ロスト・ラッド・ロンドン

シマ・シンヤ / 著

『ロスト・ラッド・ロンドン』容疑者の大学生と傷だらけの中年警察官は真犯人を追う 

ある日突然、殺人事件の容疑者になったことはありますか? おそらくほとんどの人にそんな経験はないでしょう。しかし『ロスト・ラッド・ロンドン』では、そんな稀有な経験をすることになった大学生が主人公。

誰が主人公をおとしいれたのかはまったくわかりません。その上、彼の味方になってくれたのは、いわくありげな中年の警察官ひとりだけ。彼らはそんな絶望的な状況のなか、身の潔白をはらすため真犯人をさがし奔走します。

序盤から目が離せない精巧なクライムサスペンス

ある日、ロンドン市長が地下鉄で殺されます。遺体が見つかったのと同じ地下鉄を使っていた主人公アルは、帰宅後自分の上着のポケットに身に覚えのない、血のついたナイフが入っているのを見つけてしまいます。

動揺がおさまらないアルのもとに、はかったかのように警察官が訪れてきます。物語序盤からのこの急展開には、驚きとともに目が離せなくなります。もう彼の行く末が気になって仕方がありません。

凸凹コンビが織りなすバディものとしての魅力

アルのもとを訪れてきたのは、顔には絆創膏、右手に松葉づえ、左手はギブス、という満身創痍の警察官エリス。急にあらわれたその男に、アルは自分はやっていないという事実にくわえ、血まみれのナイフがあったことを正直に話します。エリスを見た瞬間に「そうするのが正しいような気がした」のです。

打ち明けられたエリスは、アルの言葉をそのまま信じて受けいれ、ともに真犯人を探すことを約束します。「そうするのが正しい気がしているんだ」とアルの言葉をなぞる姿には、その瞬間、人種や年齢を超えた絆が生まれたことを感じさせます。

ふたりで真犯人を見つけるために行動するといっても、立場は容疑者と警察官という相反するもの。容疑者として徐々に追いつめられるアル。それを陰ながら擁護するエリス。どんどん先細っていく綱渡りのような駆けひきがくり広げられていくことになるのです。

本棚に置いておきたくなるスタイリッシュなデザイン

登場人物や背景は、一風かわった無骨で角ばった線で描かれています。その見慣れないデザインは、舞台が海外、ロンドンであるという臨場感を一層強くかりたてます。

本作の装丁も大きな魅力のひとつ。1巻では青と黄、2巻では水色と赤という2色を基調として描かれており、本という域を超えてコレクションしておきたい、おしゃれなインテリアのようです。

最終巻となる単行本第3巻は2021年6月11日に発売予定です。その結末を見届けるため準備するには絶好のタイミングでしょう。内容のすばらしさもさることながら、お気に入りの小物としても『ロスト・ラッド・ロンドン』をいかがでしょうか。

ロスト・ラッド・ロンドン (全2巻) Kindle版