フールナイト

安田佳澄/著

『フールナイト』植物として生きると決めた人間、衝撃の世界観

フールナイト』は新人・安田佳澄先生による作品です。2020年からビッグコミックスペリオール(小学館)で連載中であり、第1集が2021年3月30日に発売されています。

第1集では押見修造先生もコメントを寄せており、注目が集まっています。

光の差さない世界で、人々はそれぞれの人生をどう生きるのか。

あらすじ

厚い雲が日の光を遮ってから100年が経過した世界。冬と夜ばかりが続き植物は枯れ、地球上の酸素は枯渇していきました。

人々は「転花」という技術に人類の未来を託します。「転花」とは、死期の近い人間の体に植物の種を植え込み人を植物へと変える技術のことです。転花したモノたち・通称「霊花」が微弱な光で光合成を行い酸素を排出することで、それ以外の人間たちは生き延びています。

「転花」手術を受けた人々は国から1,000万円を受け取ることができ、完全に植物になるまでの余生を自由に生きることができます。自らの人生を「人間」として全うするか、植物になることと引き換えに「金」を手に入れ、完全に植物になるまでの最後の2年間に意味を持たせるのかを選択することができるのです。

主人公・トーシローは、そんな世界で病気の母と最底辺の貧乏な暮らしをしていました。一発逆転なんて決して訪れない、ただ我慢して生きていくだけの生活。限界が近づいたことを悟ったある日、トーシローはある決断をします。

その結果、トーシローにある能力が目覚めます。彼の人生は、決断とこの能力をきっかけに少しずつだが確かに変わり始めます。

唯一無二、衝撃の世界観

”光が差さない世界"というキーワードから、植物が育たない、酸素が足りなくなる、では人間を植物に変化させて光合成をさせよう、そして植物になるのは自分の意思で、というたたみかけるような世界観にまず衝撃を受けました。

そしてその世界観に負けない描写が相乗効果でその不気味さを際立たせます。日が差さない世界は、暗い。明けない夜の閉塞感が、画面からひしひしと伝わってきます。

目があった場所にはそれぞれ太い枝がニョキっと生え、植物化した人間が一体化した壁。人間が体から植物を生やし風景の一部と化している絵はまさに「異様」だが、その横を当たり前に歩く小学生時代の主人公の描写からこの物語は始まります。

一度見たら忘れられない未知の世界に足を踏み入れられる作品です。

この世界に生きる、人間のリアル

斬新な世界観で描かれるこの物語ですが、その登場人物たちの声はリアルに響いて聞こえます。

学歴、借金、搾取、病気、親からの暴力、この世界で生きる人々も悩みを抱えて生きています。虐げられた彼らにとってこれまでと変わらない毎日を生きながらえることは、辛く苦しいと感じることだったのです。

生きてて••• 楽しいことなんかひとつもない。

引用元:安田佳澄・著『フールナイト』小学館

残りの人間としての生を自ら差し出し、受け取った1,000万円で人々は何を手に入れるのか、あるいは手に入れたのか。どんな考えをもって「転花」を決めたのか。「霊花」となった人の数だけ、自分の残りの人生を天秤にかけた選択があるのです。

閉塞感のある世界を描きながらも、ページを捲る手は止まらず、その読み心地にはどこか軽快さをも覚えます。 言葉の選び方や命の宿ったキャラクターなどが、そうさせるのだと思います。

まずは第1話をこちらから読んでみてください。

『フールナイト』の新刊情報等は作者公式Twitter作品公式Twitterから要チェックです。

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フールナイト(1) (ビッグコミックス)
安田佳澄/著