サマータイムレンダ

田中靖規 / 著

『サマータイムレンダ』2022年アニメ化決定! 散々擦られた“ループもの”に一石を投じるSFサスペンス

ループものが大好物です。

「もしも、時間を戻せたら」。それは刹那的に生きるしかない人間にとって、誰もが一度は切望することのように思えます。

ループものを観ていると、当初スタンダードだった「特定の誰かが望んだこと(あるいは何らかの要因)で何度も同じ刻を巡ってしまう」という単純な構造から、「誰かにループしていることを話すと死ぬ」「戻れるタイミングが短くなっていく」と年々さまざまな趣向を凝らしたルールが足されていっているのが伺えます。

そんな「ループもの」レッドオーシャンのなか、「そう来たか…」と自称ループもの好きなわたしを唸らせる作品と出会いました。

それが、2017年から2021年にかけて「少年ジャンプ+」で連載され、累計1億3000万PVを誇った、田中靖規先生によるSFサスペンス・『サマータイムレンダ』です。

『サマータイムレンダ』のタイトルに隠された意味とは

スクール水着をまとった金髪碧眼の女の子がひときわ映える表紙を見た瞬間、「ラブコメかな?」と勘違いしてしまいがちですが、注目すべきはそのタイトル。

「サマータイム」は直訳すると夏(の)時間ですが、アメリカやカナダなどで実践されている「日照時間を活用するために、時計の針をあえて1時間進める制度=サマータイム」のこととも解釈できます。

「レンダ」とはいわゆる「レンダリング」、記述されたデータをもとに、画像や映像などを生成することを指します。

一度は失われてしまった「サマータイム=楽しい時間」を改めて生成するという意味もあるかもしれないし、「進んでしまった時間=未来」を生成しなおすという意味もあるかもしれません。

つまり、タイトルからしてれっきとしたループもの。第1話で幼馴染が坂道を自転車で駆け降りながら登場し、そのまま海のなかに突っ込んでいくシーンにはループもの好きとしては胸が躍らずにいられません。

そんな『サマータイムレンダ』の冒頭では、金髪碧眼の少女が、主人公に向かって語りかけるところから始まります。

「ちゃんと私のこと、見つけてよ」と。

村に古くから伝わる不気味な「影」の伝承

物語の舞台は和歌山県にある離島・日都ヶ島(ひとがしま)。作者によると、実際に和歌山県にある「友ヶ島」と香川県の「男木島」をモデルにしたといいます。

幼馴染・潮(うしお)の訃報を受けて、2年ぶりに故郷を訪れた網代慎平(あじろ・しんぺい)。葬式で居合わせた親友から、潮の死には不可解な点があり、他殺の可能性があると話を聞く。

さらに、潮の妹である澪(みお)から、潮が身代わりとなって助けたという少女が、数日前に「影を見た」と話していたのを知った慎平は、真相を探るために動き出す。

しかしその最中、慎平と澪は、澪とそっくりの「影」に出会い射殺されてしまう。次に目覚めたとき、慎平は島に向かう船のなかにいた。

『「影」を見た者は死ぬ』​​。

長きに渡り言い伝えられてきた日都ヶ島の「影」の伝承が、本物になろうとしていたー…。

閉鎖的な村と不可解な伝承。これだけで良質なミステリの匂いがプンプンとしますよね。『サマータイムレンダ』の真髄は、決して「大切な人の死を回避するために時空を飛び越える」ことだけではありません。

「そもそも『影』って何なんだ?」というシンプルな疑問を、主人公と読者が一体となってループをする過程で解き明かしていくことにあります。

今ふと足元に目を落とせば、そこには自分から伸びた真っ黒い影があります。もしも、この影が自分をそっくりそのままコピーし、自分に成り代わってしまったのなら。

あるいは、今目の前にいる家族や友人が、すでに本物ではなくコピーだったのなら…。

ドイツ語圏に伝えるドッペルゲンガーの話にも酷似したこの伝承。その予想の斜め上を行く正体を知ったとき、おそらく誰もが驚き目を見張ることでしょう。

そんなんアリ⁉︎ チートすぎるループルール

さて、散々擦られまくった「ループもの」に新たなスパイスを加えるべく、『サマータイムレンダ』ではさまざまな趣向が凝らされています。

というのも、ループものにはさまざまな「お約束」があるから。

たとえば、ループできる回数には限界があることや、ループを繰り返せば繰り返すほど、因果が複雑に絡まって物事がバッドな方向に進んでいくとか、ボーイミーツガールでループが解けるとか。

あらゆる制約のなかでもがく主人公を自分と重ねながら、「どうすればこの負の連鎖を断ち切ることができるのか?」とあれこれ考えを巡らせるのがループものの醍醐味でもありますが、『サマータイムレンダ』は何とも規格外な手口でこのお約束をぶち壊していきます。

たとえば、基本的に過去に戻る際は、あらゆる万物を持って戻ることはタブーとされてきましたが、『サマータイムレンダ』ではある特殊な方法を使えば、モノを過去に持ち込むことができてしまいます。

また、ループものにおけるキモは「第三者に伝えるか否か」という点にありますが、『サマータイムレンダ』では「そんな伝え方…あります⁉︎」という予想の斜め上を行く方法を取ります。

「言いたいけど言えない」
「言ったけど信じてもらえなかった」
「だからひとりで頑張りますね!」

というところに帰結しがちな他のループもの主人公に教えてあげたい。「こんな方法、ありますよ」と。まぁ教えたところで真似できるかといえば微妙なのですが…。

超アナログな島×SFのギャップを楽しもう

なぜSFはこうも辺鄙な村との相性が抜群なんでしょうね。

日都ヶ島は船を使わないと辿り着けないような島です。田舎特有の「ご近所さんネットワーク」で誰が何をしているかなどの情報は筒抜けだし、戦いに使える武器もせいぜいショットガンが良いところ。

そんな超アナログな島であるにも関わらず、物語中盤から一気に加速するSF展開。その何とも言えないミスマッチさがたまりません。

背景は生い茂る山々と海なのに、事象は限りなく近未来的。マンガを読みながら「これは絶対にアニメ映えする作品だ…」と個人的に感じていたので、本気でアニメ化が楽しみです。

アニメは2022年に放映スタート。現在公式サイトでは美しすぎる予告PVがアップされており、期待が高まります。

放映前にはぜひマンガで予習を!

これだけの濃密な内容なのに、たったの13巻完結なのも驚きです。無駄のないストーリーラインも本当に素晴らしいので、ループもの好きも、ループもの初心者の方もぜひチェックしてみてください!

時間モノはSF好きが一度は通る道

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