3行でわかるヒストリエ
どんなに科学が進化しようとも二度と辿り着けない舞台、それが過去。紀元前4世紀、古代ギリシャを舞台に描かれるエウメネスの波乱に満ちた生涯を描く!
その知と機転でやがてアレキサンダー大王の書記官にまでなるエウメネス。マンガを読み2300年以上前の世界にしばし思いを馳せよう
「寄生獣」で日本中を震撼させた岩明均が贈る歴史大作。第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、第16回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した、ズドンと読み応えがあるストーリー展開に要注目!
作品概要
岩明均(いわあきひとし)先生の『ヒストリエ』は、2003年より『月刊アフタヌーン』で連載開始された紀元前のマケドニア周辺を舞台にした歴史絵巻です。家族を殺された後、カルディアの実力者に引き取られて育ち、策謀によって奴隷の身分に落とされたエウメネスが、自身の才覚を活かして出世していく物語です。岩明先生がデビュー前から構想を温めていた作品です。
あらすじ
都市国家カルディアの実力者ヒエロニュモスの子エウメネスは、幼い頃から読書好きで聡明な子として育ちます。しかし、ある時、スキタイ人奴隷の逃亡をきっかけに、家人のヘカタイオスの策謀によってヒエロニュモスは暗殺。真実を暴こうとしたエウメネスでしたが、逆にスキタイ人であったことを明らかにされて奴隷の身分に落とされます。奴隷として売られたエウメネスは、流れ着いた村への侵攻を知略によって退け、マケドニアにたどり着いたのでした。
受賞歴
2010年 | 第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞 |
2012年4月 | 第16回手塚治虫文化賞マンガ大賞 |
作品の魅力
幼い頃からその才覚を発揮していたエウメネスの知略が素晴らしく、小さな村を一人の犠牲も出すことなく侵略者から救ったり、機転を利かせて軍を動かしたりするなど、戦術にとても引き込まれる作品です。
奴隷制度や民族ごとに異なる文化や考え方、服装や武器の違いなど、紀元前の物語とは思えないほど現代と近いところもあり、人間の変わらない部分と進歩した部分の両方を、読み解くことができます。
作者情報
岩明均(いわあきひとし)先生は、1960年東京都生まれ。 1985年に『ゴミの海』でデビュー。1993年に『寄生獣』で、第17回講談社漫画賞受賞されています。代表作は『寄生獣』『七夕の国』『ヘウレーカ』など。
年表
紀元前343年 | アリストテレス、ペルシア帝国からスパイ容疑で追われていたところ、エウメネスと遭遇。 |
紀元前343年 | アテネの植民都市カルディアが王国マケドニアの軍門にくだります。 カルディアの統治はその後、ヘカタイオスに。 |
紀元前340年 | マケドニア王フィリッポスは、トラキア東部の都市ペリントスとビザンティオンに攻撃目標を定めます。 この戦いでは、当時としては最先端の攻城兵器が投入されました。 ビザンティオン沖での海戦はアテネ側の勝利。 マケドニア軍は全軍撤退となりました。 |
紀元前339年 | アタイアスの要請に従い北に進軍しますが、約束を反故にされたためにスキタイとの戦争に発展。 マケドニア軍が圧勝します。 |
紀元前339年 | スキタイからの帰路を襲われ、マケドニアはトリバロイとの戦闘に。 これによりフィリッポスは太ももに大けが、マケドニア軍も大損害を被ります。 |
紀元前338年 | ギリシア中央部のカイロネイアでマケドニア軍とアテネ・テーベ、その他同盟都市連合軍がぶつかります。 アテネ軍の指揮官はカレス。デモステネスは一兵卒として参加。 マケドニアはパルメニオン将軍のほか、アレクサンドロスが副将として参加。 事前の工作が功を奏し、フォーキオンは戦いには不参加。 戦はマケドニア軍の完全勝利に終わります。 |
紀元前337年 | フィリッポス王とエウリュディケの婚礼が秋に行われることが決定。 |
登場人物紹介
エウメネス
内陸部を移動中だったヒエロニュモス率いる隊商部隊が遭遇したスキタイの家族の中にいた子どもで、のちにヒエロニュモスに引き取られ、カルディア市で育ちます。実の母親はスキタイ人。ゼラルコスに買い取られてオルビアに送られる船が難破し、パフラゴニアに流れ着きます。
マケドニアでフィリッポス王により書記官に任命され、アテネ・テーベ戦の後、「王の左腕」としてパルメニオン将軍の後続候補となりました。
幼少期
エウメネスの発明品:足漕ぎボート、おもちゃ、鐙(あぶみ)、マケドニア式の将棋
アリストテレス
哲学者。ペルシア帝国からスパイ容疑で追われ、のちにアンティパトロスの食客に。
バルシネ
ペルシア帝国トロイアス州総督の妻。20歳。
ヒエロニュモス
エウメネスを育てたカルディアの実力者とその息子の名前。エウメネスの父と兄が同名です。
テレシラ
ヒエロニュモスの妻でエウメネスを育てた母。自分の墓にエウメネスの姿を刻むことを希望しました。
ペリアラ
エウメネスの想い人。テッサロス車輪という店に嫁ぎました。
トラクス
スキタイ人で高利貸しのテオゲイトンの奴隷。遊牧民族スキタイは世界で最も勇猛で誇り高く残忍。
カロン / メランティオス
ヒエロニュモス家の奴隷。エウメネスの母に隊が襲われた際、エウメネスを人質にして母の戦闘力を奪いました。エウメネスが売られて出て行った2~3年後、貯めていた小銭で自分を買い取って自由の身に。のちにピレウスで妻をめとり、フォーキオンの友人・メランティオスとしてエウメネスと再会します。エウメネスのことを唯一の息子のように思っていました。
ヘカタイオス
奸計によってヒエロニュモスを殺害し、エウメネスの生い立ちを明らかにしました。
ゼラルコス
1タラントンという高額でエウメネスを買い取った人物。オルビア市民。オルビアに戻る途中で奴隷たちの反乱に遭い、拷問の上に処刑されます。
サテュラ
エウメネスが流れ着いたパフラゴニアの村にいた女性で、許嫁がいます。父は先代の村長・ガルド。ダイマコスが村を襲ったために婚約は解消されました。エウメネスと心を通わせますが、村とティオス市の和議のために、フィレタイロス家の次男テレマコスに嫁ぐことに。
ダイマコス
サデュラの許嫁でティオス市の第一実力者の息子で野心家。個人的に傭兵を指揮し、パフラゴニアの村に攻め込みます。エウメネスの策略にハマって。パフラゴニアの村内で執事と共に戦死。
フィレタイロス
ダイマコスの父で、サテュラの父と友人関係にあります。重い病に伏せていましたが、ダイマコスの行動を詫びにパフラゴニアの村を訪れます。
テレマコス
フィレタイロス家の次男で温和な性格。エウメネスの策略でダイマコスが破れた後、サテュラを妻として迎え入れます。
フィリッポス(アンティゴノス)
マケドニアの国王。エウメネスと初めて会った時には、ペリントスの商人アンティゴノスと名乗っていました。即位後わずか1年の間に西方の山岳地域を征服・併合するほど知略に長けた人物。メトネ市の攻囲戦で顔面に矢を受け、右目を失います。第2王妃はイリュリア王族の娘アウダタ。
オリュンピアス
フィリッポスの妻で王妃。モロッシアの出身。男を寝所に呼び込み、不貞を働いています。エウリュディケの殺害を画策し、逆に首都ペラを追われることに。実弟はエペイロス王。
アリダイオス
アンティゴノスの息子。エウメネスにおもちゃを作ってもらいました。
アレクサンドロス
顔に蛇のような模様があります。アリダイオスの異母兄。ヘファイスティオンが出ている時にはアレクサンドロスは眠っています。特殊な才能があり、少し先の未来が見えます。アテネ・テーベ戦には副将として参加し、裁量を発揮します。
ヘファイスティオン
アレクサンドロスの別人格。蛇が大嫌いなため、表に出ている時には顔の蛇の模様を化粧で消しています。王妃オリュンピアスによって生み出されました。
パルメニオン
マケドニアの将軍。息子はフィロータス。
アンティパトロス
マケドニアの元老。息子はカサンドロス。
アレクサンドロス
オリュンピアスの実弟
エウリュディケ
アッタロス将軍の姪。エウメネスと恋仲になるも、フィリッポス王の王妃として迎えられることになります。
カレス
アテネの英雄。
フォーキオン
アテネの弁論家で将軍。温和な性格で60歳過ぎ。将軍には立候補ではなく推薦によりなったが、指揮官としても優秀。ペリントスのマケドニア艦隊を殲滅します。アテネの艦隊には帆や帆柱がなく、機動性があります。
デモステネス
最も優秀な弁論家と呼ばれており、アテネの実質的指導者。マケドニアを倒すためにはペルシアとも組む人物。
アタイアス
スキタイ・アタイアスの王国の王。先妻との間の子を戦で亡くした後、パルメニオンの娘を娶ります。隣国イストリアとの戦争に疲弊し、マケドニア王フィリッポスに、援軍と引き換えに王位を譲ることを進言。
アッタロス将軍
マケドニアの名門貴族でトリバロイとの戦で気を失っている間に、エウメネスがその名前を騙って軍を動かし、王を救いました。
パウサニアス
フィリッポス王の子、アレクサンドロスに顔が酷似した青年。オレスティスの出身。ライオンに襲われて顔に大きな傷を負います。
ニカンドラ
王妃オリュンピアスに付き添って王宮に入った女官。モロッシアの出身。エウリュディケに毒を持った疑いで拷問を受けます。
豆知識
同じく紀元前を舞台にした歴史絵巻『ヘウレーカ』では、数学者アルキメデスと彼の生み出した兵器が数多く登場します。『ヒストリエ』よりも70年くらい後の古代ローマが舞台になっていますが、時代が近いので、『ヒストリエ』と合わせて読むと、当時の最先端技術の変遷が感じられます。