ハイパーインフレーション

住吉九/著

『ハイパーインフレーション』「贋札」で世界を変える方法が面白い

「少年ジャンプ+」で連載されている『ハイパーインフレーション』がめちゃくちゃ面白いです。

2021年4月30日時点で12話まで公開されていますが、最新話が更新されるたびにTwitterでトレンド入りしており、盛り上がっています。

本記事では、そんな『ハイパーインフレーション』の面白いポイントについて解説します。本編のネタバレを含むため、一部はネタバレネタバレネタバレのように隠して記載します。

あらすじ

主人公のルークは、経済大国のヴィクトニア帝国の植民地で暮らすガブール人という民族の少年です。

彼は幼い頃にヴィクトニア帝国による奴隷狩りで両親を失っており、血の繋がった身内は姉のハルしかいません。

そんなルークたちは再び奴隷狩りに遭い、他の多くのガブール人たちとともに捕われてしまいます。

窮地に追い込まれたルークは、ガブール人に信仰されるガブール神によって「身体から贋札を生み出す能力」を与えられ、大切な姉を守るために金の力で戦うことを決意します。

キャラクターたち3つの勢力

現時点での物語には主に3つの勢力が登場します。彼らは時に互いに手を取り合い、時に騙し合いながらそれぞれの目的を達成するために奔走します。

ルーク

第一の勢力は、先述した主人公。後述する奴隷商人・グレシャムの計略によって奴隷狩りに遭い、唯一の家族である姉・ハルを売り飛ばされてしまいます。

彼の目的はハルを取り戻すことであり、そのためであればハルを売り飛ばした本人のグレシャムと協力することさえ厭いません。

まだ12歳でありながら非常に肝が据わっており、頭も切れるルークは、姉を取り戻すために贋札を生み出す能力を使って世界経済に大混乱を起こそうとします。

カネが欲しいッ‼︎ 世界を買えるカネを寄こせッ‼︎

奴隷商人グレシャム一派

第二の勢力は、ガブール人を奴隷にして大儲けするために、奴隷貿易が禁止されたにもかかわらず密貿易を企む悪徳商人・グレシャムと、彼が率いるヴィクトニア人たち。

グレシャムの目的はとにかく多くの金を手に入れることです。その欲望に際限はなく、金の匂いを嗅ぎつければ、一介のガブール人の少年でしかないルークの話にも耳を傾けます。

金以外には一切の執着を持たないため、グレシャムがもっとも儲かる選択であるならルークとの取り引きにも応じます。

非常時にこそ金儲けのチャンスチャンスゥ〜‼︎

ヴィクトニア政府のスパイ・レジャット

ルークたちと一緒に奴隷狩りに遭い、ともに反乱を企てる仲間として登場する男・レジャット

その正体は、ガブール人だけが持つ特別な「力」を探るためにルークたちの村へ潜入していたヴィクトニア帝国政府のスパイです。

レジャットはルークが特別な力を持つガブール人であると見抜き、彼を捕らえようとします。さらに、ルークが生み出した贋金から世界経済を守ることが目的です。

姉を取り戻すために贋札をばら撒く

ルークは姉を取り戻すためにある取り引きをし、身体から生み出した大量の贋札を使って大儲けを目指すことになります。その方法が面白いんです。

ルークが生み出せる贋札は一枚だけだと真札と区別がつかない精巧さですが、全て同じ識別番号が書かれているため、複数枚を同時に使うと贋札だとバレてしまうという欠点があります。

そのままでは取り引きに使えませんが、ルークは世界中の贋札を売りたい犯罪組織に贋札の卸売りをするという方法を考えます。

そもそも贋札は使うものではなく売るものなのだ

ルークの贋札は一枚で使えば贋札とバレる心配はなく、そもそも紙幣の識別番号を全てちゃんと確認する人などほとんどいないため、使い道はいくらでもあります。

つまり、贋札には大きな需要があるのです。しかし、ルークはただ「贋札を使いたい人」を相手取った小さい商売をしようとはしません。

「贋札を売りたい人」を相手に大量の贋札を売り捌くことで、さらなる大儲けを狙うのです。

行き着く先は世界恐慌

一方で、ルークが生み出す紙幣は全て識別番号が同じです。識別番号が一度知れ渡れば誰でも贋札と区別がつくようになり、使えなくなってしまいます。

つまり、贋札を大金に換えられるチャンスはたった一度きり。それをものにするため、ルークは贋札を貯めまくって、一度に世界中で贋札を売り捌くことを企てます。

そして、それを防ごうとするのがレジャットです。精巧な贋札が出回れば紙幣の信用は地に落ち、物価は暴騰します。

つまり、タイトル通りの「ハイパーインフレーション」が巻き起こり、世界恐慌が訪れてしまうわけです。

大金と世界経済の存亡をかけた贋札戦争

贋札がばら撒かれる前に識別番号を暴いて世界恐慌を防ごうとするレジャットと、贋札をばら撒くために世界中の犯罪組織とコネクションがあるグレシャムと組むルーク。

12歳の少年は姉を取り戻すというごく私的な目的のために、世界中を巻き込んだ贋札戦争へと身を投じるわけです。

シリアスな場面で急に現れるシュールなギャグ

筆者は本作の魅力が大きく二つあると考えています。

一つはここまでで説明した通り、「贋札」というピーキーな価値を持つ品をメインテーマに据えた頭脳戦が書かれること。

そしてもう一つは、シリアスな場面にもかかわらず思わず笑ってしまうキャラクター同士のシュールな掛け合いです。

例えば6〜7話でルークの特別な「力」を暴くために暗躍するレジャットの言動。

本来はルークの力を暴くことが目的なはずが、いつの間にか目的が「ルークの友達になること」にすり替わっており、これみよがしにルークへ「俺たち息ピッタリだな」と発言してみせます。

その後、ルークから抱きつかれると、思わず拳を握ってガッツポーズを取ります。

ルークの「力」を詳しく知るためにも早く友達になりたい…

また、11話でルークがレジャットをスパイではないかと疑うシーン。

ルークは過去のレジャットの怪しい言動を振り返っていくわけですが、スパイだと確信する決め手になるのが「ガブール人なのにヴィクトニア帝国の衣服を着こなしていること」。

着こなしが自然すぎる‼︎ 絶妙なこなれ感がある‼︎

キャラクターたちは至って真面目なわけですが、時折はさまれる独特のハイテンションなギャグ描写によって思わず笑わされてしまいます。

「少年ジャンプ+」で初回無料で読める

『ハイパーインフレーション』は「少年ジャンプ+」のアプリをダウンロードすれば全話初回無料で読むことができます。

これからますます面白くなりそうな『ハイパーインフレーション』、この機にぜひ読み始めましょう。

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住吉九/著