ケーキの切れない非行少年たち

宮口幸治著 鈴木マサカズ画/著

『ケーキの切れない非行少年たち』最新刊2巻最速レビュー!犯罪と知能の関係性というタブーに迫る

ケーキの切れない非行少年たち』は、知られざる犯罪と知能の問題をテーマに、少年院に収容されている非行少年たちの「リアル」を描いた作品です。児童精神科医の宮口幸治先生の同名の著書を元に、鈴木マサカズ先生がコミカライズ化されたもので、2021年4月9日に第2巻が発売されました!

『ケーキの切れない非行少年たち』とは

2019年に発行された宮口幸治先生の同名の著書を鈴木マサカズ先生がコミカライズ化した作品で、現在、くらげバンチ(WEBマンガサイト)にて連載されています。

原作は累計発行部数67万部を突破し、2020年の新書部門年間ベストセラー第1位になるなど、ビジネス書としても話題になった作品です。

ケーキの切れない非行少年たち(新潮新書)
宮口幸治/著

『ケーキの切れない非行少年たち』は、人口の14%程度いるとされる「境界知能」に焦点を当てた作品となっています。「境界知能」とは、IQにおいて70~84程度で、いわゆる「知的障害」(IQ69以下)とまでは言えませんが、現代社会で生きていく上では相当程度の困難に直面していると考えられている人たちです。

原作では、児童精神科医である原作者である宮口幸治先生が、医療少年院で出会った「非行少年」たちの現実を伝える内容となっています。

鈴木マサカズ先生によってコミカライズ化された本作品は、シナリオを宮口幸治先生が執筆し、医療少年院で勤務する架空の精神科医 六麦克彦(ろくむぎかつひこ)の目線から、少年院での少年たち(少年院では女性を女子少年と呼びます)の様子や抱えている生きづらさが、1人ずつに焦点が当たった物語になっています。

原作新書のビジネス書的な観点はそのままに、全く異なるアプローチで少年たちの「リアル」が描かれています。

  • 第5話はこちら(2巻は第6話より収録)

  • 最新話はこちら(2巻の後、第11話)


知的障害と発達障害は違うもの

「発達障害」については、少しずつ認知が進み、いわゆる「グレー」(発達障害の傾向はみられるものの、診断がおりないケース)という言葉もよく聞かれるようになりました。しかし、一般的な35人学級のクラスで約5人は「境界知能」と呼ばれる知的障害ではないがボーダーラインにいるとされる人たちが「いる」という事実についてはまだまだ知られていません。

「知的障害」とはいったいどういう障害なのか?「発達障害」という言葉が市民権を得る陰で、一緒くたにされている「知的障害」の「境界知能」と言われている人たちが持つ傾向や特徴、思考の癖といったものが、架空の犯罪少年たちを通して語られています。

驚くべきことに少年院では、「知的障害」と「発達障害」は全く別のものとして、矯正教育課程区分ごとに区別され、更生プログラムが組まれているということです。

世間的な認知が進まず、関心が注がれず、適切なサポートがされていないがゆえに、学校教育や社会でも見過ごされてきている「境界知能」の人たち。見過ごされてきたにも関わらず、犯罪を起こしてしまった先の更生の段階で、適切なサポートを初めて受けているという皮肉な現実がそこにあります。

窃盗・暴力・性犯罪それぞれの犯罪に合わせた更生プログラム

少年院で実際に行われているワークショップやカウンセリングといった専門家による更生プログラムが実例と共に紹介されています。

怒りを抑えるため、思い込みを思い違いではなかったのか?と思考の癖を認識していく暴力防止プログラムや、自分の過去やトラウマを認識し、他人の人生を知る講座、日々の心情の変化を観察する日記指導など、起こした犯罪や少年たちの傾向に合わせた更生プログラムを知ることができます。

生きづらさとはなに?

本作品で紹介されている少年たちは、凶悪な犯罪者ではありません。彼らは、人付き合いが少し苦手だったり、相手の状況を理解すること難しかったり、誰しもが状況によっては「苦手」を感じたことがあるような悩みを抱えています。

犯罪を犯してしまった少年たちと、そうでない人の違いを短絡的に紐づけられませんが、この作品を読んで、「こんなことが難しいの?」と、感じることがあればそれは、どうにも埋められない、想像することができない彼らにとっての「生きづらさ」なのだと思います。

境界の難しさを知る

ケーキの切れない非行少年たち (全2巻) Kindle版