インハンド

朱戸アオ/著

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『インハンド』科学の二面性に迫る医療ミステリー ついに完結!

インハンド』は、自分のウンコを毎日保存するような変態で天才の寄生虫学者が、不可解な事件の謎を解いていく医療ミステリーです。2019年に山下智久さん主演でドラマ化もされた本作の完結巻となる5巻が2021年2月22日、ついに発売されました。

物語のタイトルには、セレネやキマイラなど、ギリシャ神話に出てくる神や生き物の名前がつけられています。最終巻を機にギリシャ神話の逸話と合わせて本作を読み返すと、物語の新たな魅力を再発見できるのではないでしょうか。

義手の秘密に迫る

医薬品の特許のおかげで巨額の資金を得た紐倉哲(ひもくらてつ)は、巨大な邸宅で寄生虫の研究をしながら過ごしています。彼の右腕は機械製の義手になっており、最終5巻では紐倉の右腕がまだあった頃のエピソードが描かれています。

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科学の正しさはどこにあるのか

紐倉の友人の入谷廻(いりやめぐる)は、クローン病という難病を患い、自身の体の免疫過剰のために何度も腸の手術を受けていました。入谷は、現代の環境が清潔すぎるのが問題ではないかという衛生仮説を唱え、自身の信念をもって未来のために科学を使おうとします。たとえそれが周りに理解されなかったとしても。

医療に用いられる一部の薬には、毒ガスから開発されたものもありますし、ロケットなどの宇宙開発技術は軍事利用することもできます。

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作中ではスポーツ競技のドーピングに関する事件も取り扱っていますが、科学の発展とともに、ドーピング自体も覚せい剤や筋肉増強剤の利用、赤血球を増やすエリスロポエチンの投与。さらに選手の遺伝子を改変する遺伝子ドーピングへと進化しています。

人の生活を豊かにし、健康に生きられるように助けるはずの科学は、人によっていかようにも利用することができます。どこまでが良くてどこまでが悪いのか、『インハンド』は読者自身に問いかけてくるようです。

科学者の無垢は罪なのか

ギリシャ神話に登場する女神ペルセポネは、冥界の神ハデスに誘拐され、一年のうち数か月を冥界で過ごすことになったという逸話があります。

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科学者は新しい発見に夢中になりますが、純真な好奇心の先に新型兵器やバイオテロが生み出される可能性があることも心に留めておかなければなりません。

私たちは孤独じゃない

『インハンド』では、ふだんは意識しない寄生虫や腸内細菌などの存在の重要性が語られています。人間の体は多くの小さな生命によって支えられて生きていられるのです。

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抗生剤は多くの人の生命を救いましたが、同時に新しい病気を生み出すきっかけになったかもしれません。食生活や生活習慣の急激な変化は、私たちの体に思わぬ負担をかけているのかもしれません。しかし、どちらがよいのかを簡単に測ることはできず、私たちは科学の発展と共に自ら問い続けていく必要があるのでしょう。

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最終話のタイトル「ケイロンの鉤(かぎ)」のケイロンはギリシャ神話に出てくる賢者で、ケンタウロス族という半人半馬の種族です。医術にも明るく、治療の神アスクレピオスに医術を教え、薬草を育て病人を助けながら暮らしていました。しかし、ヒュドラの毒を塗ったヘラクレスの矢が当たり、ケイロンは苦痛のあまり不死の体を手放して死を選んだとされています。

WHO(世界保健機関)のロゴマークには蛇が巻き付いた杖が描かれていますが、これはアスクレピオスが持っていた杖で、世界的に医療や医術の象徴として使われています。アスクレピオスはケイロンから学んだ優れた医術の技を使い、死者をも甦らせたと言われています。

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発展し続ける科学の中で、人間だけでなく全ての生命がバランスを保って生きつづけるにはどうしたらいいのでしょうか。多くの示唆を与えてくれる『インハンド』。ぜひ読んでみてください!

科学の適切な使用とは何か

インハンド (全5巻) Kindle版