『ひゃくえむ。』はマガジンポケットで配信中の魚豊(うおと)先生による100M走を題材にしたマンガです。「次にくるマンガ大賞」にもノミネートされた本作は既刊5巻で完結です。
『ひゃくえむ。』の新刊を待ちわび、発売日に書店で購入しようとする度に思うことがあります。「この漫画の発行部数、桁を間違えていませんか?」と。
あらすじ
主人公のトガシは小学校6年生の時に100M走で全国1位になり、周囲から天才と呼ばれます。「何のために走るのか?」その意味を見出せず、ただ才能があるから走り続けるトガシ。
ある学校の帰り道、トガシは河原を全力疾走する転校生の小宮に出会い、走っていた理由を尋ねます。
「現実より辛いことをすると現実がぼやける」
小宮の熱に当てられ、走りを教えることになったトガシは、驚異的なスピードで成長を続ける小宮に恐怖を覚えます。
才能という諸刃の刃に翻弄されながらも、100Mに人生を懸けた者たちの熱き物語が幕をあけます。
この物語は、パンクだ!!
この物語をあえて音楽のジャンルで例えるならば、パンクです。衝動を抑えきれず、感情の器からはみ出した心の叫びが描かれています。
その純粋さ故に読者の心に言葉が深く突き刺さり、その圧倒的熱量は感情を直接揺さぶります。
いじめられていた小宮が転んだ様子をバカにするクラスメート達。
小宮の努力を知るトガシの胸の底から湧き上がる抑えきれない感情。
このコマを書く為に逆算して前のストーリーを書かれたのではないかと思える程、力の入った大好きなコマです。この圧倒的熱量を誇る1コマの為だけでも読む価値がある!!
才能のない凡人の努力は無駄なのか?
二人の才能の対比を縦に深掘りしていくと考えていた自分の予想に反して、2巻からはその関係性に陸上部の仲間が加わり、物語は横に展開されていきます。
トガシとは違い、努力しても努力しても、才能をもつ者に追いつけない陸上部の貞弘先輩。
無駄な努力と嘲られ、自己嫌悪を繰り返し、無力感に打ちのめされながらそれでも自分を支え続けたもの。
そして、横方向に展開された物語は、再度二人の物語へと収束し、「何のために走るのか?」という最初の問いに帰結します。
100メートルは時間にすると約10秒。しかし、その10秒に内包されるのは人生を懸けてきた全ての時間です。10秒を積み上げ続けたからこそ気づく走ることの意味があります。
全力疾走で走り向けた『ひゃくえむ。』は自分が辛い時に読み返すバイブルとなることでしょう。
みなさんの応援にありがとう。
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