きみを死なせないための物語

吟鳥子 / 著 中澤泉汰 / 作画協力

『きみを死なせないための物語』長く生きられることは本当に幸せか?近未来の宇宙で人の命の是非を問う

月刊ミステリーボニータで連載されていた、吟鳥子先生による『きみを死なせないための物語』。2016年に連載開始されたこの作品が、2020年9月についに完結となりました。

遠い未来、地球に住めなくなり、宇宙の狭いコミュニティに追いやられた人類。彼らが幸せな生き方を模索する物語として、これまでに「このマンガがすごい!2018」オンナ編第7位を獲得したこともある作品となっています

通常の何倍も長生きする運命を課せられた新人類“ネオテニイ”の主人公・アラタ

この物語の主人公となるのは1人の日本人の少年・アラタ。しかし少年と言っても、アラタは選ばれし特別な人類である新人類“ネオテニイ”という存在なのです。

新人類“ネオテニイ”とは、普通の人に比べて何倍も寿命が長い人間のこと。まだまだ人類全体の母数として、“ネオテニイ”は数少ない希少な存在です。しかし彼らは人類が地球を追いやられ宇宙で暮らし始めてから、その生態系に順応すべく生まれてきた「進化した人類」とでも言うのでしょうか。

主人公のアラタ、そして彼の友人であるターラシーザールイ。彼らは皆生まれや国籍こそ違えど、アラタと同じ“ネオテニイ”です。

先述の通り、地球を追われ人類は宇宙に居を移して以来、非常に狭く小さな空間の中で暮らすことを余儀なくされています。そこでの平和な暮らしを存続させるべく、このコミュニティに暮らす人々は非常にシステマチックな様々なルールで管轄されていました。

そんな近未来の社会で生きる4人は、ある日この世界にとって非公式な存在である緑髪の少女・祇園と出会います。彼女との出会いが、これから人間として生きていく4人の長い長い時間を、大きく変えていくこととなったのです。

宇宙や人類の幸せな生き方…壮大なテーマが作品の魅力

この物語の舞台となっているのは、私たちが今生きる現代からずっと遠い未来。人類は皆地球を追いやられ、宇宙に浮かぶ居住施設・コクーンで日々暮らしています。

そのコクーンでの人々の暮らしや、居住スペースから見える壮大な宇宙の景色など。近未来感やサイバースペース感満載の描写は、宇宙というテーマが好きな方にとってはたまらないものとなっているのではないでしょうか。

その壮大な住環境の中でも、人類の悩みは数千年、数万年経ってもきっと今と変わらないものもあるのでしょう。

アラタたちの生きる時代では、彼らのような”ネオテニイ”はいわゆる「普通の人類より優れた存在」としての扱いを受けています。多くの人の憧れの的である長命の”ネオテニイ”。ですが当然ながら人より長く生きてしまうということは、1人残らず大切な人の死を見届けることになる、ということでもあるのです。

またアラタたちのような新人類が今後大勢生まれてくるようになると、コクーンの中にはあまりにも多くの人が溢れかえってしまいます。それを防ぐための無情な命のルールも、このコクーンの中には定められているのです。

しかしこれらのルールは全て、このコクーンの中で大勢の人々が穏やかに暮らしていくためのもの。その中で自分達人類が本当に大事にしなければならないものは、一体なんなのか。主人公のアラタたちと共に、私たちも人の生き方や命について考えさせらる作品です。

連載が終わっても、彼らの物語は終わらない

2020年9月に連載が完結し、12月に最終巻となる8巻が発売となる本作。しかし月刊ミステリーボニータ2021年2月号からは、この物語の番外編がスタートすることも告知されています。

ぜひこちらもあわせてチェックして、彼らの生きる世界に想いを寄せてみてはいかがでしょうか?

遠い時代の遠い世界の物語

きみを死なせないための物語 (全8巻) Kindle版