人気が高いですよね(笑)

ーー仕事が煮詰まってアイデアが全く出てこない時や、プライベートに気を取られてしまった時は、どのようにして気持ちを切り替えていますか?

漫画家になるまでは実家で農業をやっていたので、仕事とプライベートが入り混じった状態には慣れているんですよ。

――確かに農業は天候や災害など自分ではどうにもならないことが多いですよね。

そうですね。でもその経験のおかげで、気持ちの切り替えが早い方かもしれないです。「どうにもならないものは、どうにもならない」と。そういう考えは漫画にも出ているかもしれません。竹良さんは行き詰まった時、どうされていますか?

私は歩くことが多いですね。音楽を聞きながら広い国道を2〜3時間くらい歩きます。

気が付いたら知らない道路にいることってありませんか?引っ越してすぐの頃、ネームについて考えながら歩いていたら、気が付くと「ここはどこ?」という経験がありました。

ありますね(笑)!でも、やっぱり歩くと捗りますよね。

体を動かしていた方が脳も活性化するのでしょうか...。私も新人作家の頃は、夜中に歩いていました。いや、徘徊かな(笑)。

――無心になって歩くことでアイデアが浮かんでくるのでしょうか?

歩いている時は「これだ!」というところまではいかないんですよ。アイデアが浮かぶというよりも、気持ちが明るくなっているだけかもしれません(笑)具体的なアイデアは、帰宅してから、お風呂中に浮かぶことが多いです。一時期は、迷ったり悩んだ時には必ず銭湯に行っていましたね。ここに行けば何かしらアイデアが浮かぶ!という絶対的な信頼を銭湯に寄せていました(笑)。

ルーチンワーク的なものですよね。それでいうと、山歩きをしている時には頭の中がすごくシンプルになるんですよ。命の危険性がそこかしこに転がっていて、思考が生き残る方向に全部行くので。悩みがあったとしても、山を歩くと熊やイノシシに出会うこともあるし、足を滑らせたら谷底に落ちてしまうかもしれない。生きることを最優先にして歩くと、余計な考えが削ぎ落ちて自分は今なにをすべきかというシンプル思考に行き着く。だからたまに山歩きをしたくなるんです。でも普段の私は、煮詰まった時は寝ちゃうことが多いです(笑)。

起きたら気分はすっきりしているんですか?

いや「もっと寝たい」という気分ですよね(笑)。ずっと寝ていたい気持ちを堪えて、机に座ると。このご時世だと気分転換に映画館へ行くことも難しくなってしまいましたからね。息抜きは何が最適なんでしょう…。

煮詰まった時の最終手段は、結局は机に向かってとにかく考えることになりますね(笑)。

『バトルグラウンドワーカーズ』完結を記念して実現した、作家2人の豪華な対談。
物語論やそれぞれのキャラクターの創り方などに迫った様子は11月29日発売の「週刊スピリッツ」52号にて5ページに渡り掲載中。お見逃しなく!

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記事内に登場した作品

OGP及び記事内の画像は小学館「ビッグコミックスピリッツ」編集部の許諾の元掲載してあります。
快く許諾していただきまことにありがとうございます。
©荒川弘/小学館 ©竹良実/小学館