『ぽんこつポン子』の最終巻10巻が、2021年5月28日に発売されました。
2019年から連載されてきた『ぽんこつポン子』がついに完結します。
春の季節から始まったポン子たちの物語も、9巻で冬の季節に入り、10巻では新しい春を迎えました。
ゆったりと、けれど確実に時間が進んでいった物語の中で、本作は私たち読者に言葉にできない感情をなんども味あわせてくれました。
これまでの物語を振り返りながら、ポン子が私たちに教えてくれたことを考えていきたいと思います。
※ 本記事は10巻のネタバレは極力避けています。9巻までの内容を振り返っていきながら、作品全体の魅力を考えていきます。
『ぽんこつポン子』の季節を振り返る
まずは『ぽんこつポン子』のこれまでの物語を、季節ごとに振り返っていきましょう。
【1巻】新緑の季節に出会った2人
ポン子が吉岡ゲンジの家にやってきたのは5月でした。気持ちのいい気候の中でポン子とゲンジの物語は始まります。
静かに余生を過ごしたいと思っていたゲンジは、ポン子を必要とはしていませんでした。家族のアルバムが燃やされてしまったときは、相当悲しがっていましたね。
【2巻〜6巻】永遠みたいな長い夏
2巻に入ると夏の季節に突入します。近所の子どもたちと海水浴を楽しんだり、夏祭りを満喫したりと、田舎ならではの夏の風景が描かれます。なんだか郷愁の念が心の奥底からわきおこってきます。
2巻の終わりでは、ゲンジの孫・ゆうなが登場。
ゆうなとポン子の長い夏。幼い頃の夏休みがそうであったように、終わりがないかのような長くて濃密な夏が6巻まで丁寧に描かれました。
【6巻〜7巻】乾いた風が吹く豊穣の秋
長い夏休みにも終わりは来ます。ゆうなは東京の日常に戻りました。
落ち葉をゆらす肌寒い風が、ポン子に寂しさを感じさせます。
そんな秋ですが、実りの時期でもあります。ポン子と周囲の関係性が実を結び、秋ならではの豊かな風景を私たち読者にみせてくれました。
【8巻】「最先端」と「時代遅れ」
8巻ではゲンジとポン子は東京を訪れました。そこで目にしたのは、最先端のテクノロジーと時代に取り残された遺物たち。ゲンジとポン子は「時代遅れ」というレッテルを嫌でも意識させられます。
時の流れの無情さをまざまざと読者に見せつけながら、描かれた学園祭のエピソード。
「人生は祭りだ!」そんなメッセージを受け取りました。
【9巻】終わりを前に素直になれない家族たち
秋も深くなるにつれて、終わりが見えてきたゲンジの一生。
ゲンジを心配した子どもたちがこの巻でやっと登場します。素直になれないゲンジと子どもたちの関係性は、他人事とは思えませんでした。
家族への想いで読者をしんみりさせておいての、最後は大爆発!
これからポン子とゲンジはどうなってしまうのでしょうか?
季節はめぐる。終わりと始まりの10巻
家族との記憶が刻まれたマイホームを失ってしまったゲンジは、意気消沈。
ゲンジにとっての終の住処はどこなのか?ゲンジの居場所が問われます。
そして、季節は冬を終えて春の気配。そろそろ季節が一周しようとしています。
あのヒヨコたちも立派なニワトリになりました。
あっという間に過ぎ去った1年間を感じながら、いよいよ物語はクライマックス。ゲンジとポン子の終わりが描かれます。
その結末はぜひ、本書にてお確かめください。『ぽんこつポン子』ならではの結末になっており、本作でしか味わえない感情がそこにはありました。
ポン子が教えてくれたこと
10巻をかけて描かれてきたポン子とゲンジの1年間。言葉では掬い取ることができないかすかな感情の存在を、ポン子は私たちにたくさん教えてくれました。
それらの感情をあえてまとめるならば、無情に過ぎ去る人生への肯定感と言えるのではないでしょうか。
人の一生も、街も、人間関係も、いつかは過去のものとなり朽ちていきます。失われていった過去を思うと胸がキュッと切なくなります。
途切れてしまった子どもの身長の記録(2巻)
けれどそんな過去は記憶として蓄積されていき、これからの人生を彩らせてくれるのかもしれません。
ゲンジは家族との思い出を胸に刻みこみながら、ポン子と一緒に新しい人生を歩んでいきました。
最終回のポン子もまさにそうでした。
終りがあるからこそ、尊べる今。本作は人生の「終わり」と「過去」を描くことで、進み続ける「今」に温かい手触りを我々に感じさせてくれました。
吉岡ゲンジは私たちの未来
話は変わりますが、本作は数十年先の日本のお話です。年齢的に考えると、吉岡ゲンジは未来の私たちの姿なのかもしれません。
自分がゲンジの年齢になったとき、はたしてどんな生活が待っているだろうか?ミスのないロボットがきっちり世話をしてくれる生活なのか、はたまた、失敗を頻繁に起こしてしまうパートナーと暮らすドタバタな日常なのか?
ゲンジはポン子に振り回されて、よく怒って、たまに笑って、ドタバタな日常を送りながら、人生の最後を過ごしました。自分の人生も、最後はそんな未来が待っていたら嬉しいかもしれない。
『ぽんこつポン子』は私たちの今を肯定し、未来に新しい希望を抱かせてくれました。
『ぽんこつポン子』を読んできた10巻分の記憶は、きっと私たちのこれからの人生に彩りを与え続けてくれるはず。「ゲンジの年齢になったらまた読み返してみよう」そんなふうに思える名作でした。
ありがとう!『ぽんこつポン子』!