2018年にデビュー30周年を迎えた松本大洋先生。新作『東京ヒゴロ』が6月発売のビッグコミックオリジナルで連載開始したばかり。さらに、2019年9月2日からは松本先生が描いた「ほぼ日手帳2020」の新カバーも販売スタート。「ぼくとマンガ」というタイトルのカバー絵では、帽子をかぶったぼくが手塚治虫先生の医療マンガ・ブラックジャックに読みふける姿が描かれている。今年は大洋ファンにとって嬉しい話題が盛りだくさん!
「女」を巡る緊迫の逃走劇
2000年に連載開始した『ナンバーファイブ』は、平和目的で創られた人間たちをテーマにした異色SF。国際平和隊幹部組織「虹組」のナンバー吾(ファイブ)がナンバー王(ワン)の居城を襲撃し、マトリョーシカという女を拉致して逃走。制圧に向かったナンバー苦(ナイン)を殺害して逃走をつづける吾。さらに強力な虹組メンバーが吾を追い詰めていく。
人造人間で構成された国際平和隊
世界の秩序を保つ平和組織「国際平和隊」は、研究者に創られた人間の集まり。その中でもとりわけ優秀な9人で構成される幹部組織が「虹組」と呼ばれる。若くしてナンバーワンの座に就いた王には、特殊な能力があった。見た目は子ども、中身は老人の双子の妖術師・ナンバー死(フォー)は、王のことをこう称する。
「この星をもう一度リセットできる唯一の存在さ」
ほぼ日手帳2020予告、今日は松本大洋さんの「ぼくとマンガ」です。繊細な作品は、セーターやランドセルの質感まで想像できるほど。絵の「ぼく」が熱心に読んでいるのは1冊のマンガ本。「ぼく」にとっての「マンガ」のように、この手帳が持つ人の大切な1冊になりますように。https://t.co/o7hCRdfhEG— ほぼ日手帳公式 (@hobonichi_techo) August 6, 2019
洗脳することで実現させる世界平和
王がもっているのは、周りの人間の感情や思考をすべて自分と同じものに塗り替えるほど強制的に洗脳する力。もしも世界に自分しかいなかったら。すべての人が自分と全く同じ考えで同じ感情を感じるとしたら、世界は平和になるだろうか。王の願いは子どもたちが笑い合い、皆で食事を楽しむような美しい平和な世界。しかし、王の能力は他者の自我を消滅させていく。
唯一の女性・マトリョーシカの役割とは
創られた人間はタネを残させないために、男性のみであった。マトリョーシカは、虹組メンバーを創った研究者・PAPAが創った唯一の女性。赤子の頃からすでにその天才性を発揮していた彼女は、ある時突然、いなくなってしまう。体だけを残して…。
本日のほぼ日の連載、「勝手に松本大洋ファン倶楽部」をご覧いただいたでしょうか?! こ、これはうれしい!!(山下) https://t.co/5pny1AsauH— TOBICHI (@tobichi_1101) June 28, 2019
自分の意志はどこにあるのか
平和を誰よりも願いながら、他者の思考を侵食し、争いの種となっていく王。王の周りに集まり王と同化していく人々の姿は、強力なインフルエンサーの意見やSNS上の無数の情報に影響され、自分の本当の意志がどこにあるのか不明瞭になっていく現代にも通じるものがある。また、最終8巻の表紙にはマトリョーシカと吾の子どもらしき姿が描かれており、創られた新人類の未来について思いを馳せたくなる。
Kindle版も出ているが、お勧めしたいのはやはり単行本。発色が美しいだけではなく、表紙にはエンボスもかかっていて、美麗な絵画のよう。ぜひお手元に!