傾国の仕立て屋 ローズ・ベルタン

磯見仁月 / 著

『傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン』マリー・アントワネット専属ファッションデザイナーの成り上がり物語

『傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン』は月刊コミックバンチで連載されている、磯見仁月先生の作品です。

舞台は18世紀後半、革命前夜のフランス。

その主要人物であるマリー・アントワネットの寵愛を受けたファッションデザイナーの祖マリー・ジャンヌ・ベルタンがいかにして成り上がっていったかを描いています。

当時の厳しい労働環境を己の実力で生き抜いたベルタンのかっこよさと、新たなフランス革命観が本作の魅力です!

ベルタンのストイックなかっこよさ

本作の主人公マリー・ジャンヌ・ベルタンは元々フランスの田舎出身で、家柄も良いわけではありません。

しかし自分の実力だけを信じてファッション最先端の都市パリへ乗り込み、「傾国の仕立て屋」になるという野望を実現するために奔走します。

パリは当時でも世界有数の都市で、社会的地位が高くなかった女性も職を持ち、稼ぐことのできる場所でした。

しかし、楽な環境だった訳ではありません。

仕立て屋としての実力ではなく美貌で客を引くことが求められ、また雇用を切られやすいため夢を諦めて娼婦になることもあるなど、厳しい社会でした。

ベルタンはそんな社会でも自分の実力だけで相手をねじ伏せようと(=自分の作った服で満足させようと)します。

その始まりが、パリ一番のお針子マリー・ジャンヌ・べキューの服を作ることでした。

べキューは実力以上に美貌でのし上がってきたタイプ。彼女は突然ベルタンの勤務先を訪れ、この店にはろくな品物がない、(ベルタンを見て)「だっさ」とつぶやくなど挑発を繰り返します。

そんな彼女に対し、実力だけを信じるベルタンは「私は女で服は売らないわ」と言い返し、彼女を満足させられるような衣服を作ると挑戦状を叩きつけるのでした。

ベルタンは娼婦の集まる路地へパリの美女が着る衣服を観察に行く、べキューの仕事先を監視して誰を喜ばせるための服がほしいのか分析するなどあらゆる策を凝らしていきます。

監視の最中、べキューが射止めたい相手、デュ・バリー子爵は日頃彼女が着るような露出度の高い服を嫌っているということがわかり、「色気を隠してなおかつべキューの美貌を目立たせなければならない」というヒントを得ました。

ヒントと協力者の男性の言葉からベルタンは一着の服を作ります。それは一見すると黒く地味な服ですが、光の加減によって肌が透けて見える…という一品でした。

「淑女の夜遊び風」と名付けられたこの服はデュ・バリー子爵にも気に入られ、彼女は後のデュ・バリー婦人としてフランス王政にも深く関わっていくことになるのでした。

この出来事をきっかけにベルタンはパリきっての高級店トレ・ガランに所属することになり、出世街道を駆け上がっていきます。

自身の実力一本で理不尽をねじふせるベルタンのストイックなかっこよさ、どんなお客様でも満足させる職人としての誇り高さには爽快感があります!

教科書ではわからなかった新たなフランス史観

また、本作の魅力はベルタンのかっこよさだけではありません。

本作にはフランス革命の歴史を新たな視点で読み解く様々な要素が散りばめられています。その一つが、彼女が後に仕えることになるマリー・アントワネットです。

「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」という言葉がひとり歩きしてわがままな悪女のイメージが強くなってしまったマリー・アントワネットですが、本作ではまだオーストリアにいた幼少期から登場し、天真爛漫なかわいらしさを見せます。

幼いながらにフランスに嫁ぐために努力を重ね、家族との別れで涙を流す彼女の姿を見ていると、今まで学んできたマリー・アントワネット像が崩れていくのを感じました。

フランス革命は革命を起こした側に視点をあてて学ばれることが多いように感じますが、革命を起こされた側にもそれぞれのドラマがあるということが本作からわかり、歴史を多様な側面で見ることの大切さを教えてくれます。

磯見仁月先生の知識量も凄まじく、単行本のおまけで語られる歴史解説を読むと一層フランス史を楽しく学ぶことができます!

近代フランス史を楽しめるようになる作品

『傾国の仕立て屋ローズ・ベルタン』を読むと、フランス革命という大きな出来事の裏で激動の時代を生き抜いた人々の想いを感じることができます。

ベルタンをはじめとした登場人物のかっこいい生き様を見れば、歴史が苦手だった人でもフランス史を楽しめるようになること間違いなしです!

最新4巻は2021年2月9日(火)発売!

フランスにマリー・アントワネットがやってきて、物語は一層面白くなっていきます!!

1話目は先生のTwitterからでも読むことができます。

マンガで知る煌びやだった歴史

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