ヒラエスは旅路の果て

鎌谷悠希 / 著

『ヒラエスは旅路の果て』死との向きあい方を探すための旅路

死というものは誰に対しても必ず訪れるもの。とはいえ身近な人の死に立ちあったときには、生まれくる様々な感情をどう整理していいかわからない状態におちいることもあるでしょう。

そんな整理のつかない感情を、アクの強いキャラクターたちとの旅を通じて少しずつ昇華していく。そうやって死に向かいあう様を、ときにはコミカルに、ときには真面目に描いたマンガがヒラエスは旅路の果てです。

凸凹トリオがそれぞれの死の形を探求する

物語は、主人公鹿嶋ミカが、友人の後追いのためにトラックに飛び込もうとするシーンからはじまります。そこをたまたま通りがかかったのが、死ぬことができない男と、自分の死期を悟った神様という個性的な二人。

鹿嶋ミカは死んだ友人に出会うため。男は死ぬ方法を知るため。神様は自分の寿命をまっとうするため。目的はそれぞれですが、三人は一緒に島根にある「黄泉比良坂(よもつひらさか)」を目指します。

死という重いテーマを扱っていますが、基本はポジティブでコミカル。珍道中といってもいいようなにぎやかさです。明るい性格のキャラクターたちのなせる技と言っていいでしょう。

情報量が多いのに読みやすい圧巻の画力

情報量が多くなれば普通はそれだけ読みづらくなるものです。しかし鎌谷悠希先生の絵は、情報量が多くても紙面の奥の方から手前まで計算しつくされており、とても読みやすいのが特徴。

浮かんだイメージがそのまま紙面に描きだされているようで、一つひとつのコマにとらわれることもなく大胆で自由。自分自身がその場にいるような臨場感があり、紙面から音やにおいが漂ってくるような気さえします。そんなこの絵の力を感じてほしいなと思います。

「ヒラエス」の意味とは

調べたところ、「ヒラエス」はウェールズ語の「HIRAESH」から来ているのではないかと考えられます。翻訳できない世界の言葉として有名で、帰ることができない場所への郷愁と哀切の気持ち。そして過去に失った場所や、永遠に存在しない場所に対する気持ちをあらわす言葉です。

まさに死と向き合うことがテーマであるこの作品にピッタリの言葉でしょう。そして軽々しく扱うようなテーマではないことからは、鎌谷悠希先生のこの作品に対する強い心意気を感じることができると思います。ぜひ一度、この心意気を堪能してください。

ヒラエスは旅路の果て(1) (モーニングコミックス)
鎌谷悠希/著