めでたく候

藤村真理 / 著

『めでたく候』玉の輿の語源となった女性の出世と恋の物語

藤村真理先生の『めでたく候』は、三代将軍・徳川家光の側室で、五代将軍となる家綱の生母・桂昌院を描いたヒューマンドラマです。桂昌院は、庶民から将軍の母にまで上りつめ、玉の輿という言葉の語源ともなった(諸説あります)女性です。

高い地位につくという予言

物語は桂昌院が亡くなった直後から始まります。あの世のはざまにある裁きの場で、桂昌院はこれまでの行いを懐かしい人たちと映画を見るように鑑賞します。

映像は桂昌院の幼い頃から始まります。幼い頃に出会った亮賢という僧侶に、桂昌院は「将来、高い地位につくかもしれない」という予言を受けるのでした。

玉の輿の由来となった女性

桂昌院の幼名はお光(光子)。その後はお玉と呼ばれます。桂昌院はのちに家光の側室となって5代将軍となる綱吉を生みます。その後、綱吉の力添えもあって朝廷から1684年に従三位という位を与えられ、さらに1702年には従一位の官位を贈られます。従一位は、当時の女性としては最高位の位でした。

野菜売りの娘から女性最高位に上り詰めたお玉のシンデレラストーリーから、玉の輿という言葉が生まれたと言われています。

生類憐みの令と犬公方・綱吉

本作では桂昌院が幼い頃にシロという犬を飼っていて、幼い桂昌院がシロに命を救われたエピソードが挿入されています。歴史上にも有名な生類憐みの令が発令されたのは綱吉の代です。綱吉が戌年生まれだったため、特に犬を大事にするようにというお達しがあり、綱吉が犬公方と呼ばれていたのは歴史上の事実です。

綱吉に子ができず、生まれても育たなかったため、信心深かった桂昌院は、綱吉と共に神社仏閣の再建に乗り出したこともありました。

こうして史実と比べながら作品を読み解くと、1巻の最初に出てくる犬・シロの存在や桂昌院の将来を予言した亮賢との出会いが、歴史上の重要な出来事と関係しながら物語が進むおもしろさがあり、作品をさらに深く楽しめますよ!

時代によって変わる女性の悩み

藤村真理先生は綾瀬はるかさん主演でドラマ化された『きょうは会社休みます。』の作者です。『きょうは会社休みます。』は、処女をこじらせていた33歳OLが、年下男子と一夜を共にしてしまうことから始まるラブストーリーです。

『きょうは会社休みます。』では、働く女性の結婚や仕事、恋愛など現代女性の悩みが描かれていました。『めでたく候』では、好きでもない人との間に子どもを産むのが役割として求められていた時代の女性の姿を描いています。相手が自分の意志とは関係なく決められた状態で、桂昌院はどんな恋愛を経験するのでしょうか。このように時代によって変わる女性の扱いや役割について考えてみたくなるのも本作の魅力です。

歴史好き必読!

単行本の巻末には桂昌院ゆかりの地の紹介や、時代考証の苦労などがおまけマンガで紹介されています。

監修の櫛田良道先生との対話では、桂昌院の神社仏閣への寄進レベルが「異常」と思えるほどだったことが書かれています。コンプレックスを埋めたくて行動を起こすところが、江戸時代でも現代でも変わらないことに、藤村先生はシンパシーを感じているよう。

桂昌院のコンプレックスを描きたいと感じる藤村先生が、桂昌院をどんな人物として描くのか、今後の展開にも期待したくなりますね!

めでたく候 (全11巻) Kindle版