週刊ヤングジャンプで連載中の起業マンガ『スタンドUPスタート』。作者はTVドラマ化もされた『ドロ刑』の福田秀先生です。
今までにないリアルさで起業の物語が描かれる本作の第1巻が、2020年10月16日に発売されました。
「人間投資家」を名乗る主人公の三星大陽が、「資産は人なり」を信条にさまざまな「訳アリ」人材に投資をして、起業を支援していくストーリーです。
この記事では、大陽と同じく起業家への投資を仕事にするベンチャーキャピタリストであり、2020年8月に初の著書『僕は君の「熱」に投資しよう――ベンチャーキャピタリストが挑発する7日間の特別講義』を上梓した佐俣アンリさんにインタビュー。
数々の起業家に投資を行ってきた佐俣さんも「すごくリアル」と話す『スタンドUPスタート』の魅力と、「まるでマンガの世界の話」な起業の面白さに迫ります。
お話ししてくれた人
佐俣アンリ
ベンチャーキャピタリスト。1984年生まれ。慶應義塾大学卒業後、カバン持ちとして飛び込んだEastVenturesを経て、2012年に27歳でベンチャーキャピタル「ANRI」を設立し、代表パートナーに就任。主にインターネットとディープテック領域の約120社に投資している。VCの頂点をめざし、シードファンドとして日本最大となる300億円のファンドを運営中。Twitter:https://twitter.com/Anrit
とてもリアルな起業が描かれている!
ーー佐俣さんは、投資家の人たちから預かったお金をスタートアップ企業に投資して、その企業が成長してから株を売ることで利益を得る、ベンチャーキャピタリストのお仕事をされているんですよね。
はい、そうです!ANRIというベンチャーキャピタルを経営していて、今は300億円くらいのお金を預かり、さまざまな企業へ投資しています。マンガもすごく好きで、どんなジャンルでも雑食で読む派です!
ーー同じくベンチャーキャピタリストが主人公の『スタンドUPスタート』を読み、佐俣さんはどんな感想を持たれましたか?
すごく面白かったです!毎話、主人公の大陽が他のキャラを起業に誘っていき、別のビジネスをしているキャラ同士が仲間のようになっていく描写が好きですね。挑戦する人が増えていく感じは面白いし、作中でのビジネスの描かれ方がとてもしっかりしています。
ーービジネスの描かれ方は佐俣さんの目から見ても、しっかりしているんですね。
すごくリアルですね!相当丁寧に取材されている印象があります。起業って本当にこんな感じで、訳がわからない人が成功していく様子は本当に面白いです。
ーーでは佐俣さんのお仕事も、大陽とほとんど同じ感じと考えちゃって大丈夫でしょうか?
投資対象のビジネスは少し違うかもしれません。大陽は大小さまざまなビジネスに投資していますが、その中には僕が運営するANRIだと投資対象にならないものもあります。
ーーでは、どういうビジネスが投資対象になるのでしょう?
僕たちが投資するのは、お金を使って短期間に成長し、規模の大きいビジネスを作ろうとしている会社です。そういう会社が上場したり、別の会社にM&Aされたりすることで、利益を得る仕事ですからね。
ーー確かに『スタンドUPスタート』で描かれるビジネスには、マンション管理業などの小規模なものもあります。
そういう意味で、『スタンドUPスタート』では僕が普段触れているものより幅広い起業のあり方が描かれています。でも、中には僕たちが投資を検討できるビジネスもありますよ!
ーーおお、たとえばどれですか?
2話に登場した人材系サービスは、投資対象になりそうですね。インターネットを通じてユーザー数を増やせれば、大きなビジネスを作れるかもしれない。実際に同じようなビジネスモデルのサービスはよくありますしね。
ーー実際によくあるサービスなんですね!
どのビジネスもリアルに描かれていて、本当にいろんなところに丁寧に取材されているんだと思います。
起業のスタートは「負の感情」でもいい
ーーじゃあ、実際にこの「Weマガジン」と同じようなサービスを持ち込んできた起業家がいたら、佐俣さんは投資したいと思いますか?
作中で描かれている彼だったら、投資するかもしれませんね!その起業家次第だと思います。
ーーいいサービスでも、それを作る人によって投資するかどうかを変えるんですか?
その人がどういう人で、何をしたいかこそが大切なんです。それは大陽も同じで、彼はその人の人となりを大切にしていますよね。
ーー確かに大陽は何かコンプレックスのようなものを抱えた「訳アリ」な人たちをスカウトし、起業を勧めていきますね。
僕もその起業家のコンプレックスや、これまでどういう人生を歩んできたのかをよく聞きます。たとえば「就活をなくすサービスを作りたい」と言うなら、「なぜ就活をなくしたいの?」とか「このサービスで本当に喜ぶ学生は増えるの?」みたいに聞いていくんです。
ーーそれを聞いて、どういう回答だったら投資しようと思われるんですか?
本当にやりたくてやっている人はいいですね。過去には、好きでサービスを作っていたら、いつの間にか会社をやることになってしまったという人もいました。そういうタイプの人はモチベーションが無限に湧いてくるし、投資したくなります。
ーーたとえば「Weマガジン」を作った神崎は「『就活』なんてクソだ‼︎」と言っていましたが、負の感情がモチベーションでもいいのでしょうか?
負の感情が転じて、何かを恨んでしまう人はよくないですね。たまに、その産業を貶めるようなことを考えてしまうような人はいるんですよ。でも、スタートは負のエネルギーやコンプレックスからでもいいんです。
ーー詳しく聞きたいです。
たとえば「就活がクソ」と言って、就活を恨み続けるようではダメなんです。でも、「就活がクソ」と思ったということは、ユーザーが感じている負を発見できているということ。それは起業の種になるし、そこからよりよい仕事探しのあり方を考えていけるならば、それでいいんです。
ーーなるほど、負の感情は起業の種になる。面白い。
そういう意味で、彼は「就活はクソ」といって腐るのではなく、それを変えるためのサービスを作ることに向き合えている。そういう人間に投資したいんですよ。
ーーなるほど、納得しました!
1話に登場した林田も大企業の看板コンプレックスでしたが、あのエネルギーは行動を起こすためにすごく大事なものなんです。
子会社への出向を命じてきた銀行を恨むのではなく、自分がいた銀行に融資してもらって世の中に向けたサービスを作ろうとするのがすごくいい。
ーー二人とも負の感情が行動を起こすためのエネルギーになったけど、それを世の中をよくするために使えている。
負の感情をそのまま振り回して、誰かを見返すために行動しようとしている人には、誰もついてこないですよね。僕だってついていきたくないですし、投資をして一緒に戦いたくないです。でも誰かのための何かだったら、人がついてくるんです。
起業はまるでマンガの中の世界
ーー『僕は君の「熱」に投資しよう』にも、最初はめちゃくちゃな起業家がとてつもない成長をしていくストーリーがたくさん描かれています。
訳がわからない人間が目の前でどんどん成長して、偉大な人物になっていく様子を見れるのは、投資家の仕事の何より面白いところです。自分も負けられないと気合が入りますしね。
ーー特に、佐俣さんが「ニートにもなれない」ような男と表現されていた起業家が大成功していくエピソードが面白かったです。
彼は本当にマンガの登場人物みたいなやつなんですよね(笑)。『スタンドUPスタート』の虎と似ていて、社会人としてのマナーは苦手だけど、やりたいことがあってサービスを作れる。それに、長期的に事業に向き合っていけるだけの集中力を持っている。
ーー世間が考える起業家のイメージとは、だいぶ違う気がします。
そういう意味では、世の中が起業に対して持っているイメージより、このマンガで描かれている起業のほうがよっぽどリアルですよ。起業の話って、マンガっぽすぎて逆にマンガにならないような話が多いですからね。
ーーマンガっぽすぎてマンガにならない話…。
スタートアップ3社が合体してできたheyという会社があるんですけど、元の3社の代表のうち1人は僕の妻で、あとの2人は友達なんです。一人ひとりを別々に口説いて、「もっと大きい会社を作ろうぜ!」と合体したのがheyなんです。
ーー仲よしの友だちグループで経営しているような感じですね。
もちろんビジネスとして成立させるために頑張っていますが、根っこにあるエネルギは「友だちと一緒にめちゃくちゃでかいことをやりたい!」という気持ちだけ。まるでマンガですよね。
ーー確かに、マンガみたいな話!
社名を決めるときも「イェーイ!」とか「ヘイ!」みたいな名前だったら分かりやすいんじゃないかと話していたら、たまたまオークションに「hey.jp」のドメインが出ていたから、それを買ってそのまま社名にしたんです。
ーーそんな軽いノリで社名を決めちゃうんだ!
起業って案外、それぐらいの感じですよ。入念に計画を練って、それとぴったり同じことをしていくみたいなイメージが多いかと思いますが、そんなことはほとんどない。
最初は何も持たなかった人が、大小さまざまなきっかけから事業を始め、やりたいことへがむしゃらに向き合ううちに、人としても大きく成長していく様子は本当に面白いです。
ーー人としても大きく成長、ですか。
事業に向き合うのはユーザーに向き合うことなので、だんだん世の中のために一生懸命な人になっていくんです。むしろ私利私欲のためだけではやっていられない。最初はそんなこともないんですけどね。
ーー最初から強いエネルギーを持った人しか、とてもじゃないけど起業なんてできなそうなイメージがありました。
バンドに例えて話すと、超人気バンドでも最初に楽器を始めた理由は「モテたいから」だったりするじゃないですか。それでいいんですよ。でも、だんだん人気が出てきてコンサートで3万人が集まったりするようになると、モテたいだけじゃやってられないですよね。
ーー確かにモテたいだけなら、3万人の前でコンサートをしなくてもいいですね。
最初はモテたいだけだった人間が、どうしたら3万人が喜んでくれるかを考えて演奏をするようになる。起業家も同じで、「就活はクソ」からスタートして、世界を変えられるんです。
あなたは今、本当にやりたいことをできているか?
ーー起業に対して抱いていたイメージが少し変わった気がします。そんな人にはぜひ、『スタンドUPスタート』と『僕は君の「熱」に投資しよう』を合わせて読んでほしいですよね。
たとえば『スタンドUPスタート』を読んで、「起業ってこんな感じなら、自分にもできるのかな」と思った人にはぜひ『僕は君の「熱」に投資しよう』を読んでほしいです。反対に僕の本を読んで面白かった人は、『スタンドUPスタート』を楽しめると思います。
ーーマンガは読むけど起業には興味がない人、もしくは起業には興味があるけどマンガは普段読まない人でも、両作は違和感なく楽しんで読める気がします。
このインタビューを読んで興味を持った人は、ぜひ手に取っていただきたいですね!それに起業に興味がなくとも、熱のぶつけどころを探している全ての人に読んでほしいです。
ーー対象の読者は、起業家や起業家志望の方だけではないですもんね。
起業のテクニック本ではありませんからね。メインの想定読者は学生ですが、裏のターゲットとして、自分はこのままでいいのかと思っている大人や、強い熱を持った子どもと対峙する親に向けて書いた本でもあるんです。
ーーおお、そうだったんですね。
何かを始めるのに遅すぎることはないし、やっぱり好きなことをしたほうが自分の人生に責任を持てますからね。
自分の死の間際に「本当はこれをやりたかった」みたいに気づくのって、めちゃくちゃ嫌だし怖いじゃないですか。
ーーめちゃくちゃ嫌だし怖いですね…。
それより怖いことはないから、好きなことをしたほうがいいんです。みんな本当は熱を持っているのに、見て見ぬふりをしていますからね。「本当に今やりたくてやっているんだっけ?」ということって、結構あるじゃないですか。
ーー特にやりたいわけではないことに時間を使ってしまうことは、確かによくあるかも…。
僕自身も、2年半もの時間をそんな風に過ごしてしまいましたからね。
ーー佐俣さんもですか?
僕は新卒でリクルートという会社に入って2年半ほど働いたんですが、今振り返ればあの期間は僕に必要なかったんですよ。
ーーそれはなぜ?
リクルートはすごく好きな会社です。でも、僕は学生のときからベンチャーキャピタリストになることが夢だった。なのに、それを忘れて2年間、リクルートで別の仕事をしていたんです。しかも、当時は充実した日々を送っている実感がありました。
ーー本当の夢ではないことに、夢中になっていたんですね。
リクルートでの仕事は、夢を忘れてしまうくらいには楽しかったんです。だから、今やっていることがどれだけ楽しくても、それが本当に自分の夢なのかは常に問い続けたほうがいいですよ。
ーーなんだか不安になってきました…。
僕はあの2年半、自分が本当は何をやりたいのか考えることをサボっていたんです。もしあの時期に何かが起きて死んでいたりしたらと思うと、本当にゾッとします。悔やんでも悔やみ切れませんからね。
ーーでも、普段から「死ぬときに後悔したくない」って思いを持ち続けるのって、なかなか大変ですよね。
だからこそ、本当にやりたいことが何なのか自問自答する習慣を早めにつけるんです。自分の夢について考えるときにおすすめなのが、本当の夢を叶えた自分がヒーローインタビューに応えている状態をイメージして話してみることです。
ーーヒーローインタビューですか。
すると、夢のことだけ考えている無責任な自分が勝手に話し出して、本当に進みたいルートが見えてくるんです。大体そこで浮かび上がるルートって絶望的なものですが、みんなそうだから割り切って進めばいい。
ーーちなみに佐俣さん自身は今、日々の仕事をどれくらい楽しまれていますか?
自分がやりたいことのために仲間を引き連れて、人のお金を300億円くらい預かって、それを訳がわからない人たちに投資しているんですよ!そんなの、めちゃくちゃ楽しいに決まってるじゃないですか!楽しすぎて申し訳ないくらいですよ!
ーー勢いがすごい。
みんな歳を重ねるにつれて、それぞれいろんな理由で「やりたいことがあったはずだけど、今更もう挑戦できない」という状況になっちゃうんですよ。そうなる前に、どうか挑戦してほしい。どうせ好きなことをやって成功するなら若いほうがいいし、少なくとも今日が一番若いですからね。
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