ちひろさん

安田弘之 / 著

『ちひろさん』多くの疲れた現代人に今こそ触れて欲しい、自然体なちひろさんの生き方

ドラマで一世を風靡した『ショムニ』の安田弘之先生。そんな安田先生が描く、現代の多くの疲れた人々を救う女神。それが『ちひろさん』の主人公となる、ちひろさんの存在です。

お弁当屋「のこのこ」の看板娘・ちひろさんは元風俗嬢!

この『ちひろさん』は同じく安田先生の作品となる『ちひろ』に登場する主人公・ちひろさんの数年後のお話となります。

昔は風俗嬢として、多くの人の心を癒してきたちひろさん。そんな彼女は今、海辺のとある街の弁当屋の看板娘として、街のみんなの人気者となっています。

街の人気者、と聞くと、みなさんはどんな女性像を想像しますか?

眩しいくらいの笑顔が素敵でいつもにこにこ愛想があって、子どもやお年寄りまでどんな人にも優しくて、いつ何時でも活発に元気よく働く女性。きっと多くの方が、そんな人物を想像するのではないでしょうか。

ですが今作の街の人気者、ちひろさんの姿はこんな女性とは大違い。

確かに愛想はあるけれどどこか飄々としていて、時にはやる気なさげにお店に立っていたり。弁当を買いに訪れたお客さんと汚い言葉下世話な話に花を咲かせることもあれば、憎まれ口を叩き合うこともしばしば。

まるで気まぐれな猫のような、自由気ままに空をたゆたう掴み所のない雲のような。へらりへらり、とした彼女は、それでも大勢の人の心を掴んで離しません。

日常に疲れたら、ちょっとだけちひろさんのように生きてみる

彼女の生活は、お弁当屋でのバイト以外は実に自由気ままなもの。決まった時間に決まった場所へ行く、なんてこととは一切無縁な生活をしています。

そんな彼女の自由さは、日々決まった時間に決まった場所へ行く生活ばかりしている人々には、とても眩しく映るのです。

彼女みたいに生きたいと願っても、実際にそれはなかなか叶う望みではないかもしれません。ですがこの忙しない日々の中で、ちょっとだけ毎日に疲れてしまった時に、もしかしたら立ち止まって動けなくなってしまう前に、彼女のような生き方を1日だけでもなんなら半日でも、少しだけ試してみることでずいぶんと気持ちが軽くなるのではないでしょうか。

サイコロを振って、出た目の数行ったところの駅に急遽降り立ってみたり。スマホなんか一切見ないで思い付きのままに初めて訪れた町を散策したり。今まで一度も入ったことのないお店に敢えて飛び込んでみたり。のんびりと散歩をする野良猫の後を、どこまでも着いて行ってみたり。

普段の便利な暮らしの中で、敢えてやらない、ちょっぴり挑戦的不自由なこと。時にはそんな行き当たりばったりの行動が、思わぬ刺激を自分に与えてくれたりもするのです。

独りで気ままに生きることを、過剰に肯定も否定もしない

自分の身体1つで、1人で好きなように生きるちひろさん。しかし時にはそんな彼女に対して、不躾な言葉を投げかける人だっています。

妙齢で独り身、個人行動を好む彼女に対して、「寂しい女性」「強がらなくてもいいのに」なんて。もしかしたら作品を読む読者の中にも(特に女性の方は既婚であれ未婚であれ)、余計なお世話じゃ!と思う方もきっと多いことでしょう。

人間が独り単独行動で、誰の目も気にすることなく好き勝手に自由に過ごす。それに対して過剰な否定も、ともすれば過剰な肯定もうんざり!

そんな思いを一度でも抱えたことのある方は、ぜひこのちひろさんの世界に触れて頂きたいと思っています。

独りで自由気ままに生きる事を、飾る事なく、大袈裟に持ち上げるでもなく。文字通り自然体のままに生きるちひろさんが、きっとそんなもやもやした気持ちを静めてくれるのではないでしょうか。

自分のままに

ちひろさん (全9巻) Kindle版