すぐ死ぬんだから

内館牧子 / 原作 くさか里樹 / 作画

『すぐ死ぬんだから』おばあちゃんの生き方に学ぶ人生の処方箋

すぐ死ぬんだから』は13年半のOL生活を経て脚本家となった、内館牧子先生が原作の小説で、傘寿(数え年で80歳のお祝い)間近にして若々しくオシャレなおばあちゃんを主人公にした物語です。作画を『ヘルプマン!』でリアルな老人介護を描いた、くさか里樹先生が担当されています。2020年8月23日から三田佳子さん主演でドラマ化もしました。

マンガの主人公としては珍しい、80歳間近のおばあちゃんが主人公の本作品は、酸いも甘いも経験し尽くした人生の大先輩が奔走するストーリーです。

次々と事件が起こるジェットコースターのような展開に引き込まれる

78歳の忍ハナ(オシ ハナ)は、60代の頃、実年齢より上に見られたことがきっかけで「人は中身よりまず外見を磨かねば」と、容姿に気を配るようになりました。

仲のいい夫・岩造(イワゾウ)は、気恥ずかしいほどハナを褒めて周囲にも自慢する愛妻家で、平凡だけれど何不自由なく暮らしていました。しかし、ある日、その最愛の夫との突然の別れが訪れます。そして岩造の死後に発覚した衝撃の事実。ハナは夫の裏切りとどう向き合い、乗り越えるのでしょうか。

ハナはチャキチャキでちょっと口うるさいけど、決して自分の考えこそ正しいと自説を曲げず、他人の意見を聞き入れない頑固バアチャンではありません。

年の功だけでは片付けられないハナが辿りついた独自の人生観は、愚痴っぽくなりすぎずスカッとします。ズバズバと歯に衣着せぬ言葉で相手をたしなめつつも、関係性が悪くなりすぎないよう、時にはぐっと我慢する大人の対応も忘れない。こんなおばあちゃんが身近にいたら人生相談がしたくなる!そんなおばあちゃんです。

タイトルの『すぐ死ぬんだから』は、「とにかく外側を磨くことから私はがんばる!」という方に対して「若づくり」だとか「人は中身」と反対する方はいっぱいいるし、「どうせすぐ死ぬんだから」というお年寄りが多いことを受け、原作者の内館牧子先生があえて選んだタイトルだそうです。

人生100年時代、「美しく老いる」とは

人は老いる。 誰だって年を取れば退化する。 だからこそ、「そうはさせるか」という気合と努力が、いい年の取り方につながるのだ。

引用元:『すぐ死ぬんだから』1巻9ページ

ハナが同窓会に参加したときに、着飾って若々しいハナを見て、周りの同級生たちは必死の抵抗をします。「あたしはナチュラルがいいわ~」と自分に手をかけないことを勘違いしている同級生たちに、ハナは「生きているうちは、着たいもの着て若々しく楽しみたいじゃない!?」と一蹴します。

「ナチュラル」と「不精」は違う、「あるがまま」は楽なことでもあるけれど、年齢を重ねたシニア世代は、きれいになるためというより、ごく普通でいるために手をかけなければいけない、という作者のメッセージを受けて、シニアに限らずちょっと耳が痛い人もいるかもしれません。

老いには逆えないけれど、どう老いるのかは自分で選択できるし、いつでも気持ちひとつで変えていける!60代から一念発起して同級生から羨ましがられるくらい大変身をしたハナのように、それは、今現役で社会活動をしている私たちにも言えることなんじゃないかな、と感じずにはいられません。

生きるための理由はなんでもいい

岩造に先立たれた後のハナは「あたしはもういつでも平気で死ねる…」と塞ぎ込んでしまいました。ハキハキと聡明で闊達だったのに、身なりもおざなりになり、食欲もなくなる始末。

ところが、岩造の裏切りともいえるショッキングな事実が発覚し、払っても払っても怒りが込み上げてくるくらい激怒することになります。

死にたいなんて言っていたのが、嘘のように活気に満ち溢れ元気になっていくハナ。お年寄りにとって、深い悲しみや生きる理由が見いだせない事は、それだけで不健康になってしまい死に繋がる恐れすらあるということはけして考えすぎではありません。お年寄りにとっての希望や精神的な支えがいかに大切かというのが、よく分かります。一方で、一度失くしてしまった希望や支えの代わりをみつけることがいかに大切か、ということをハナを通して気づくのです。

怒りをどう乗り越えるのか!?

突如発覚した岩造の裏切りがきっかけとなり、忍(オシ)一家の面々の人生も急展開していきます。

変化はハナだけでなく、長男の雪男と嫁の由美や長女のといった家族の人生にも少なからず影響があり、関係性も変わっていきます。どんどん変わるハナの心情と、ハナが選ぶ余生とは?

怒りを肥やしに生きていくのもまっぴらごめんなハナは、きれいさっぱり忘れるために、ありとあらゆる方法で真相に迫っていきます。さながら探偵のように綿密に、そして大胆に。

原因となったキーパーソンと対峙する第2巻は2020年9月10日に発売されたばかりです。

この続きが気になる方はぜひチェックしてみてください!

すぐ死ぬんだから 第2巻 (希望コミックス)
内館牧子/原著,くさか里樹/イラスト