「この物語はあまりに大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして偉大すぎた。それはまさに不朽の傑作だった。」
ダークファンタジーのマンガと言えば?と問われたとき、真っ先に多くのマンガ好きの脳内に浮かんでくるのは『ベルセルク』、この作品ではないでしょうか?
今回の記事では、連載開始から長きにわたって世界中のマンガファンに愛されてきた偉大なる傑作『ベルセルク』の魅力を、作者・三浦建太郎先生の歩んできたマンガ人生とともに振り返っていきたいと思います。
三浦建太郎先生とベルセルクの歩み
三浦建太郎(ミウラケンタロウ)先生は1966年7月11日千葉県生まれ。1985年週刊少年マガジン(講談社)にて『再び…』でデビュー。CMの絵コンテを描く仕事をしていた父親と、絵の教室の先生だったという母親の影響から幼少期より絵を描き始めマンガ家を志すように。1988年、月刊コミコミ(白泉社)に読み切り作品『ベルセルク』を発表、この読み切りをもとに翌年『ベルセルク』の連載がスタート。2018年に最新刊40巻が発売。
1966年 | 千葉県にて誕生 |
1985年 | 週刊少年マガジン(講談社)にて『再び…』でデビュー |
1988年 | 月刊コミコミ(白泉社)に読み切り作品『ベルセルク』を発表 月刊アニマルハウス(白泉社)にて原作に武論尊を迎え『王狼』『王狼伝』『ジャパン』を立て続けに発表 |
1989年 | 『ベルセルク』連載開始 |
1997年~1998年 | TVアニメ「剣風伝奇 ベルセルク」全25話放送 |
2002年 | 第6回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を獲得 |
2012年~2013年 | 劇場アニメ3部作が公開 |
2016年 | 新作TVアニメ第1期(1~12話)が放送 |
2017年 | 新作TVアニメ第2期(12~24話)が放送 |
2018年 | 『ベルセルク』最新刊40巻が発売 |
2019年 | 全世界累計発行部数4,000万部 原作とプロデュースを務める新連載『ドゥルアンキ』がスタート |
全てを奪われた孤独な剣士の復讐の物語
物語の舞台は中世のヨーロッパを思わせる世界、ここでは2つの大国、ミッドランド王国とチューダー帝国との間で永きにわたり「百年戦争」と呼ばれる領土戦争が続いていました。
そんな暗黒の時代に主人公・ガッツは「使徒」と呼ばれる魔物に追われ、戦いながら孤独な旅をしていました。自分に仲間、友情、帰る場所、全てを与え、そしてその全てを奪い去ったかつての戦友に復讐を遂げるため。ガッツに残っているのは通常の人間にはとても扱えない巨大すぎる剣と、失った腕の代わりに携えた大砲を仕込んだ義手、そして心に灯す復讐の炎。
語りつくせない『ベルセルク』の魅力
巨匠・三浦建太郎先生がその生涯のほとんどをかけて描いた壮大なダークファンタジーの金字塔『ベルセルク』。ここでその魅力を語りつくすのは不可能ですが、ほんの一部を名シーンとともにご紹介します。
注*ここからはネタバレが多く含まれます。ネタバレを読みたくない方はこちらをクリック→(記事の後半へ飛びます)
圧倒的画力で魅せられるアクション
『ベルセルク』と言えば迫力満点のアクションと、狂気の域ともいわれる描きこみで読者の視線を引き付ける画の力強さ!
切り付けられた敵の吹っ飛び具合で表現される躍動感!剣の重厚さも伝わってきます。
魔物との戦闘シーンも圧倒的!描きこみ具合が素人目にも尋常ではないことがわかります。
そして風景の表現力もすごいとしか言えません、もはや一つのアート作品。
王道ファンタジー×魂のこもったリアルな名台詞
この作品は魔法、エルフ、使途、幽霊船、人魚など私たち読者がファンタジーに期待する要素がふんだんに詰め込まれたまさに王道のファンタジーです。しかしその魅力は読んでいる間のひととき、読者を現実の世界から『ベルセルク』の世界へとあっという間に引き込んでくれる壮大なファンタジーでありながら、物語の中に出てくるキャラクターたちがものすごくリアルに描かれているところです。
彼らが投げかける血の通った言葉、葛藤、生き様に苦しくなったり、励まされたり、読者に与える影響は決して少なくありません。
それはきっと作者・三浦建太郎先生が歩んできた人生で得たもの、失ったもの、変化させてきたもの、それらのリアルな経験が『ベルセルク』という物語に溶け込んでいるからなのでしょう。
ガッツとグリフィス
『ベルセルク』の魅力を語るうえで外せないのが、ガッツとグリフィスの魅力そして二人の因縁。
まずは主人公ガッツについて、ガッツがこの世に生まれ落ちたときすでに母親は死んでいました。育ての親は気まぐれに情のようなものを見せてくれましたが、結局は裏切られ、剣の力だけを頼りにずっと孤独に生き抜いてきました。
故に信じられるのは己の力だけ。ガッツに関わった者たちが悲惨な運命をたどっても
気にもとめない様子。しかし、物語の中でときおり感情がにじみ出てしまうシーンが描かれています。
ガッツが生きるために殺してきた本音、内に秘めた人間らしさ、やさしさが伝わります。すべてを失った後に始めた孤独な復讐の旅、その中でガッツを助けるものが現れ、旅をともにする仲間が集まっていくのはこの内に秘めた人間性に惹かれるからなのかもしれません。
次は人間離れした美しさと気高さを持つグリフィス。
天性のカリスマ性で最強の「鷹の団」を率いてどんどん地位や名声も手に入れていきます。
彼の魅力は神々しいまでの美しさの中に秘められた野心と、少年のような無邪気さが混じり合っているところ。
そして二人は運命の出会いを果たします。
グリフィスに気に入られ、ちょっと強引に仲間に引き入れられたガッツ。
ガッツもグリフィスを認め、ガッツにとって生まれて初めて親友ともいえる存在になっていきます。しかしガッツとグリフィス2人の歩む道が分かれてしまったとき、運命の歯車が狂いだしてしまうのです。
三浦建太郎先生が私たちに遺したもの
三浦建太郎先生が思い描いていたであろうガッツたちのこれからの物語を、私たち読者が読むことは叶わなくなってしまいましたが、物語の価値は「どのように完結したか、読者が最後まで見届けられたか」ではないはずです。
ファンタジーの面白さを、物語の先を想像する楽しさを、物語によって救われたという経験を、『ベルセルク』を通して私たちは受け取ることができました。
また、マンガ家の先生やクリエイターにも多くのファンがいることで知られる三浦建太郎先生。
過去に行われた諫山創先生や賀来ゆうじ先生との対談からも、マンガ界のトップを走る先生方が三浦建太郎先生をリスペクトしていることが伝わってきます。
三浦建太郎先生が私たちに遺してくれたものは決して無くなることはなく、形を変えてバトンのように未来へと受け継がれていくのではないでしょうか?
三浦建太郎先生、本当に素晴らしい作品をありがとうございました。