『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』は、病変部位の状態から病気の診断をする病理医・岸を中心とした医療現場のリアリティを描くヒューマンドラマです。
2019年に第22回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門で審査委員会推薦作品に選ばれ、2018年には第42回講談社漫画賞・一般部門を受賞。詳細な取材をもとに描かれていることもあり、非常に評価の高い作品です!
病理医ってそもそも何する人?
病理医って言われてもなかなかピンとこないですよね。病理医は、肉眼で病気になってる部位を診たり、顕微鏡で細胞を検査したりすることで、治療に関わる診断を下す専門の医者のことです。
例えば、皮膚にできものができたとします。それが腫瘍なのか、単に炎症みたいなもので腫れているのかは、見ただけでは分かりません。また、腫瘍だったとしても、腫瘍Aと腫瘍B、あるいはその悪性度によって治療法がぜんぜん違います。
病理医の「これは腫瘍Aでした!」という診断によって「それなら治療法はAAだ!」というのが決まります。臨床のお医者さんたちは、この診断をもとに治療を開始するので、これが間違ってしまうと、全く効果がない治療を続けてしまうばかりか、モノによっては身体に害を及ぼしてしまいます。
診断が出なければ治療が進められません。そのため、病理医の存在は臨床医の治療の道を示す「航海図」なんですね。
人の命を左右する診断の重さ
しかし、非常に診断が難しいケースも多数存在します。自分の診断で患者さんの命が脅かされることもありうる。そのプレッシャーが岸にのしかかります。
「他人の命みたいなもん 医者はてめえで責任取れねえんだからさ 不安と戦ってなきゃならない」
患者のことを想うからこその軋轢
患者さんと直接話をする臨床医は、ダイレクトにその気持ちを感じ取ります。はっきりした診断が出ないまま、体に負担のかかる検査を何度も勧めるのは、臨床医にとっても辛いのです。「こんなに何度も検査してるのに、まだ分からないの」患者さんの心の声が痛いほど分かるから。
しかし、はっきりしない所見で「航海図」としての診断を出してしまえば、治療の結果がすべて悪い方向に向かってしまうこともあります。だから病理医は、どれだけプレッシャーをかけられても安易な診断は出せません。
医療というチームの中でお互いの立場がぶつかるリアリティに、現場の緊迫感が伝わってきます。
専門用語も多いですが、医療関係者には共感できることも多いはず。医療マンガというと臨床医、特に外科医が主人公のことが多いですが、本作はこれまでにない切り口で医療全体を捉えた作品です。医療業種への就職を考える若者にも、ぜひ読んでもらいたい一冊!