作品概要
高浜寛(たかはまかん)先生が手掛けた長崎を舞台にした歴史マンガ『ニュクスの角灯』は、明治時代の日本が幕末の旧体制から西洋文化を取り入れ変容していく様子が描かれています。
そして一人の少女が一件のアンティークショップで働き始めた事で西洋の商品に触れ、広い世界を知っていきながら懸命に生きる成長の物語です。
あらすじ
舞台は1878年の長崎県鍛冶屋町。
アンティークショップ「蛮」で従業員募集の応募に訪れた美世。
雇用条件に該当していなかったものの、店主・小浦百年(こうらももとし)に触れた物の過去や未来を知る「神通力」の能力を買われ従業員として働く事になりました。
今まで見た事の無い商品を扱い困惑する場面もありますが、観察力でカバーしたり
将来に不安を抱いている商品の持ち主の女性に神通力で見た明るい未来を教え、背中を押してあげたりと美世なりの方法で人々をサポートします。
そんなある日、百年が開催した商品説明会で当時の「万博」の様子が上映されました。
改めて「世界の進歩」というものを目の当たりにした美世は衝撃を受けたと同時にもっと世界の事を知りたいと興味を抱きます。
登場人物
美世
父を西南戦争で喪い叔父の家に居候している。
触った物の過去や未来を知る不思議な力を持つ。
小浦百年
「蛮」の店主。いつも穏やかな口調で人懐っこいが、海外に行く為パスポートの偽造や当時禁止されていた刀の売買で資金稼ぎをしていたヤンチャな過去を持つ。
岩爺(がんじい)
「蛮」の従業員であり百年の養父。
見た目はいかついが面倒見がよく優しい。
名言
私がめそめそうじうじ自分の事だけ考えとる間に 世界は何だかすごい事になっとるんだ
悪い時代の後には必ずいい時代がくる
必要なのは静かな忍耐だよ 変えられない物を受け入れる心の落ち着きと 変えられる物は変えていく勇気 そして二つの物を見分ける賢さ
君の可能性が無限だって事を君が日本に知らせてやるといい
豆知識
作中には当時の長崎や海外で活躍した実在する人物も登場します。
当時日本茶の輸出で富を築き上げたものの詐欺に遭い借金を背負う事になった大浦慶(おおうらけい)
過去に大浦の世話になった実業家・松尾儀助(まつおぎすけ)
フランスの商人ヴィクトール・ピナテール
パリの作家・美術家のゴンクール兄弟
等が名を連ねます。また、長崎で実際にあった出来事も描かれており「生きた歴史」が地続きに物語と繋がっている事で作品に深みとリアルな空気となって当時の時代を追体験させてくれる読後感があります。
掲載WEB
トーチweb
作品の魅力
この物語は歴史マンガでもあり、美世という主人公を通じて「少女の呪いが解かれていく物語」でもあると考えられます。明治時代のめまぐるしく変化している世界とそれに追いつき尚且つ日本をもっと世界に知って貰いたいと動く人々の努力が生き生きと描かれています。
序盤の美世はかつて亡き父に「女に学問は必要ない」と言われ文字の読み書きも出来ず、その為自分の事を馬鹿だから何も出来ないと卑下する性格でした。
しかし実際の彼女は、百年からローマ字50音全てを教わりたった一晩で覚えてしまう程の秀才さを備えていたのです。
そして月日を経て百年の元を離れパリで働く様になり、上司に叱責されたある日、反省はしたものの「やっぱり自分なんて駄目なんだ」と思わなかった自分自身の思考の変化を自覚しました。
また美世以外にも「自分は幸せになってはいけない」と自らを責め立てアルコール依存症に陥る女性も登場しますが、彼女も周囲の人々の支えにより前進します。
前向きに人と関わっていく事で、人はいつでも「自分は駄目な人間だ」と思い込んでしまう「呪い」から解放され、いくらでも成長出来ると教えてくれる作品です。
受賞歴
・第24回手塚治虫文化賞「マンガ大賞」受賞
・第21回文化庁メディア芸術祭マンガ部門「優秀賞」受賞
・西日本文化賞受賞
作者情報
▼Twitter
https://twitter.com/kan_takahama