カンギバンカ

今村翔吾 / 原作 恵広史 / 漫画

『カンギバンカ』義と悪の狭間で揺らぐ青年の生き様を描いた歴史絵巻

今村翔吾先生原作、恵広史先生マンガの『カンギバンカ』は、将軍足利義輝暗殺に東大寺焼き討ち、さらに仕えていた主家の乗っ取りという「三悪」を行ったとされる戦国時代の武将・松永久秀の生涯を描いた歴史絵巻です。

原作となった今村翔吾先生の小説『じんかん』は、2020年の直木賞候補作であり、第11回山田風太郎賞を受賞しています。じんかんとは漢字にすれば「人間」ですが、にんげんと読めば「ヒト」のことを指し、じんかんと読むと「この世」のことを意味します。

身を挺して弟を守る兄

物語の冒頭は松永久秀が織田信長に反旗を翻したところから始まります。謀反を許さないはずの信長ですが、久秀の裏切りを聞いて「義を捨てきれない男」と不敵な笑みを浮かべるのでした。戦国の梟雄(きょうゆう)と呼ばれる久秀ですが、梟雄とは残忍で勇猛な人物のことを言います。

松永久秀の謀反より遡って1521年、孤児の兄弟、九兵衛と甚助が人買いに連れられていたところ、二人は多聞丸率いる野盗団に救われました。

多聞丸の野盗団は全員子どもで構成されており、元はみんな孤児でした。弱い者を助けるという掟を掲げる多聞丸に、仲間として誘われた九兵衛と甚助でしたが、簡単には信じられないと彼らの元を飛び出してしまいます。

九兵衛は孤児になった後に、身を寄せていた寺の住職に搾取されていましたが、弟にそれを伝えることなく、自分を犠牲にしながらも必死に弟を守り続けていたのでした。死なないためだけに生きていた九兵衛に、多聞丸は自分たちの夢を共有するのでした。

カンギバンカとは

タイトルのカンギバンカは造語で、漢字では「奸義万華(挽歌)」。万華鏡のように奸(=邪悪)と義(=道理)が入れ替わる、九兵衛の揺らぐ気持ちがタイトルで表されているかのようです。あるいは揺らいでいるのは、九兵衛の背負った夢と業かもしれません。

奪い奪われることのない自分たちの「くに」をつくるという多聞丸の決意を聞き、ついに心を決めた九兵衛は、仲間たちに文字を教えながら幸せな時を過ごします。多聞丸が仲間たちと考え、自ら付けた姓は「松永」。松の地に集う仲間たちが末永くいられるようにという彼らの夢がつまった名前でした。

裏切り者を討った後に、彼の持っていたお金を盗らなかったところや、辛い事実を仲間に知らせず一人で背負おうとするところに、九兵衛の清廉な精神性が感じられます。しかし、仲間を守るためとはいえ、人を疑い人を斬り続ける九兵衛自身の抱える矛盾が、彼を今後どのような結末に導いていくのかが気になるところです。

作画で伝わる感情表現

人物の目線や突き上げた拳など、激烈な戦闘シーンだけでなく、表情やしぐさから登場人物たちの懊悩や決意など、激しい想いが伝わってくるのも本作の魅力です。

史実では松永久秀は、大和国信貴山城と多聞山城の城主となります。織田信長にも反旗を翻した男は夢を受け継ぎ自分たちの「くに」をつくれたのか。今後の展開も見逃せません!

人とは何だ、人の世とは何だ

カンギバンカ (全4巻) Kindle版