めぞん一刻

高橋留美子

名失恋の数だけ名作になる。恋のライバル三鷹さんを追いかけて知る『めぞん一刻』の魅力!

『めぞん一刻』は、アパート「一刻館」の管理人・音無響子さんと、住民の青年・五代を中心にしたラブコメディ。五代が浪人生から社会人になるまでの、約5年間が描かれている。『僕らはみんな河合荘』、『水は海に向かって流れる』などの、「ひとつ屋根の下ラブコメマンガ」の原点ともいえる作品だ。

高橋留美子
めぞん一刻

元祖ツンデレヒロイン・響子さんの魅力や五代の成長物語については既にいろんなところで語られているので、僕は、三角関係を演じた最高に魅力的な恋のライバル・三鷹さんの魅力を、全身全霊を込めてお届けしたい。

めぞん一刻 文庫版 コミック 全10巻完結セット (小学館文庫)
高橋留美子/著

超ハイスペックライバル・三鷹さん

三鷹さんは、響子さんが通うテニス教室の「女殺し」コーチとして登場。キラリと光る白い歯を持つスマートなイケメンで、性格は明るく朗らかで紳士的。家賃20万ほどのマンションに一人暮らし、ヘルパーさんが家の掃除をするほどのお金持ちだが、それを鼻にかけることもない。五代とはいつもいがみ合っているものの、五代が風邪をひいたときは料理を作ってあげるやさしさもある…。

などなど、いいところを挙げればキリがない、完全無欠のライバルだ。

だけど、肝心の響子さんには、なかなか振り向いてもらえない。自分よりスペック的に劣るはずの、五代との三角関係に不満を持ちつつ、何年も進展しない響子さんとのお食事デートを続けている。

終盤、響子さんと五代が結ばれることで、三鷹さんは身を引くことになるのだけれど、その去り際がとにかくカッコいいのだ!

こんなに美しい去り際は見たことがない

三鷹さんは、響子さんの幸せを心から願っていたからこそ、響子さんを幸せにできるのは自分ではないと気づいてしまう。三鷹さんは、無理やり両親を引き合わせる、響子さんをホテルの部屋に誘うなどの強引な行動を取るのだけれど、それは、失恋した自分の気持ちを収めるための、あえてピエロに徹したような行為のようにも見えて、それが情けなくもスマートで、泣ける。

そして、恋に敗れた、三鷹さんが五代に向けた励ましの言葉が、とてもいい。

「本当はな…きみの顔なんか見たくなかったんだ だけどな…ぼくはもう音無さんを支えられないから。なんでぼくがきみを励まさなくちゃならんのだ」

わかる、わかるよ三鷹さん…!考えてみて欲しい、30歳を超えたモテモテの男性が、約5年間の三角関係の末にフラれてしまうのだ。そんな自分の情けなさを受け入れて、ライバルに励ましの言葉を贈れる男がいるだろうか。カッコ悪く去った姿が、最高にカッコいいのだ。

本作を未読の方も、読んだことのある方も、ぜひ一度、三鷹さんの気持ちを追いかけながら読んで欲しいと思う。きっと、響子さんと五代の大恋愛の裏に隠された、失恋の物語をじっくり味わうことができるはずだ。

めぞん一刻 文庫版 コミック 全10巻完結セット (小学館文庫)
高橋留美子/著