猫は私たち人間に癒しを与えてくれる愛しい存在です。
ですが、猫のキラキラした可愛い部分だけではなく、知っておくべきノラ猫社会の厳しい現実があります。
白川蟻ん先生による『ゴジュッセンチの一生』は、ノラ猫社会、生と死、そして猫と人の絆について考えさせられる作品です。
2018年2月より連載が開始され、8月には単行本1巻、そして2019年6月に最終巻である3巻が発売され完結されています。
街の片隅で暮らしている野良の仔猫の「七生(ななお)」と「マチ」。
七緒はもともと飼い猫で、ある時からノラ猫になったのですが以前の飼い主にもらった首輪をつけていることから周りのノラ猫たちからは「鈴鳴りの七生」と呼ばれています。
それでも一緒にいてくれるマチはノラ猫の中でも位が高く、次期リーダー的存在の「碧」候補で周りからも一目置かれている存在です。
そんな2匹が猫嫌いの「成田淑乃」と出会い、彼らの人生が交差し、大きく人生を変える事になります。
ノラ猫の世界はシビア
猫はマイペースで自由なイメージがあります。でも、現実はノラ猫にとっては死はいつも身近なものなのでだからせめて毎日死なないように生きていくのがモットーです。でもそれすらも結構キツイこと。。
取り巻く環境は常に厳しく、ノラ猫たちにとっては5年生きてたらラッキー、そんな世界です。
仲間が「終わっていく」のを目撃することもしょっちゅうです。だからノラ猫の命は軽いものとして思い込まなきゃ、やっていけません。
また、ノラ猫たちは悪意ある人間たちに傷つけられている過去があります。猫も人間をただ恨むことはしません。何かしら理由があります。
作品の中でも度々、人間が猫を傷つける描写があるのですが、とても目を当てられず、心が痛みます。
ノラ猫と人と食卓
ノラ猫にとって人間は敵ですが、「食事」を提供してくれる人間は特別です。食事を提供してくれそうで害のない人間には愛嬌を見せます。こんな姿を見せられたらイチコロです。
でも、失敗に終わることも多々あります。そんな時にふと我に返る彼らが愛おしくてたまりません!
そんな彼らにとって人間がノラ猫のために定期的に食事を提供してくれる「食卓」は生活していく上で欠かせない場所です。
ある日、淑乃たちは町内での猫の餌やりの係にくじ引きで決まってしまいます。実は猫嫌いの淑乃は、当番が決まる前日に彼女の家に潜んでいた七生とマチを見つけ箒を振り回して追い出してしまっていたので、七生とマチに少し罪悪感がありました。
七生に関してはその出来事があったので断固として淑乃宅の食卓に行くことを拒否します。
ノラ猫の葛藤
淑乃宅の食卓に行かない七生をよそに、マチは淑乃の食卓を偵察に行きます。マチを見つけた淑乃は前日箒で追い払ってしまったことを悪く思い、謝ります。
お詫びとして餌を渡そうと近づいてマチを見つけた時に、マチの青い瞳に魅せられ、咄嗟に「ブルー」と名付けました。
マチはこの時から人間である淑乃に興味を持ち始めます。七生は人間嫌いだと思っていたマチが淑乃からブルーと呼ばれている姿を見てショックを受けます。
しかし、淑乃との出会いにより元飼い猫で以前の飼い主からもらった首輪を手放せない七生と実は人間に興味を持っていたマチのノラ猫としての人間に希望を持ってはいけないのに憎みきれない葛藤が表現されています。
ノラ猫と人の絆
そして、この漫画で大きなキーとなるのが七生の首輪です。周りから「鈴鳴りの七生」と呼ばれても、自分は人間なんか大嫌いだと言っていても決して外そうとしなかった首輪を淑乃宅で落としてしまいます。
淑乃が猫嫌いの理由、七生がノラ猫になってしまった経緯がこの首輪を通して過去が明らかになり淑乃と2匹のノラ猫の運命を変えていくことになるのです。
淑乃は七生とマチに出会えたことによって過去と向き合い前を向けるようになります。
この作品は蓋をしてしまいたい現実と真摯に向き合わせてくれます。ノラ猫の世界はもちろん、生と死についてとても深く考えさせられ、同時にとても心が暖かくなる作品でもあります。
猫好きの方にはもちろん、猫が苦手だなという方にもぜひ読んでほしいマンガです!