手塚治虫、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄...。
そんな日本を代表するマンガ界の巨匠たちが集い、若き青春の日々を過ごした伝説のアパート「トキワ荘」をご存知でしょうか。
1952年に豊島区椎名町5丁目2253番地に建てられたトキワ荘。
当時としてはごく普通の2階建てのアパートでしたが、「漫画少年」を発行していた学童社の編集者が、手塚治虫にトキワ荘に入居をするようすすめたことをきっかけに、学童社の雑誌に連載を持つ若手マンガ家が次々と入居し、伝説のアパート「トキワ荘」が誕生しました。
残念ながら実際の建物は老朽化のため1982年に解体されてしまいましたが、マンガやアニメを愛する多くのファンたちの協力によって2020年に「トキワ荘マンガミュージアム」として伝説のアパートが蘇りました!
今回はそんな「トキワ荘マンガミュージアム」へ足を運び、マンガ界の伝説たちの当時の暮らしをのぞいてきました。
ついさっきまでそこでマンガを描いていたような気配すら感じる不思議なアパート。
その全貌を、トキワ荘で青春を過ごしたマンガ家の名作と共に探りましょう!
目次
- トキワ荘と電話ボックス
- トキワ荘名物!木造階段の"ギシギシ音"と共同炊事場の"水風呂"
- 18号室|山内ジョージのマンガ部屋
- 19号室|水野英子のマンガ部屋
- 20号室|よこたとくおのマンガ部屋
- マンガの聖地で学ぶ、マンガの制作過程
- トキワ荘のヒーローたちが愛した、松葉のラーメン
- そこに感じる、アツき青春の日々
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トキワ荘と電話ボックス
西武池袋線の椎名町駅で降り、閑静な住宅街を15分ほど歩くと見えてくるのが「トキワ荘マンガミュージアム」。
入り口に設置してある展示物からは、トキワ荘があった当時の椎名町の様子を伺うことができます。
そして、入り口を横目にさらに敷地内へと進むと、木造モルタル2階建てのアパートが姿を現しました。
これが現代に蘇った伝説のアパート「トキワ荘」です。
トキワ荘のすぐ隣には、昔懐かしいレトロな電話ボックスが。
現在のようにスマホもなく、自宅に固定電話があるのが珍しい時代...。当時のマンガ家たちは、出版社に連絡する時はトキワ荘のすぐ近くにある落合電話局の前にあった公衆電話を使っていました。
この電話ボックスは、藤子不二雄A先生がトキワ荘で過ごした日々を描いた『愛…しりそめし頃に…』では、マンガ家の仲間が電話ボックスで編集から連載終了を告げられたり、次回の連載話の相談に心踊らせたりするシーンで度々登場します。
玄関には、当時のトキワ荘を再現して2メートル近くのシュロの木が植えてあります。
このシュロの木と2階のバルコニーがなんともモダンな雰囲気を演出しています。
そして、この建物を再現するにあたって一番大変だったことの一つが「色」だったそうです。
当時の写真は白黒が多く、そのためはっきりとした屋根や壁の色がわかりません...。
トキワ荘を再現するにあたり、当時を知るマンガ家や専門家に相談して色を決めたと言う裏話も。
トキワ荘名物!木造階段の"ギシギシ音"と共同炊事場の"水風呂"
さぁ、いよいよトキワ荘へお邪魔します。
玄関で靴を脱いで目の前の階段をのぼるとマンガ家たちの部屋へと向かいます。
この階段、のぼる度に「ギシギシ」と言う音が鳴るのですが、これも当時の階段を忠実に再現したもの。
『まんが道』でも、編集が階段をのぼる時に「ギシギシ」という擬音で表現されており、当時のマンガ家たちにとってはこの音が編集が来た!という一種の呼び鈴のようなものだったのかもしれません。
2階へのぼると、廊下を挟んで両側に部屋が並んでいます。
食事の時間になると、マンガ家たちは壁をたたいて隣の部屋の仲間に知らせたそうです。
この廊下のすぐ右手にあるのがこちら、共同炊事場です。
トキワ荘の住人が洗面や炊事などを行っていた場所で、『まんが道』にも住人たちと自炊するシーンが度々登場します。
特に奥の洗面台では、当時お金がなくて銭湯にいけなかった赤塚不二夫と石ノ森章太郎が水をためて風呂がわりにしていたという逸話があります。
真ん中のテーブルの上には、住人御用達のラーメン「松葉」の食べ終わったどんぶりや、宴会に欠かせないサイダーに焼酎を垂らした「チューダー」を作った空の瓶まで。
当時の食生活がリアルに感じられます。
18号室|山内ジョージのマンガ部屋
2階には14〜22号室までの部屋が存在し、当時のマンガ部屋が再現されているのは18号室、19号室、20号室の3部屋です。
まずは、山内ジョージのマンガ部屋だった18号室からお邪魔します!
マンガ家としては最後のトキワ荘の住人でもある山内ジョージ。
1960年9月から1962年3月までトキワ荘に入居し、石ノ森章太郎や赤塚不二夫のアシスタントを経て独立。その後は、動物文字絵や絵本、デザインの分野で活動しました。
彼の著書である「トキワ荘最後の住人の記録」では当時の知られざるエピソードや、アシスタントを務めた赤塚不二夫の代表作『おそ松くん』の創作秘話なども明かしています。
この部屋には大きな特徴が2つあります。
まずは、机が2つあること。山内ジョージの入居後、アシスタントの長田吉夫が加わったためこの部屋には机が2つ配置されています。
もう1つは、他のマンガ部屋と比較してとにかく小説や映画のフィルムが多いこと。
これは隣の17号室に住んでいた石ノ森章太郎のもので、自室が私物でいっぱいになってしまったためアシスタントが住む18号室に置いていました。
その結果、こんなにも物が溢れ返ったマンガ部屋になった訳です。
また、SF小説の読者でもあり、海外のSF小説から作品のヒントを得ていたと言われている石ノ森章太郎。
この棚には彼が影響を受けた小説がたくさん詰まっているのでしょう。
大量の映画のフィルムは部屋の中には収まりきらず、入り口にまで溢れ返っていました。
当時はこの劇場用映写機を使い、壁に模造紙を貼って映画を上映していたそうです。
19号室|水野英子のマンガ部屋
トキワ荘に居住したマンガ家の中で唯一の紅一点である、水野英子。
『星のたてごと』や『白いトロイカ』を代表作に持つ彼女は、現在にも受け継がれる男女の恋愛模様を少女マンガで初めて描いたマンガ家と言われています。
彼女は石ノ森章太郎と赤塚不二夫と共に「U・マイア」名義で「少女クラブ」に合作を発表するためにトキワ荘に住み始めました。
彼女は「U・マイア」を描くために竹編みのスーツケース1つで上京しました。
部屋の奥には、そんな彼女の夢と希望が詰まった当時のスーツケースが再現されています。
そして右側の壁に貼られているのは、入居時に部屋の中が寂しかったため水野英子本人が描いたポスターを再現したもの。
黒いクレヨンで描かれたカウボーイの絵を見た、他のマンガ家たちはそのあまりの上手さに感動したそうです。
20号室|よこたとくおのマンガ部屋
20号室は、鈴木伸一、森安なおや、よこたとくおが入れ替わり住んでいた部屋です。
時期によって部屋の内装を入れ替えているようですが、今回訪れた時にはよこたとくおのマンガ部屋が再現されていました。
よこたとくおは、江戸川区の小松川で赤塚不二夫と共同生活をしながらマンガを描いていました。
その後、赤塚不二夫がトキワ荘に入居したことをきっかけに、部屋が空くのを待ち20号室へと移りました。
他のマンガ部屋と異なり、唯一テレビがあるよこたとくおの部屋では当時のテレビの映像が流れていて、まるで昭和30年代にタイムスリップしたような気分になれます。
マンガの聖地で学ぶ、マンガの制作過程
ご紹介した18号室、19号室、20号室以外の部屋は、椎名町の歴史や当時のマンガ家たちの暮らしを紹介した展示室になっています。
その中でも、石ノ森章太郎が住んでいた17号室にある押し入れを開けると...
マンガを描くのに必要な道具がずらりと並びます。
1960年代に使用されていたマンガの道具から、現在まで使用されている道具まで!
マンガの聖地であるこの場所で、ぜひマンガの制作過程を学んでみては?
トキワ荘のヒーローたちが愛した、松葉のラーメン
2階のマンガ部屋を後にして1階へ降りると、トキワ荘ゆかりのマンガや書籍を読むことができるマンガラウンジが広がります。
現在はコロナウイルス感染拡大防止の影響で、実際に手に取って読むことはできませんがマンガ界の巨匠たちの歴代作品が並ぶ様子は圧巻です。
当時にタイムスリップしたかのような気持ちになるトキワ荘を後にして、現実に戻り敷地内の公園を歩くと記念碑「トキワ荘のヒーローたち」が見えてきます。
日本を代表する名だたるマンガ家たちのイラストやサインが並ぶ記念碑。
これを見ると、伝説のマンガ家たちが実在していたことを実感させられ、なんともいえない感動の気持ちがこみ上げます。
日本のマンガ、アニメの原点に触れたところで、もうひとつトキワ荘とゆかりのある場所を寄り道しませんか?
その前に思い出して欲しいのが、トキワ荘の2階にある炊事場で見かけた、この食べ終わったラーメンのどんぶり。
トキワ荘のメンバーが大絶賛したと言われている「松葉」のラーメン。
実はこのラーメンは、トキワ荘から徒歩30秒もかからない場所にある中華料理屋「松葉」で現在も食べることができます!
住所|東京都豊島区南長崎3-4-11
『まんが道』では、新人マンガ家に松葉のラーメンが引っ越しそばとしてふるまわれるエピソードが描かれており、また『パーマン』や『ドラえもん』に登場する「小池さん」がすすっていたラーメンのモデルとなったのも松葉のラーメンなのです!
ラーメンとライスのセットで700円というなんとも嬉しい価格設定!
日本を代表するマンガ家たちが当時食べていたラーメンを、こうして時代を超えて食べられることに感慨深いものを感じます。
気になるお味は、醤油ベースであっさりとしていて、学生時代に学食で食べたような懐かしさを感じる優しい味がしました。
また、店内には現在も活躍するマンガ家たちの色紙が壁に貼られており、マンガファンにとってはたまらない空間でした。
ぜひ、「トキワ荘マンガミュージアム」とセットで訪れてみてくださいね!
そこに感じる、アツき青春の日々
マンガ家という夢に向かって、同じ志を持つ仲間たちと切磋琢磨しながらがむしゃらに描き続けたトキワ荘のヒーローたち。
描けない夜も、締め切りに追われる夜も、隣の部屋で頑張る仲間の存在を感じることで彼らは頑張ることができたのかもしれません。
ここには、そんな夢を追い続けた彼らの日々と存在を確かに感じられる不思議な魅力があります。
ちなみにそんな「トキワ荘マンガミュージアム」は入場無料!
ですが、入館が予約制となっているので必ず公式HPから事前予約をしてから行くようにしましょう。
足を運ぶ際には、事前に『まんが道』『愛…しりそめし頃に…』『ブラック・ジャック創作秘話〜手塚治虫の仕事場から〜』を読んでおくとより楽しめますよ!
OGP及び記事内で使用している写真は全て撮影許可をいただいています。