【瀬川環先生へインタビュー!】『三文小説集 瀬川環作品集』男女の歪で不可思議な愛の形を描く「野犬シリーズ」が生まれた背景とは

自身のTwitterに投稿した『僕は兄になりたかった』が1000万PVを突破し、人々の感情に強く訴えかけるその作品性に大きな注目を集めている瀬川環先生。

先月には、瀬川環先生にとって初となる作品集『三文小説集 瀬川環作品集が発売されました。

『僕は兄になりたかった』はもちろん、一組の男女の歪で不可思議な愛の形を描いた「野犬シリーズ」などが収録された本作。

今回は、表紙を飾る男性・橘の物語「野犬シリーズ」が生まれた背景や見どころを瀬川環先生に伺いました。

三文小説集 瀬川環作品集 (BRIDGE COMICS)
瀬川環/著

一組の男女の歪で不可思議な愛の形

幼い頃、父親が起こした事件によって心に傷を負った主人公・橘啓吾。心の傷が癒えないまま大人になった橘は、ある日行きずりの女性・綾川ツキに過去の辛い出来事を打ち明けます。

自分の心の傷に寄り添ってくれた綾川に心を許す橘ですが、後々この出来事のせいで橘の人生は一変していくのです。

三文小説集 瀬川環作品集』に収録されている『野犬夜曲 ろくでもない犬の唄』『野犬狂想曲』『野犬追想曲』計3作品の通称「野犬シリーズ」では、橘と綾川が織りなす歪で不可思議な愛の形を描きます。

瀬川環先生が語る、創作の背景

ーー「僕は兄になりたかった」は、ご自身の体験や音楽からインスピレーションを得た作品だと仰っているインタビューを拝見しました。『野犬夜曲 ろくでもない犬の唄』『野犬狂想曲』『野犬追想曲』という物語はどのようにして生まれたのでしょうか?

数年前に「モーニング」で、新人マンガ家向けのヒロインがテーマの読み切り企画があったんです。当時の私は、ヒロインでありながらラスボスでもあるというコンセプトの話を作ったのですが、個人的にその組み合わせが凄い好きで気に入ったことが始まりです。

当時の設定は今と異なっていますが、橘とツキのキャラクターの性質、描きたかった関係性はその頃からあまり変わってないです。実はこの2人の関係性をどうしても描きたくて、過去に4回ほどネームを描いたのですが当時はうまく2人の魅力が出せなかったんですね。


今回担当して下さったMさんは「もしかしてやりたい事はこういう事ですか?」と概念を汲み取ってくれて、橘とツキの危なっかしい2人の魅力を最大限に引き出してくれてようやく形になりました。なので引き出し上手のMさんと出会えたことは本当に幸運でした。

ーー野犬シリーズは、橘とツキの不可思議な関係性が物語を一層盛り立てますが、この2人を描くにあたり、気をつけたところなどはありますか?

ツキの暴力性が大きいので、橘という被害者が加害者であるツキに丸めこまれてしまった、傷つけられた事が色恋でうやむやにされた...という後味がもやもやするような読後感にはさせないようなるべく気をつけました。

また、面白ければなんだって現実を利用するというツキの作家性はかなり恐ろしいので、私自身が納得できる理由を見せることができたら読者も2人の結末に安心できるかもと思い、野犬夜曲の最後のシーンではツキの心情を載せました。

ーー特に気に入っているセリフやシーンなどありましたらお聞かせください

台詞ではツキの「生きるのに必死な時はね 余裕なんか何もないですよ だからなんでも利用したらいいんです 生き延びるための嘘も 私の事も 全てあなたの為に利用したらいい」が一番気に入っています。息苦しいと感じている人に仄かでも明かりを感じてくれたらいいなと思います。

ツキが今の自分になるまでを綾川に話しながらアドバイスをする印象的なシーン

シーンではツキが橘の心臓を抉り出すところですね。誰にも見せたくない、痛い生の感情を好きな女には触らせてやっている関係が凄く濃厚で、2人の関係性が表れていて凄く好きです。

ーー読者にはどんなところに注目してほしいですか?

本当に自分の好きなものしか描いていない作品なのでどこに注目されても嬉しいです!

表情もセリフ回しも見せたい概念もかなり楽しんで描きました。

ーー今後どのような作品を描いていきたいですか?

今回の野犬シリーズのように自分でもこういうのが読みたかったんだと思えるような

作品をこれからもつくっていけたら嬉しいですね。

お忙しい中貴重な時間をいただきインタビューに応じていただいた瀬川環先生に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました!

まるで文学のような人生の果てに

作品集のタイトルにある「三文小説」という言葉。これは安価、または低俗な小説を指す蔑称ですが、父親のしでかしたことによって心に傷を抱えたまま生きる橘自身の人生、そして綾川との一般的な男女とは異なる歪な関係性を現しているように感じます。

橘と綾川の複雑な心情が絡み合いながら描かれる2人の物語。ぜひ、ご覧ください。

OGP及び記事内に掲載してあるマンガ画像はKADOKAWA様より許諾をいただいて掲載してあります。快くご認可いただきありがとうございます!
(C)瀬川環/KADOKAWA