ふたりエスケープ

田口囁一 / 著

コマ投稿OK

『ふたりエスケープ』に登場する「架空の夏」の正体 フィクションが生み出す本物の感情 | 次にくるマンガ大賞2021ノミネート作品

突然ですが、あなたには忘れられない夏の記憶はありますか?

ふたりエスケープ

早くも一年の半分が過ぎ、本格的な夏が近づいてきたこの頃。海へ山へと飛び出すアウトドア派にとっては待ちに待ったシーズンな一方、マンガやアニメ、ゲームを楽しむインドア派にとっては、ただ暑くて気力を奪うだけの季節の到来かもしれません。

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しかし、本当にそうでしょうか?実はあなたの心の中にも存在するのではないでしょうか。特に何かあったわけでもないのに、なぜか郷愁を感じてしまう「架空の夏」が。

マンガやアニメ好きならきっと理解できてしまう、あるはずの無い思い出。その幻想の正体は、『ふたりエスケープ』の中に見つけることができます。

『ふたりエスケープ』とは

『ふたりエスケープ』は、いつも締切に追われ苦しんでいるマンガ家の「後輩」と可愛いだけが取り柄の無職な「先輩」、一つ屋根の下で暮らす2人が繰り広げる現実逃避コメディです。

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自称「現実逃避のプロ」である先輩がアドバイスと称して後輩をエスケープに誘い込み、スマホを封印したり生ハム原木買ったりいきなり旅に出たり。全力でおバカを楽しむ2人が笑いと癒しを与えてくれる作品ですが、ふいに差し込まれるエモさも魅力の一つ。

👉 あらすじや見どころについてはコチラの記事もご覧ください

心にひそむ"あの夏"の幻影

冒頭のコマは、第2巻のエピソード「その10」に登場します。

海辺にたたずみ、後ろ手を組みながら儚げな表情でこちらをふり返る後輩。その姿に脳内の何かが刺激され、自然と感傷がこみ上げてきます。こんなキラキラした思い出なんて持っているはずないのに。

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淡い色のワンピースに麦わら帽子、風に舞う長い髪。これはもはや我々の心に存在する「夏の幻影」の具象化と言っても過言ではありません。

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ひと夏の大冒険や、あの人と歩いた夏祭りの人ごみ。思い出そうとするだけで寂しさと懐かしさに襲われ、胸が締め付けられます。実際はクーラーの効いた部屋に引きこもってるだけなんですが。

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青春の日々を振り返るように遠くを見つめたりしてみますが、その先に浮かんでいるのは架空の記憶です。

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思い出は偽物でも、抱いた感情は本物

これらは多くの物語を疑似体験して形作られ、いつの間にか私たちの中で育っていた夏という概念です。もちろんそれはフィクションであり、偽物の感傷にひたる様子は傍から見れば少し奇異に見えるかもしれません。

けれど、作品を読んで動いた心やそこで感じる郷愁は間違いなく本物の感情です。たとえ先輩に「すまん 何これ」と言われようとも現実にそんな眩しい経験は一切していなくとも、それはフィクションが与えてくれた大切な心の原風景。

そんな私たちが持つ「架空の夏」のエモさが、このエピソードでは見事に表現されていました。

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👉 公式アカウントから上記エピソードを試し読みできます

田口先生の作る音楽もエモ過ぎる

実は作者の田口囁一先生(@sasa1)は音楽活動もされており、オリジナル楽曲『0キロポスト・モノローグ 』のMVには『ふたりエスケープ』の先輩も登場しています。

いつもは人で溢れた電車や駅のホームが、夜明け前に作り出す静けさと寂しさ。あの時間帯だけが持つ独特の空気を感じさせるこの曲は、本作がコメディの中で不意打ちに醸し出すエモい瞬間と通じるものがあります。

作中でも東武東上線の寄居駅や北坂戸駅など電車に関わるシーンがたびたび登場し、また多くのファンが実際に現地を訪れていますが、聖地巡礼の際にこの曲をお供にすれば、場所や建物だけでなく空気感まで感じ取ることができるかもしれません。

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コメディ作品の紹介としては随分と感傷的なものになってしまった気がしますが、きっとこれも心にひそむ"あの夏"のせい。普段のテンションの高い掛け合いと情緒の振れ幅も、本作を構成する欠かせない要素です。

特に、いつも後輩をおちょくって無職生活を満喫している先輩が時折見せる意味ありげな表情がめちゃくちゃ良いので、ぜひ注目してみてください。

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『次にくるマンガ大賞』にノミネート!

『ふたりエスケープ』は、次にくるマンガをみんなで決める『次にくるマンガ大賞』にノミネートされています。投票は7月2日(金)11:00までとなっていますので、まだお済みでない方はこちらの公式サイトから投票をお忘れなく!

こちらから4話まで試し読みできます!