「左ききのエレン×朝日新聞」のバズは、「すべて計算通り」だった?仕掛け人にインタビュー

2019年10月20日、広告業界を舞台にした人気マンガ『左ききのエレン』のオリジナルストーリーが朝日新聞に掲載され、SNSで大きな話題になりました。

掲載されたストーリーは、作中の企業である目黒広告社に務めるアートディレクターの主人公・光一と、実在する企業であるThe Breakthrough Company GO(以下、GO)の代表でクリエイティブディレクターの三浦崇宏さんによる広告のコンペが行われるというもの。

クライアントとして、また実在する企業であり、メガネチェーン店を運営するJINSが登場。そして、Twitter上で2社の案のリツイート数が競われ、勝利した目黒広告社の広告が、実際に11月21日の朝日新聞に掲載されました。

仕掛け人であるGOの三浦さんいわく、「リツイート数でGOが負けることまで、すべて計画通りだった」だったとか。本記事では三浦さんにインタビューし、プロジェクトの裏側に迫ります。

大企業こそ、「マンガ」とコラボすべき理由

ーー2019年10月20日、11月21日の朝日新聞に掲載された広告は、SNSでも大きな話題となり、新聞自体がメルカリで出品されるほどだったとか。タイムラインを賑わせたあの新聞広告は、どのような経緯で立ち上がったのでしょうか?

10月20日掲載の新聞広告。『左ききのエレン』のオリジナルストーリーが描かれる。主人公の所属する目黒広告社が、メガネ販売の「JINS」が販売する機能性レンズ「JINS VIOLET+(ジンズ  バイオレットプラス)」の新聞広告の依頼を受ける。競合コンペの相手としてGO、そして三浦さんが登場。

10月20日掲載の新聞広告。『左ききのエレン』のオリジナルストーリーが描かれる。主人公の所属する目黒広告社が、メガネ販売の「JINS」が販売する機能性レンズ「JINS VIOLET+(ジンズ バイオレットプラス)」の新聞広告の依頼を受ける。競合コンペの相手としてGO、そして三浦さんが登場。

11月21日掲載の新聞広告。10/20~10/28の競合コンペ(TwitterのRTによる一般投票数を競った)の結果、GOに勝利した目黒広告社の案が掲載された。トリックアートの技術を応用し、近視の人(世界人口の1/3が近視と言われている)が見やすい特殊デザインに。

11月21日掲載の新聞広告。10/20~10/28の競合コンペ(TwitterのRTによる一般投票数を競った)の結果、GOに勝利した目黒広告社の案が掲載された。トリックアートの技術を応用し、近視の人(世界人口の1/3が近視と言われている)が見やすい特殊デザインに。

三浦:朝日新聞さんから「“新聞広告の日”である10月20日に、新聞広告の価値を上げるプロジェクトを立ち上げたい」と相談されたことが、そもそもの始まりですね。「新聞広告の価値」を考えてみると、大きく二つに絞られました。

一つは、発信する情報が“ニュース”として受け取られ、「社会で起きている重要な変化が記されている」と思ってもらえること。もう一つは、手に取って見られる広告体験である。しかも、多くの人が普段目にするスマホの広告と比べて物理的に大きいこと。

最初は「新聞15段(片面)を使った広告を」とお願いされていましたが、「見開き全部を使いたい」と交渉し、あのような形になりました。そのほうが、読む人に与えられるインパクトは確実に大きいですからね。

ーー新聞広告の利点を最大まで活かすことを念頭に、企画をつくっていかれたのですね。他にも多くの表現を検討されたと思いますが、なぜ「マンガ」が採用されたのでしょうか?

The Breakthrough Company GO 代表取締役/PR・Creative Director 三浦崇宏さん: 博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞、CampaignASIA Young Achiever of the Year、 ADfest、フジサンケイグループ広告大賞、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル 2013 PR部門ブロンズ・2016 ヘルスケアPR 部門ゴールド・2017年 プロダクトデザイン部門ブロンズ、2017 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS イノベーション部門グランプリ・総務大臣賞・インタラクティブ部門ブロンズなど受賞。2020年1月、初の著書となる『言語化力』を上梓。2019年にハマったマンガは『ライドンキング』、『チェンソーマン』、『呪術廻戦』。

The Breakthrough Company GO 代表取締役/PR・Creative Director 三浦崇宏さん: 博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。「表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事」が信条。日本PR大賞、CampaignASIA Young Achiever of the Year、 ADfest、フジサンケイグループ広告大賞、グッドデザイン賞、カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル 2013 PR部門ブロンズ・2016 ヘルスケアPR 部門ゴールド・2017年 プロダクトデザイン部門ブロンズ、2017 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS イノベーション部門グランプリ・総務大臣賞・インタラクティブ部門ブロンズなど受賞。2020年1月、初の著書となる『言語化力』を上梓。2019年にハマったマンガは『ライドンキング』、『チェンソーマン』、『呪術廻戦』。

三浦:フランクな印象を生活者に与えて、「私たち側」だと思ってもらえる効果があるからですね。新聞は購読者にとっては身近かもしれませんが、多くの若い人にとっては“お堅い”ものです。しかし、マンガというエンタメを掛け算すれば、一気に身近に感じてもらえるんです。

三浦:以前、話題になった「週刊少年ジャンプ × 東京メトロスタンプラリー」の広告も、構造としては同じです。東京メトロという伝統的な大企業が、生活者からの関心を獲得したいなら、子どもから大人まで幅広い層が支持する週刊少年ジャンプとのコラボは有効ですよね。

ーーたしかに、見たことのあるキャラクターが広告に使われていると、企業に対しても一気に親近感が湧いてきますね。

三浦:そうですよね。そして、「新聞広告の面白さを伝えられる最高のマンガはなんだろう」と考えたとき、ストーリー的にもぴったりだし、いま最も旬な『左ききのエレン』が思い浮かび、作者のかっぴーさんにお声がけしました。そもそもファンでしたしね。

また、このプロジェクトの価値を理解してくれるクライアントを探し、JINSさんとご一緒することになりました。JINSさんは「自分たちの伝えたいことを押し付けるのではなく、生活者にとって面白い広告にしなければいけない」という気持ちが強く、プロジェクトの価値を理解してくれるだろうと思ったんです。

また、彼らが推し進めているJINS VIOLET+という商品は「近視の進行を止める」という機能を有しており、これは薬事法の制限上、はっきりした言葉で広告にしづらいものでした。その点、ストーリーを通じて商品の魅力を伝えられるマンガは、丁度よい表現だったんです。

GOのSNSコンペ敗北は、「100%計算通り」だった

ーー役者が揃った後は、企画の実現に向けて、どのように進行していかれたのでしょうか?

三浦:まず、「新聞広告のトレンド」の分析からスタートしました。すると、ここ数年で話題になった新聞広告が3パターンしかないことに気づいたんです。

一つ目は、「企業の社会的な姿勢を表明するもの」です。たとえばゴディバの「義理チョコをやめよう」はフードロスの問題について、幸楽苑の「2億円事件」は働き方改革について、企業の姿勢を示したものです。

次に二つ目は、「新しい事実を伝えるもの」。たとえば国際婦人デーに奈良新聞社で掲載された「日本人初の女性総理は、きっともう、この世にいる。」というコピーは、ある種の新事実を伝えているといえます。

そして三つ目は、「ギミックを利用したもの」です。例としては、殺虫スプレー「キンチョール」の紙面自体が折り紙になっている広告や、紙面の両側に絵が印刷されており、光に透かすと絵が完成する『君の名は。』の広告などですね。

GOチームのアイデアは、原稿につけられた赤字をそのまま反映し、掲載するというもの。

GOチームのアイデアは、原稿につけられた赤字をそのまま反映し、掲載するというもの。

ーーなるほど。今回のプロジェクトの競合プレゼンでいうと、GOチームの案は企業の意思表明といえますし、目黒広告社の案は視覚的なギミックがある広告になっていますね。

三浦:その通り。ちなみに目黒広告社の案がギミックを用いたものになっているのは、光一がデザイナー経験者という設定だからです。

ーーしっかり「光一らしさ」も加味して、あの案が生まれたんですね。

ーーTwitterでは、三浦さんが「蚊トンボみてぇな目黒広告社に負けるとかありえない」と煽り、RTを呼びかけられていたのも印象的です。

三浦:あれ、実は最初からGOチームが負けるように設計していたんですよ。

ーーおお、そうなんですね!しかし、多くの人が参加するSNS上でのコンペでどちらの案を勝たせるか、コントロールできるものなのでしょうか…?

三浦:GOの案は、コピーを塗り潰したデザインでインパクトはありますが、SNSでシェアされて流れてくるサムネイルを見ただけだと、良さが伝わりづらいんですよ。

一方、目黒広告社の広告はトリックアートを利用したもので、サムネイルだけでもコンセプトが伝わりやすい。舞台がSNSである以上、GOが勝つ可能性はほぼありませんでした。「100%計算通り」になりましたね。

バズる秘訣は、「タブーを破る」こと

ーー三浦さんはよく「表現をつくるのではなく、現象をつくる」とおっしゃっていますが、人々の行動までを計算に入れた現象をつくられていて、本当にすごいです。企画をつくられる際に意識されているポイントはありますか?

三浦:リスクを恐れずに「タブーを破る」ことですね。現代の広告は、SNSでの炎上を避けるため、ギリギリを攻める表現が少ない。だからこそ、積極的にタブーを破りにいく姿勢が評価される傾向にあります。

そもそも生活者は広告に慣れているから、普通のことをやっても大して驚かれません。その反面、「どうせ広告のコンテンツでしょ」と、ある意味舐められているような状況だからこそ、新しくて本当に面白いことやれば、ちゃんと驚かれたり楽しんでもらえたりする。そのような確信もありました。

たとえば以前にGOが手がけた『キングダム』のキャンペーンでは、キングダムという人気マンガを「ビジネス書」と言い切り、さらには既存のビジネス書のタイトルをパロディーしまくりました。

ーーある種の「やっちゃいけないこと感」がポイントだと。

三浦:そうです。今回の企画で僕自身が作中に登場したのも、「タブーを破ってやろう」という意志からです。企画者本人がマンガの中に登場するなんて、誰もやろうとしませんよね。

一方、タブーを破る際には必ず「ケア」が必要になります。今回の場合だと、僕が作中でかっこよく描かれてしまうと、「三浦が立場を利用して目立とうとしている」といった指摘を受け、炎上してしまう可能性もありました。

そういった事態を避けるために、かっぴーさんには、「僕のことはしっかり悪役として描いてほしい」とお願いしたんです。さらに、GOがコンペで負けるまでの設計を丁寧にできたからこそ、炎上することなく、話題にしてもらえたのだと思います。

あとがき

「面白いだけでメッセージがない広告は無意味だし、メッセージだけで伝え方に工夫がない広告は見てもらえない」

取材の終盤、三浦さんが『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』のキャラクター・アバンの「正義なき力が無力であるのと同時に力なき正義もまた無力」というセリフを引用し、話された言葉です。

シンプルな言葉ではありますが、伝えたいメッセージに関心を持ってもらい、面白いと感じてもらうのは、本当に難しいことだと思います。SNSでの人々のリアクションまでを計算に入れ、「新聞広告の価値」を人々に伝えた三浦さんの手腕には畏怖すら覚えます。

筆者は別のメディアでも三浦さんにお話を伺ったことがあります。いつも過不足ない情報を理路整然と話される方で、そのときは予定していた半分の時間で取材が終わってしまい、本当に驚いた覚えがあります。

そのような話し方ができる三浦さんであればこそ、「現象をつくる」という人間離れした営みができることも、腑に落ちます。きっと、狂気的なほどに「広告」を考え抜かれたからこそ、為し得た技術なのだろうと思うのです。

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2020年1月に、三浦さん初の書籍『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』が発売されました。SNSでも話題になっている本書には、言葉から考え始める彼なりの企画の発想術が語られています。ぜひこちらも併せてご覧ください。

感想などはぜひ「はてなブックマーク」などにお願いします!

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執筆/田中一成、編集/岡島たくみ

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