夏の暑さが引き、秋の肌寒い風に「そろそろ衣替えの時期だなぁ」と思う今日この頃。
衣替えと同時に新しい被服が欲しくなりつつも、ファッションについて自信がなく体型にコンプレックスがある為、些か億劫な気持ちが同時に芽生えてしまいます。
そんな時ふと読みたくなるのが、高野雀先生の作品集『あたらしいひふ』。
表題作の『あたらしいひふ』は「女性と服」をテーマにしており、様々な被服に身を包む4人の女性達の内側にある心理、コンプレックスを巧みに表現しています。
被服に包まれるコンプレックス
表題作『あたらしいひふ』は4話で構成されており、各1話ごとに一人の女性に焦点を当てていく展開で、作中に登場する4人は、
昔好きだった人に「女の子なんだからもう少し服かまった方がいいよ」と言われて以来、黒の無難な服しか着なくなってしまった高橋
一重の顔やゴツゴツした脚等のどうやっても変えられない自分自身の身体を良く見せる為のお洒落で派手な服を選ぶ楽しさを知る一方で、淡い色のニットの様な無難なファッショがよく似合う女性を見て羨ましい気持ちを抱く渡辺
周りからはみ出ることを恐れ平均的な言動、平均的な服装を選ぶことで浮かない様に努める鈴木
自分が「かわいい」と思ってやっている派手なネイルやメイクがどこにいっても窘められて世間との折り合いがつかないことに嫌気がさす田中
と、様々なコンプレックスを抱えながら日々の服を身に纏っています。
読んでいくうちに「私と同じコンプレックスを持っているんだ」と親近感を抱くキャラに出会える作品です。
(私はよく黒い服を選ぶので高橋にとても感情移入しています!)
『あたらしいひふ』第1話にあたる高橋のエピソードはpixivコミックにて読むことが出来ます。
誰でも、いくつになっても、コンプレックスはある
『あたらしいひふ』には表題作の他に中学生の思春期から生まれるコンプレックスをテーマとした「It’s your (NEW) ID.」、モラトリアムを過ぎてしまった成人男性達のないものねだりの様なコンプレックスが描かれた「Recycled Youth」が収録されています。
「It’s your (NEW) ID.」では作中で登場する英語教師の「complex」と「complicated」についての説明が印象的です。
complicatedという英単語は、「複雑な、込み入った固定概念」を意味するcomplexより更に整理されていない複雑な様子を意味しているので、言語的な観点で言えば普段私達が使っている「コンプレックス」はそこまで込み入っていない、解決可能な問題だと言うのです。そう考えると、コンプレックスについてそこまで深刻にならずにいいんだと、肩の荷が降りる気がしますよね。
身体のあちこちに黒子が多くあることにコンプレックスがある女子・柳原はクラスメイトの男子・長山が言った「星みたいでかっこいいよね」の言葉に喜ぶエピソード等、中学生達のコンプレックスが他の人の視点に出会うことで変化していく様子が静かに描かれています。
確かに私自身も中学生時代に抱いていた悩みは、当時は深刻に思っていたものでも大人になった今となっては大したことではないな、と感じる時があり、要は捉え方ひとつなのだなと再認識させられる作品です。
「Recycled Youth」は学生時代に仲が良かった男子3人が10年後社会人になり再会するも、お互いの社会的成功や人となりを羨ましく感じたり、愚痴をこぼす姿を見て安心したりと三者三様の視点でのコンプレックスが表現されています。
3人と似た年代の立場で読んでいるからかとても心に刺さる感触がありました。
全ての作品を通し、「コンプレックス」は誰でも持っているものなのかも知れないと感じられ、自分自身のコンプレックスが軽くなれる読後感を味わえます。