ダーウィン事変

うめざわしゅん / 著

『ダーウィン事変』無垢が炙り出す人のタブー。異なる種が私たちの常識に襲い掛かる

ユートピアズ』や『ピンキーは二度ベルを鳴らす』など、奇想な設定で人間の欲望を描き出したうめざわしゅん先生が、新たな話題作を生み出しました。

160有余年前の人々がダーウィンの著書『種の起源』で得たそれの様に、本作『ダーウィン事変』は現代に生きる私たちの常識や倫理観を大きく揺さぶってきます。

人間とチンパンジーのミックスである”ヒューマンジー”が出現した社会を描いた『ダーウィン事変』。本作は、種の外側から私たちの常識を揺さぶってきます。

本作のあらすじ

動物解放同盟(ALA)と名乗る過激派な動物愛護組織が、アメリカのとある生物研究所を襲撃しました。

彼らは実験の対象になっている動物たちを解放しようとします。そこで見つけたのは、妊娠したチンパンジーでした。

チンパンジーはALAによって解放され、動物病院で保護されます。そのチンパンジーから生まれたのはなんと、人間とチンパンジーのミックス「ヒューマンジー」でした。

チャーリーと名付けられたヒューマンジーは人間の家庭で育てられ、事件から15年後、高校へ入学します。

周囲の高校生はヒトではない存在に困惑します。チャーリーとは距離を取り、時には差別的な発言をしました。そんなことお構いなしのチャーリーは彼らにこう問いかけます。

今まで投げかけられたことのない問いを受けた高校生たちは、チャーリーに漠然とした恐怖を抱き始めます。

一方で、暴力活動を続けるALAはチャーリーを活動に利用しようと接近を図ります。

チャーリーの登場によって、人間社会は揺らぎ始めます。

1話は無料で読むことができます!

本作の魅力

崩れる人間の「常識」

チャーリーはどこか達観しています。人間と同じような生活を過ごしますが、周りに馴染もうとはしません。別の種である人間を冷静に観察しています。人間をじっと見つめながら、チャーリーは様々な質問を投げかけます。

人間が他の動物よりも特別な理由ってなに?
人間は他の動物を殺して食べているのに、なんで人間は殺して食べちゃダメなの?

チャーリーからそんな問いかけを突き付けられた私たち読者は、常識が大きく揺らぐ感覚を味わいます。チャーリーを前にすると、人間としての「当たり前」が急に頼りなく感じ始めるのです。人間と同じ生活をする別の種があらわれたことで、人間の常識は急激に相対化されていきます。

そして、私たちは次第にチャーリーに底知れぬ恐怖を感じるようになります。

種が脅かされる恐怖

チャーリーは知能明晰で身体能力も抜群です。ヒト以上の知能とチンパンジー以上の身体能力を有しています。

そんな彼を見ていると、恐怖を感じます。達観しているチャーリーがなんか怖いのです。おそらくこの恐怖の根底にあるのは、生存本能からくる恐怖なのではないかと思います。

本作のタイトルにもなっているダーウィンは、著書『種の起源』で「自然選択説」という考え方を唱えました。多様な種が生まれる中で、環境に適応した種が生き残っていくという進化論を主張し、当時の人たちの常識をひっくり返しました。

チャーリーは明らかに現代人よりも環境に適応しています。チャーリーを見ているときに感じる漠然とした恐怖は、「ヒトは自然淘汰されてしまうのではないか?」という本能的な恐怖なのではないかと思います。写実的な絵でリアリスティックに描かれているからこそ、読んでいる私たちの生存本能までもが反応してしまう気がします。

ヒトはどう対応する?

ダーウィンが『種の起源』で当時の常識を破壊したように、この作品は私たちの常識をひっくり返そうと襲い掛かってきます。

つぶらな瞳で問いかけてくるチャーリーに、私たちヒトはどんな回答をだすのか?『ダーウィン事変』は、日常生活では決して味わえない根源的な問いを私たちに突き付けてきます。

あなたもチャーリーと出会ってみてはいかがでしょう?

ダーウィン事変(1) (アフタヌーンコミックス)
うめざわしゅん/著

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©うめざわしゅん/講談社