「週刊少年ジャンプ」で話題沸騰中のギャグ作品『僕とロボコ』。人を傷つけない優しいギャグと、マンガ愛に溢れるパロディが人気です。
「次にくる漫画大賞 2021」でも13位にランクインし、注目を集める本作の作者・宮崎周平先生と、担当編集・杉田卓さんにインタビューして、面白さの秘密を聞きました。
『僕とロボコ』©宮崎周平/集英社
美少女メイドロボ「OM(オーダーメイド)」が、一家に一台普及する時代。平凡な小学生、平凡人(たいらボンド)は念願の美少女メイドロボに心躍らせていた。しかし、家に来たのは想定外に規格外なOMで!? 僕とロボコの愉快な誤奉仕メイド物語、開幕!!
記事に登場する人
宮崎周平
2012年第77回赤塚賞にて『むこうみず君』で佳作受賞。2019年1月より『約束のネバーランド』(原作:白井カイウ/作画:出水ぽすか)のスピンオフギャグ漫画『お約束のネバーランド』を「少年ジャンプ+」で連載。『週刊少年ジャンプ』2020年31号(2020年7月6日発売)から『僕とロボコ』を連載中。嫌いな食べ物はきゅうり、好きな食べ物はお寿司。
杉田卓
1989年生まれ、東京都出身。2012年に集英社に入社。「週刊少年ジャンプ」編集部にて『トリコ』『ONEPIECE』『約束のネバーランド』などを担当。現在は『僕とロボコ』の担当編集。
「週刊少年ジャンプ」史上最多⁉︎積み上げたボツネームの山
ーー今年7月には連載1周年を迎えた『僕とロボコ』、「週刊少年ジャンプ」読者からすごく愛されている作品だと思います。
ありがとうございます。AIチャットボットをはじめ、楽しい1周年企画をたくさん用意してもらって驚いています。
実はこの後もいろいろな企画が控えているんですけど、そんなことをやっていただける規模の作品なのかどうか…(笑)。
「平ロボコ」AI化プロジェクトでは、ロボコが自由に会話できるリアルAIになってLINEに登場!この記事の最下部からアクセスして、ロボコとLINEでおしゃべりしてみよう。©宮崎周平/集英社
嬉しい反面、ちょっと案件が強すぎてプレッシャーを感じますよね。
いろんな企業の中の一部のロボコ好きの方の気持ちがフライングしているんじゃないかと焦っています(笑)。
でも、やっていただくからには頑張っていきたいと思ってますので、ぜひ今後の大型企画もご期待ください!
なんとか楽しい感じにできれば嬉しいですね。
ーーこの機会に、これまでの宮崎先生の歩みを振り返らせてください。
最初、人生で初めて描いたマンガが赤塚賞の佳作を受賞したんですよね。
『むこうみず君』っていうギャグの読み切りだったんですけど、それともう1本描いたマンガが1ヶ月のうちにどちらも「週刊少年ジャンプ」に掲載されて。
ーーえ、めちゃくちゃすごくないですか?
それですぐ連載が決まったらかっこよかったんだけど、全然ダメだったんですよ。
年に5回ある連載会議の全部にネームを出すんですけど、全部落ちる。
それが6〜7年くらい続きました。30回近く落選したと思います。
その間もいくつか短期集中連載はしていたんですけど、本誌での長期連載ネームはまったく通らなくて。
「週刊少年ジャンプ」の本誌連載会議史上最多と言えるくらいボツネームを出しましたね。
途中から編集部でも風物詩みたいになっちゃって、「また宮崎周平か」「この絵とこの企画じゃなあ」って落とされ続けて。
読み切りや短期集中連載では掲載してもらえるんだけど、連載はずっとダメっていうね。
オリジナルの連載まで6〜7年かかっていますけど、常に何かしら誌面に掲載されてきたという意味では特殊な作家さんでしたね。
普通、何年も連載できない作家さんは悩んで描けない時期をはさんだりするんですが、宮崎さんはずっと描き続けられるんですよね。
ーーどれくらいのペースで描いていたんですか?
毎週1本は描いて杉田さんに見せていましたね。多いときは週2本とか。
本当に多作なんですよね。「とりあえず描いてみるか」でネームを描けちゃう。
打ち合わせの数は僕の担当作家でも最多だと思います。「宮崎さんは連載でもしてるのか」ってくらい(笑)。
打ち合わせしながらごはんを食べることもあるのですが、あまりに頻度が高いので、経理から「本当にこの宮崎という人と週2回も打ち合わせをしているのか?」と怪しまれたことがあります。
ごちそうさまでした(笑)。
ーーそこから、『僕とロボコ』はどのように生まれたんでしょうか?
『僕とロボコ』 ©宮崎周平/集英社
もともと僕は仲のいい友だちグループが楽しそうにしているマンガが好きで、赤塚賞に出した『むこうみず君』もそういう感じのマンガだったんです。
さらに、僕のマンガによく登場させていた「珍子ちゃん」っていう、ロボコのプロトタイプになったお気に入りのキャラがいて。
見た目も中身もロボコみたいな感じで、好き勝手に面倒くさいことばかり言うようなキャラで、連載ネームによく登場させていたんですよね。
その2つの好きな要素を掛け合わせて生まれたのが『僕とロボコ』なんです。
『隣の席の珍子ちゃん』©宮崎周平/集英社
ただ毎回、珍子ちゃんに頼りすぎて、編集部から「珍子ちゃん禁止令」が出ちゃったんですよね。
「次、珍子ちゃんを連載ネームに出したら問答無用で落とす」って言われて。
禁止されたから珍子ちゃん抜きのネームを描いてみたりしたんですけど、やっぱり僕のマンガは珍子ちゃんを出すのが一番面白くなるんですよ。
だから珍子ちゃんをベースに、「好き勝手するだけだとうざいけど、主人公を助けるための行動ならうざくないんじゃないか」「じゃあメイドにしてみるか」みたいに杉田さんと話して、ロボコが生まれたんです。
ーーそんな経緯だったんですね。
ロボコをザ・美少女という感じのビジュアルにする案もあったんですけど、ただかわいいだけのキャラだとどうしても筆が乗らない。
ゆりやんレトリィバァさんや渡辺直美さん、フワちゃんみたいな面白くてかわいくて、幅広い層から人気を集める人がたくさん出てきている時代だと思うんですが、ああいう好かれ方を目指せるといいなと。
スピンオフを描いたからこそ身についた読者視点
ーー連載会議に落ち続けた宮崎先生ですが、『僕とロボコ』はなぜうまくいったと思いますか?
『お約束のネバーランド』(※)を連載させてもらえたおかげだと考えています。あの作品を通じて本当に成長させてもらいました。
それまで杉田さんにたくさんアドバイスされてきたけど、まあちゃんと分かっていなかったんですよね。
※『約束のネバーランド』(原作:白井カイウ、作画:出水ぽすか)のスピンオフギャグ作品。
『お約束のネバーランド』©宮崎周平・白井カイウ・出水ぽすか/集英社
絵とかかなり『お約束』を経てうまくなりましたよね。
それまで6〜7年間くらい「絵を練習してください」って言い続けたのに、ずっと無視して釣りをしてましたが(笑)。
他の先生のキャラを借りてスピンオフをやるんだから、最低限はちゃんと絵が描けなきゃダメだと思うようになって、初めてちゃんと絵の練習をしました。
『約束のネバーランド』のページを丸ごと模写してみたり、キャラをそのまま描いてみたり。
原稿を描くときも原作のシーンと同じように描こうとしたりして、いい練習になりました。
ーー『呪術廻戦』とコラボしたPVではアニメの原画と動画にも挑戦されて。あれ、すごいですよね。
あれはね、すごいですよね。
自画自賛しちゃうっていう(笑)。
『呪術廻戦』は本当に始まったときからずっと大ファンで。
連載開始すぐから「この作家さんはすごい」って言って、打ち合わせ中もよく『呪術廻戦』の話をしていましたよね。
また、この企画に関しては、本当にコラボのお許しをいただいた芥見先生や片山編集、そしてアニメ委員会の皆様に感謝しかありません!
ーー週刊連載と並行してアニメを描くって、相当大変だったんじゃないでしょうか。
正月休みを返上して、その時間で描かせてもらって。あれもいい絵の勉強になりました。
アニメだと頭身とかをちゃんと意識して描かないといけないから勝手が違って大変でしたが、楽しかったです。
あと、絵だけじゃなくてキャラの見え方への意識も『お約束のネバーランド』前後で大きく変わりましたね。
ーーどう変わったんですか?
キャラを好いてもらった上でギャグとして成立させることを、初めてしっかり考えるようになったんです。
人のキャラを借りてギャグを描くとなると、嫌な印象を持たせたりひどい行為をさせたりできないじゃないですか。
それまでは読者が自分のキャラにどういう印象を持つのか、あまり考えていなかったんですよね。
きっかけを与えてくれた(『約束のネバーランド』作者の)師匠二人には、ものすごい感謝しています。
一応補足しておくと、宮崎先生はお二人に師事したことはないのですが師匠と呼んで慕っていて、弟子と自称されております。非公認の師弟関係です(笑)。
ーーその点、『僕とロボコ』ではキャラが全員いいやつばかりで、ものすごく好感を持てる気がします。
最初は見るからにいじめっ子っぽいキャラが実はすごく優しいっていう逆張りのギャグだったんですけどね。
『僕とロボコ』の読者の方たちは、そういう雰囲気を好きになってくれたんじゃないかと思っています。
『僕とロボコ』 ©宮崎周平/集英社
ーーガチゴリラもモツオも、本当に友だちになりたいと思えるキャラですよね。
昔、女の子に振られると巨大化しちゃう男の子が主人公の『失恋獣ゴジマ』っていう連載ネームを描いたんですよ。
街をめちゃくちゃに破壊するからすごく迷惑なんだけど、親友たちは「しょうがねえな」って優しく接してくれるっていうギャグを描いて。
その企画はボツになったのですが、そのとき、仲のいい友だちグループは描いていて楽しいし、面白いギャグにもできるなと改めて思ったんです。
『むこうみず君』のときからずっとですが、やっぱりワイワイしているのが好きなんだと思います。
「ギャグとして面白いだけでは、読者は付いてきてくれない」
ーー『僕とロボコ』のギャグは、優しくて令和っぽい笑いと紹介されたりしていますよね。
毎話、気持ちいい読後感を目指して描いています。マンガを読む際のストレスをできるだけ減らしたいんですよね。
あんなにロボコのパンツを使っておいてなんですが、あまり下ネタもやらないようにしています。
『僕とロボコ』©宮崎周平/集英社
ーー言われてみれば確かに。
昔、おじさんが男の子にひどいことばかり言うギャグを描いたことがあるんですよ。
『男はつらいよ』の寅さんってすごくいいことを言うんですけど、それが全然いいことを言わなかったら面白いなと思って。
でも、そういうギャグはやっぱり印象が悪いし、読者が付いてきてくれないんです。
やっぱり単に面白いだけのものって、好きにはなってもらえないんですよね。
ギャグとして面白くても、ちゃんとキャラを好きになってもらえないと、来週も会いたいとは思ってもらえない。
いまはそういう意識でマンガを描いています。それに気づくまで、だいぶかかってしまいましたけど。
ーーやっぱり時代の変化みたいなものも意識していますか?
かなり意識しています。ここ何年かくらいで、世の中の人たちの物事への認識がすごく変わってきていますよね。
以前、東野幸治さんがお笑いもアップデートしないといけないと話していたのが印象的で。
「週刊少年ジャンプ」読者の認識も、どんどん変わっていっていると思うんです。
ーー数年前のマンガを読んでいると、ストーリーはすごく面白いんだけどふとしたキャラ同士のやり取りがキツくて、読めなくなっちゃったりするんですよね…。
連載は『僕とロボコ』が初めてだけど、宮崎さんは6〜7年間ずっとマンガを誌面に載せてきたから、自分の作品の受け取られ方の変化がすごく見えているんだと思います。
かつてはテレビ番組などでも「容姿」をいじることで笑いが取れていたんですよね。当たり前のことだけど、容姿をいじるのはダメです。
そもそも人を落とす笑いってレベルが低いし、誰でもできる。
若い人たちのほうがそういう感覚って鋭いし、いまの時代に作品を発表するなら、当たり前に自分の感覚もアップデートしていかないといけないと思っています。
ーーあと『僕とロボコ』のギャグといえば、パロディですよね。
『僕とロボコ』©宮崎周平/集英社
パロディが好きなのは、ボンドたちに自己投影しているからかもしれないですね。
僕自身、とにかくマンガが好きで、たくさん読んできたんですよ。
子どもの頃は『DRAGON BALL』の話をしたり、『はじめの一歩』ごっこをしたりとか。
だから僕が仲のいい友だちグループの話を描くとなると、マンガをネタにした会話ばかりになるのが自然なんです。
たまにやりすぎちゃうけど。
…たまに?
パロディさせていただいている作家さんや出版社さんには、申し訳なさと感謝の二点に尽きます。
記事にちゃんと書いておいてください、「いつでも靴とか舐めに行きます」って。
ーー本編によれば、杉田さんがしっかり担当さんに許可取りをされているらしいですが…。
『僕とロボコ』©宮崎周平/集英社
そうですね。先生方や担当編集さんのご厚意に甘えて、許諾をいただいています。
ーー毎話のパロディ箇所は宮崎先生から杉田さんにお伝えしているんですか?
特に何も言っていないですね。杉田さんがチェックしてくれています。
オマージュの範囲に収まると判断する場合もありますが、基本的にガッツリのパロディは編集部内で許諾をいただいた上で進めさせていただいてます。
週刊連載なので、土日にネームが上がったりすると担当確認が休日にしなきゃだったり、かけられる時間も少なくて困ります。
この前も『バクマン。』をパロディしたネームが土日に上がってきて…。
担当編集、「ジャンプSQ.」の編集長だぞ〜ってなりました(苦笑)。
いつもありがとうございます。
ーー『僕とロボコ』のパロディは杉田さんに支えられているんですね。
最近はアシスタントさんが僕に黙って背景にパロディを仕込んだりするようになっちゃって。
杉田さんも、「なんかアシさんに任せた背景がパロってるけど大丈夫?」みたいな。
「パロディはそんな軽率にやっちゃダメだよ」って僕から注意しました。
なんか説得力がありませんね(笑)。
読者が盛り上げてくれるのが嬉しい
ーーそろそろお時間なので、最後に読者さんに向けてメッセージがあればお願いします。
いつも『僕とロボコ』を読んでくれてありがとうございます。本当に感謝しています。
個人的に、ギャグ作品のコミックスを買うのって結構ハードルが高い気がするんです。
だから、少しでも買ってよかったと思ってもらえるように、空きページは全部おまけを描くようにしています。
よかったらぜひ手にとってもらえると嬉しいです。
ぜひぜひよろしくお願いします!
あと、作中で結構たくさん詩を書いているんですけど…。芹沢岳もそうだし、ロボコの歌とか。
すげー頑張ってるんですけど、反応が全然ないんですよね。いい機会だから、みんなどう思っているのか教えてほしいです。
すげー大変だから、面白くないならもうやらないから!
僕が宮崎さんの描く詩とか歌詞が好きで「書いてよ」って頼むんですけど、全然話題にならないんですよね(笑)。
ロボコの歌に曲を付けてくれた読者さんがいたときは、めちゃくちゃ嬉しかったですね。
ロボコはSNSを中心に読者の方が盛り上げてくれることが多い幸運な作品なのですが、やっぱりそれは嬉しいですね。
あと、コスプレイヤーの方々にはぜひロボコのコスプレをして、一緒に『僕とロボコ』を盛り上げてほしいです。
コスプレしてほしくて公式アカウントでえなこさんに絡むんだけど、スルーされているんですよね(笑)。
ーーやり口が小ずるい!
最後に、パロディさせていただいている作者さんと出版社さんに対しては、本当に申し訳ない気持ちと感謝の気持ちを持っていることを改めてお伝えしておきます。
いつでも謝罪やお礼に伺うので、お問い合わせしてもらえれば。よろしくお願いします。
『僕とロボコ』既刊全4巻発売中!
ロボコとLINEで自由に会話しよう!
『僕とロボコ』連載1周年を記念して、「平ロボコ」リアルAI化プロジェクトが実現!QRコードからLINEで登録すると、ロボコとチャットで自由に会話ができちゃいます。
©宮崎周平/集英社
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